第15話 これは投擲用の大根だ

「「「いや、特技なしでも普通に戦えるんか~~~~いっ!!」」」


 仲間たちの叫び声がダンジョン内で反響した。


「農作業でそれなりに身体を鍛えたからな」

「農作業で鍛えたレベルじゃないっすよ!」

「そうか? まぁでも、所詮はゴブリンだし」

「ゴブリンがいくら弱い魔物だからって、片手で首を握り潰すとか、普通できないと思うよ……」


 巨大な野菜を片手で収穫しまくっていたことで、ルイスは途轍もない握力を持つようになっていたのである。


「ルイスさん、特技なしでも普通に強かったんですね……てっきり、ダンジョンだと何の役にも立たない人なのだとばかり……」


 相変わらず酷いことを言いつつ、手のひらを返してくるコルット。

 ちなみに前方から来ていたゴブリンたちは、仲間が瞬殺されるのを見て、慌てて逃げ去ってしまった。


「と、ともかく、これならルイスにしんがりを任せられそうだね。ダンジョンの場合、今みたいに後ろから魔物が襲い掛かってくることもあるから」

「そうだな。後方は任せてくれ」


 そうしてルイスを最後尾に配置し、探索を再開する一行。


「だけど、どうして急に特技を使えなくなったんすかね?」

「恐らくだけれど、ここがダンジョンの中だからだと思う」

「どういうことだ、ジーク?」

「うーん、僕も詳しくは分からないから、的確な説明じゃないかもだけど……ダンジョンの中のものは、ダンジョンに支配権があるんだと思う。空気も、地面もね。だからそれを操作しようとしたら、抵抗されてしまうんじゃないかな」

「……なるほど」


 ジークの説明は、ルイスの感覚的にも納得できるものだった。

 確かに〝抵抗されている〟感じがするのだ。


「だから魔法とか、自分で発生させる類のものは問題なく使えるはずだよ」

「確かに、おれの魔法は普通に使えるっす!」

「俺も保管庫はちゃんと使えるな」


 亜空間から野菜を取り出してみせるルイス。

 と、そのときである。


 がこん。


 そんな音と共に、コルットが「あ」と声を漏らす。


「どうしたっすか? って……なんか踏んでるっす!?」

「す、すいません……踏んじゃいました……」


 消え入りそうな声で謝るコルットの足の下には、スイッチのようなものがあった。


「どう考えてもトラップ発動のスイッチだよね……」


 ズゴゴゴゴゴゴ……。


「何か遠くから地響きのようなものが聞こえるな」

「……嫌な予感しかしないっす」

「で、でも大丈夫。ここはまだ地下一階っすから。トラップといっても、せいぜい可愛らしいものしか……」


 次の瞬間、前方から通路全体を塞ぐほどの巨大な球が、こちらに転がってくるのが見えた。


「あれのどこが可愛らしいものっすかああああっ!?」

「くっ、近くの横穴に避難するんだ!」


 慌てて駆け出す一行。

 背後から猛スピードで巨球が迫ってくる。


「横穴ぜんぜんないっす! このままじゃ潰されるっすよ!」

「だ、大丈夫っ! 確かもう少し先に横穴があったはず……っ!」

「もうすぐ後ろまで来てるっすうっ! ここで転んだら一巻の終わりっすよっ!」

「ぎゃっ!?」

「って、言ってる傍から転んだああああああっす!?」


 足元の段差に躓き、盛大に転んだのはコルットだ。


「何やってるっすか!?」

「ごごご、ごめんなさぁぁぁいっ! あたしのことは放っておいて、皆さんは逃げてくださぁぁぁいっ!」


 どうにか身を起こすコルットだったが、もはや横穴まで間に合わない。


「……仕方ありませんわね」


 試験官のエリザが対処しようとした、そのとき。


「よいしょ」


 ルイスが亜空間から巨大な大根を取り出した。


「え、何その大根!?」

「デカすぎっす!? ていうか、こんなときに何やってるっすか!?」

「せーのっ!」


 そんな掛け声とともに、巨大な大根を全力で放り投げるルイス。

 しかも高速回転しながら飛んでいったそれは、ちょうど巨球のすぐ手前の地面に突き刺さった。


 直後、巨球と大根が勢いよく激突する。

 普通の大根なら軽くぺちゃんこにされて終わりだっただろうが、その大根は僅かに潰れただけだった。


「と、止まりまし、た……?」


 大根のお陰で巨球が停止し、コルットが安堵の息を吐く。


「な、な、何なんすか、この大根は!?」

「これは投擲用の大根だ」

「「「投擲用の大根???」」」


 聞き慣れない言葉に、三人そろって首を傾げる。


「そんなの聞いたことないんだけど……」

「こういうこともあろうかと、普通の大根より硬いものを栽培しておいたんだ」

「ほ、ほんとっす、これ、めちゃくちゃ硬いっす……っ!」

「硬さよりも、僕は大きさの方が気になるよ……これもその、投擲用に大きく作ったの?」

「いや、サイズに関しては、食用でもこれくらいは普通に作るぞ」

「「「…………」」」

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