うちの仔が化け猫なんかのハズがない! ~兄猫と弟猫に溺愛されて学校生活が波乱です!~

武燈ラテ

第1話

 うらめしくも素晴らしい快晴だ。見上げれば、目に痛いほどに真っ青。まさに、心とは裏腹。


 とんでもなく晴れてしまったうららかな日に、ミチルはとぼとぼと足取り重く、ゆううつに家を出る。


 どしゃぶりになればよかったのに。


 そう重苦しい気持ちをかかえたまま家を出た、玄関先、すぐ。

 ミチルは、その人と出会った。


「さあ、学校に行こうか、ミチル」


 真っ青な空にも負けないほどのさわやかな笑顔をミチルに向けてきたのは、見知らぬお兄さんだった。


 それも、ミチルがびっくりして、思わずぽかんと見とれてしまうような外見をしている。


 真っ白な長い髪を背中に垂らしていて、腰のあたりにまで伸びた毛先だけを黒く染めている。それが、ほんの少し身動きをしたり、ミチルに話しかけるために軽くかがんだりするたびに、まるでアニメのキャラクターみたいにサラサラと、きれいな滝のようになびくのだ。


 背はとびきり高い。まわりの大人の誰よりも頭の位置が上にある。背が高い分だけ長い脚は、細くても運動神経がよさそうに形も整っていて、大またで踏みだす姿がとても様になっている。


 間違いなく、一度も見たことがない人だ。


「あ、あなた、だれデスカ?」


 ミチルは見とれていた自分をふりきり、必死になって声を出した。


 いくらカッコよくても、知らないお兄さんだ。

 知らない人に、ついていってはいけないのだ。


「いいから、いいから。中学校まで一緒に行くだけ」

「え、え、どういうこと?」

「学校まで送ったら、そのまま帰るから」

「あの、えっと……でも」


 知らない人は、にっこりと、人なつっこい顔で笑う。まるで、小さなころから仲良しだったかのように。


 切れ長の瞳が涼しげな美丈夫に、そうやって愛嬌たっぷりな表情を見せられると、ギャップのあまりにドキドキしてしまう。


「ミチルが心配だから、学校まで一緒に行くだけだよ」


 印象的な、はっきりした目が、笑うと線が一本引いてあるみたいに、すうっと細くなった。

 ミチルは、あれ?と首をかしげる。

 その顔に、なんだか見覚えがある気がしたのだ。


「さ、ミチル、行こうか」


 お兄さんはためらいもなく、ミチルの手を優しくにぎる。大きくて、少し骨ばっていて、でもあたたかい手だ。


 男の人に手をにぎられるなんて、ミチルは初めてだ。お父さんでも、親戚のおじさんでもなく、知らない人に。


「あ、あ、あ、あの、手!」


 ミチルは思わず、声をあげる。


「うん、なあに?」


 にこにこの笑顔は、とても楽しそう。幸せそうに笑うから、ミチルは大きな声で「ダメ」と言えない。

 混乱したまま、ミチルはそのお兄さんと一緒に登校することになってしまった。

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