第三話
大きな街と思われる所に着いた。
門の開く音が不愉快でないことからきっと手入れが行き届いていると分かる。
素晴らしい領主様なのだろう。
それとも職人の腕が良いのか?
いや、どちらにせよきっと素晴らしい街に違いない。
「少年よ、先ほども言ったがまずは身分証を冒険者ギルドで作って来てはくれないか? 盲目と知り、馬鹿にされる事もあるだろうがこの紋章を出して『ルインツァルトの紹介だ』 と伝えればスムーズに行くはずだ。 そして、宿は街の南の方にある『猫の踊り場』 という所に行って欲しい。 明日にでもそこに迎えを寄越すつもりだ。 こいつらの所業の証人となって欲しくてね」
ここまでして貰っておいて、これを断るわけにはいかない。
それに断ってしまえばデメリットの方が大きそうだ。
「分かりました。 『猫の踊り場』 も貴方のお名前を出せば分かりますか?」
「あぁ、もちろんさ! では、気を付けて行くのだぞ!」
「はい! ありがとうございました! また明日!」
そう言って会釈をし指示された方向へと向かって行く。
冒険者ギルドは音や臭いでなんとなく分かってしまう。
冒険者の騒ぐ声、魔物の素材の臭い、冒険者の汗の臭い…割と居心地が良いとは思えない。
受付は…事務的な女性の声の多いあちらだろうか。
そちらの方へと歩みを進めて行く。
すると、パッと喧騒が止んだ。
しかし、一人の男が声を出す。
「見ろよ。 目が見えてねぇのに腰に木剣を刺してやがる」
「ははっ! それにガキだから剣を買う金もねぇんだよ。 夢くらい見せてやれ」
豪快に笑い出す冒険者達。
「可哀想じゃない! きっと訳アリなのよ? アンタ達だってハグレ者じゃない!」
そう言う庇ってくれる声もある様だが…。
まぁ良い。
受付に行けば良いだろう。
「すみません。 冒険者登録をしたいのですが」
「! …失礼ですがどのような職なのでしょうか」
「五歳の洗礼では剣聖を賜りましたが、それでは冒険者にはなれないのでしょうか」
周囲はザワつきはじめた。
受付も困惑を隠せていない様だ。
「で、ですが、冒険者は危険が伴う仕事です。 目が見えないとなると…」
「そうですか…。 ルインツァルト様の紹介でも、駄目なのでしょうか? 不埒な輩を捕縛するのをお手伝いした際に縁が出来たのですが」
そう言って、預かった紋章を渡す。
「シュヴァルグラン家の紋章!!!??? か、畏まりました!!! すぐに冒険者登録をさせていただきます!」
ちょっと意地悪をし過ぎてしまった様だ。
これでは後味が悪くなってしまうな。
「出来ました! Dランク冒険者証になります! 貴族様の紹介がありますと、最低級からにはならずDランクスタートになります…。 依頼の受け方なのですが…。 目が見えないと言う事で異例ですが、受付で紹介させて頂きます!」
「それは良かったです。 今日はもう宿の方に行って休みます。 明日はやる事があるので、依頼を受けるのは明後日以降になると思います」
「か、畏まりました!」
そう言って俺は冒険者ギルドを後にしようとする。
その瞬間、明らかな敵意を感じ、俺は即座に反応してそこに最速の切り込みをする。
無論寸止めだ。
「わ、わりぃ。 ちょっと試しただけだ! 悪気はねぇ。 ほんとだ。 俺はルッツっていうCランク冒険者だ、気に障ったならすまねぇ」
「いや、謝意は受け取ったから良い。 次は気を付けてくれ。 人より敏感なんだ」
そのまま俺はその場を去っていった。
俺が宿の方角に歩いて行ってもギルドはずっと無音だった。
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