第20話 その前に

 ダンジョンの最奥を目指して進むルイス一行。

 そんな彼らの前に立ち塞がったのは、ミノタウロスに匹敵する凶悪な魔物たちだったが――




「虎の身体に人間の顔っ……危険度Cのマンティコアっす!?」

「気を付けてくださいまし! あの尾の先端の瘤に毒針が付いていますわ! 掠っただけで動けなくなる猛毒ですの!」

「よっと」


 グシャッ!!


「「「瞬殺……」」」






「鷲の上半身と獅子の下半身……っ! 今度は危険度Cのグリフォンだ!」

「くっ……空から攻撃してくる強敵ですわっ! さすがにルイスの鍬も、あれじゃ届かないかも……」

「よっと」


 グシャッ!!


「「「土を足場にして……また瞬殺……」」」






「こいつは危険度Dのリザードマン……? いや、あの銀色の身体っ……危険度Cのメタルリザードマンっすっ!」

「普通のリザードマンも硬い鱗を持ちますけど、メタルリザードマンの鱗は金属並みの硬さと言われていますわ……っ! 大抵の武器が通じず、魔法でなければ倒せない魔物ですの……っ!」

「よっと」


 グシャッ!!


「「「そんなの関係なく……瞬殺……」」」






 ――ルイスはその悉くを、鍬の一撃で仕留めていった。

 しかもこの鍬を喰らった魔物は、その身体が粉々になり、ルイスが引き連れている畑の栄養素にされていく。


「……あの鍬、めちゃくちゃ怖いっす」

「う、うん……彼があれを振るうときは絶対に離れていないといけないね……」


 だがそんなルイスの活躍があっても、決して探索は順調とは言い難かった。

 というのも、やはりコルットが幾度となくトラップを踏んでしまうのである。


「壁が消失して、魔物が溢れてきたっすうううっ!?」

「ごごご、ごめんなさいいいいいっ!」


 あるときは二十体を超える魔物が一気に押し寄せてきて、一行は大ピンチに。


「くっ、この数じゃ、さすがのルイスも捌き切れない……っ! 危険度Cの魔物相手に、僕たちがどこまでやれるか分からないけれど……っ!」


 慌てて剣と盾を構え、戦う覚悟をするジーク。

 そのときルイスの畑が動き出したかと思うと、彼らを取り囲む土の壁となった。


「これは……っ!?」

「この中なら比較的安全に戦えると思うぞ」


 土壁には、ジークが剣を通したり、エリザやリオが魔法を放ったりするのに、ちょうどいいサイズの隙間が所々にあった。

 一方、襲い掛かってくるのは大型の魔物ばかりなので、この隙間から攻撃してくるのは難しいだろう。


「簡易的な要塞ってわけっすね!」

「これは便利ですわ!」


 先陣を切って突進してきたミノタウロスが、土壁に激突して跳ね返される。

 どうやら強度も申し分ないようだ。


「ファイアボール!」

「ブモオオオッ!?」


 すかさずジークが放った炎が、そのミノタウロスに直撃した。


 もちろんルイスにそんな防壁など必要ないので、単身魔物の群れに飛び込んで、豪快に鍬を振り回していく。

 そのたびに魔物の身体が分解されていった。


「……どうにか片付いたな」


 やがて魔物を全滅させ、ルイスは一息つく。

 土の要塞を元の畑に戻すと、畑を動かし、あちこちに散らばった魔物の養分を回収していった。


「なんか、土の量が一気に多くなったっすね……」

「あれだけの大型の魔物を吸収したわけだからね……」


 養分を吸収した分、畑の土も増加するのだ。

 面積的にはすでに千平方メートルくらいはあるだろうか。


 さらに魔物を吸収させながら探索を続けた彼らは、ついにその場所へと辿り着いた。


「巨大な扉……間違いありませんわ。この向こうにダンジョンのボスがいるはずですの」

「この溢れ出してくるような異様な威圧感っ……扉の先にいるのは明らかに普通の魔物じゃないっすよ……っ!」


 ボスのいる部屋へと続く扉の前で、緊張の面持ちを浮かべる一行。


「ひ、引き返すなら今ですよ……? 中に入ったら最後……ボスを倒すか死ぬまで、外に出ることはできないって聞いてますし……」

「いや、先に進もう。引き返したらまたトラップ地獄が待ってる」

「そうっすね。さすがに戻りたくないっす」


 コルットの提案は一蹴された。


「じゃあ扉を開けるぞ。……と、その前に」


 ルイスは亜空間からあるものを取り出す。


「リンゴとミカンっすか……? なるほど、ボス戦前に腹ごしらえってことっすね?」

「いや、リンゴは体力を回復させてくれて、ミカンは魔力を回復させてくれるんだ」

「まさかの回復アイテム!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る