第六話-SIDEガリウス-
「おい! 誰かあいつに宿教えたか!?」
「それはアンタがやる事ニャァァァァァ!!!」
「ふごぉぉぉぉぉぉぉ!」
痛ぇなこの駄猫…。
マルクが名前に釣られて『もふもふ宿』 なんかに行ってしまったらどうしたもんか。
気に入らない客の宿泊料はあとから倍額…最悪は五倍くらいは増額される。 あそこはぼったくりだ。
なんで摘発が入らないのか不思議なくらいだ。
「アンタの思う様な事にはならないニャ」
「は? なんでそう思うんだ。 お前は読心術でも持ってるのか? それとも魔法でも使ったか」
「馬鹿ニャ。 顔に書いてあるニャ」
「流石はSランク冒険者様だことで」
「嫌味かニャ? 元冒険者ニャ。 今はギルドの受付嬢…それに奴隷よ」
そう言って制服に隠していた隷属の首輪をチラつかせる。
「素の喋り方出てるぞ。 良いのか?」
「どうせ皆素性を知ってるわ。 いつかさっきの子も知るでしょうね。 それでも、新人さんの前では猫を被りたくなるものよ? なんたって私は…」
『猫だもの』 こいつの口癖だ。
潜入任務に失敗して、命からがらで逃げ帰ったこいつを追い詰めたのは任務失敗の罰則。
悪徳貴族からの依頼だったが故に報酬も大きい分、罰則も大きかった。
その時に俺やギルマスが知ってればどうにか出来たかもって気持ちは今でも持っている。
家事が出来ねぇ俺が奴隷を買おうと思ってたまたま入った奴隷商。 そいつ自体は真っ当だった。
だが、罰則を払えずに奴隷落ちさせられたこいつを見て、黙っている訳にはいかなかった。
獣人に関しては他の亜人族とは違い人類としての法が効かない。
それは獣、魔獣、魔物の血が流れているからだろう。
思い出すだけでも胸糞悪いったらありゃしない。
「アンタはあの子をどうするのよ」
「ここの領主や他に中の良い貴族や冒険者達と連携してあいつが変な所に取り込まれない様にして、様子見だ。 どっちにしろ、多分この国だったらタイマンであいつに勝てる奴居ねぇだろ」
「それもそうね。 あぁ、ちなみにもふもふ宿は悪い所じゃないわよ。 あそこの店主の従魔に嫌われたり、他の宿泊客の迷惑にならなければちゃんと優良店なの」
あぁ、だから報告を上げて来た冒険者達のほとんどが他の所からの流れ者だったのか。
だとしても、それは優良店って言って良いのか…誰かすぐ呼べよ。
「まぁ、従魔に嫌われる様な事はあいつなら絶対無いな」
「無いわ。 あの子、多分だけど私のこの首輪にも気付いていたくらいだから技量も相当。 それでいてテイマー。 あの子が主人の方が良かったニャ」
「急に猫被るな気色悪い。 あいつとお前が望むならいつでも権利を譲ってやるよ」
「…あっそ」
ぷいっとそっぽを向いてギルドの事務所内へと消えて行ってしまった。
俺が何かしたってのかよ。
「マスターって女心分かってないよな…」
「俺もそれ思ってた」
「おい、お前ら聞こえてるぞ。 ぶっ飛ばしてやるからこっち来い」
「「すいませんでしたああああああああ!!!」」
どうしてこのギルドはこんなやかましい奴ばっかりなんだ。
ま、あいつならやっていけそうだな。
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