第47話 マジで何の天職だ

 火花を散らし合うルイスと女騎士団長のアンジュ。


「おい馬鹿っ、なに意地張ってんだよ!?」

「団長を怒らせたら無事じゃ済まねぇぞ!」

「早く謝ってここから逃げろ!」


 周りの騎士たちが必死に説得しようとするも、ルイスはまったく応じない。


「お前の方こそ謝れ! もちろん俺にじゃなくて、作物たちにな!」

「うるせぇ、いい加減に黙らねぇと、あの作物と同じ目になるぞ、ゴラ!」


 アンジェは火花どころか、身体から炎を燃え盛らせていた。

 そして地面を蹴ると、ルイスに躍りかかった。


「き、騎士団長の天職は【炎拳王】だっ! 超高熱の炎に覆われたあの拳に殴られたら、あっという間に肉が炭化しちまうぞ!」

「しかもかつて王都の近衛騎士団で、史上最年少にして隊長になった化け物だ! あいつが何者かは知らないが、万に一つも勝ち目はねぇ!」


 騎士たちが思わず叫ぶ中、ルイスはカボチャの盾を取り出し、アンジュの拳を受け止める。


「っ、オレ様の攻撃を防ぎやがった!? それに何だ、この硬くてでけぇカボチャは!? どこから出した!?」


 カボチャの表面が瞬く間に炭になって崩れていくが、しかしその前にルイスはカボチャから手を離すと、自らそれを蹴り飛ばす。


「なにっ? ……がっ?」


 至近距離から飛んできたカボチャを、まともに喰らったアンジュ。

 しかもかなりの威力で、二、三メートルほど吹っ飛ばされ、地面を転がってしまう。


「「「騎士団長!?」」」


 予想外の展開に騎士たちが驚く中、ルイスは次の手を打っていた。


「っ、動けねぇ?」


 土を操作し、アンジュの手足を拘束したのである。

 さらに限界まで固めることで、人間の力では脱出ができないようにしてみせた。


「謝ればその拘束を解いてやってもいい。そうでなければ、ずっとそのままだ」

「うるせぇっ、こんなものでオレ様を止められるとでも思ってんのかよっ!」


 直後、アンジュが猛烈な炎を全身から発することで、土の拘束具が真っ赤に赤熱し、どろりと溶け出した。

 融解を始めたのだ。


 そうしてあっさり拘束から抜け出てしまう。


「しかしお前、何者だ? 天職がまったく分からねぇ……まぁ、ぶっ倒してから、じっくりと聞き出してやるとするか!」


 再び飛びかかってくるアンジュ。

 ルイスはまたカボチャの盾を構えたが、


「同じ手は喰わねぇよ!」


 アンジュがそれを下から思い切り蹴り上げてきた。

 思わずそれを手放してしまい、カボチャが宙を舞う。


「~~~~っ、硬くて重すぎだろ、このカボチャ!? 岩か!? だが、お陰でお前は丸腰だ!」


 だがアンジュの拳が放たれる前に、ルイスはカボチャを追って上へと跳躍していた。

 いや、跳躍どころではない。


 風を操り、そのまま空を舞ったのだ。


「空を飛べるのか!? マジで何の天職だ!?」

「槍ニンジン」


 そして空から槍のごときニンジンを、アンジュ目がけて投げつける。


「あぶねぇっ!?」


 間一髪でそれを避けるアンジュ。


「何だこの槍は!? どこから出てきた!? しかもこれ本当に槍か!?」

「槍ニンジンだ」

「いや知らねぇよ!」


 そのまま制空権を支配しながら、ルイスは次々と槍ニンジンを投げていく。

 アンジュはその悉くを躱していたが、


「っ、いねぇ!?」


 回避に気を取られた一瞬の隙に、ルイスの姿を見失ってしまっていた。


「だが……後ろだっ!」


 気配を感じ取ったアンジュが、渾身の後ろ回し蹴りを繰り出す。


 ズドンッ!!


 手応えあり、と思ったアンジュだったが、蹴りを叩き込んだそれは、地面から生えてきた土人形だった。


「こっちだ」

「っ!?」


 背後から声。

 アンジュは即座に反応するも、ルイスが手にした巨大な大根を彼女に叩きつける方が早かった。


 ドオオオオオオオンッ!!


「ああああああああっ!?」


 巨大なハンマーのような大根に殴打され、アンジュの身体が吹き飛ばされる。

 そのまま何度か地面をバウンドしながら転がり、ようやく止まったときには、白目を剥いて気を失っていた。


「嘘だろ……」

「あの騎士団長が……」

「……負け、た?」


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