農民レベル99 天候と大地を操り世界最強
九頭七尾(くずしちお)
第1話 戦士になれるかな
この世界には、神々に選ばれし者たちだけが授かれる〝天職〟というものがある。
天職を得ると、人類を脅かす様々な脅威と戦うための特別な力を持つようになる。
彼らは〝戦士〟と呼ばれ、人々の希望として持て囃されていた。
「おおきくなったら、ぼくも、戦士になれるかな?」
辺境の小村に生まれた少年ルイスは、多くの子供たちと同様、そんな夢を抱いていた。
そして十二歳のとき、ほとんどの子供たちが天職を与えられない中にあって、幸運にも戦士の予兆とされる特別な紋章が、彼の腕へと浮かび上がってくる。
「こんなド田舎の村に、神々に選ばれる者が誕生するなんて!」
「今夜は宴だああああっ!!」
村は大いに沸いた。
誰もがルイスを祝い、その輝かしい未来を期待した。
それから三年後、彼は村人たちに盛大に送り出され、村を出発した。
実際に天職を授かるためには、都会にある教会で祝福を受けなければならないのだ。
各地から集まってきた戦士候補たち。
彼らが順番に祝福を受けていく中、ついにルイスの番がやってきた。
「君の天職は……【農民】だ」
天職には様々な種類がある。
だがそれを授かった者たちが戦士と呼ばれている通り、必ず戦いに役立つ類のものだ。
例えば圧倒的な剣技で敵を打ち倒す【剣豪】だったり。
例えば赤系統の魔法を極める【赤魔導師】だったり。
例えば治癒と近接戦闘の両方をこなせる【パラディン】だったり。
例えば暗殺などを得意とする【アサシン】だったり。
戦いへの貢献の仕方はそれぞれだが、非戦闘系の天職などあり得ない。
……はずだった。
【農民】は史上初となる、唯一の例外。
戦士になりたいというルイスの夢は、あっさりと潰えた。
村に戻った彼は、その悲しみの記憶を忘れようとするかのように、ひたすら農作業に没頭。
それから十二年の歳月が過ぎ――
「この辺りの大根はそろそろ収穫できそうだ」
二十七歳となったルイスは、目の前の大根を
日々の農作業のお陰か、精悍な身体つきをした立派な青年へと成長を遂げている。
「よっと」
ルイスは近くの大根を片手で掴むと、そのまま引っ張り上げた。
土の奥深くまで埋まっていた大根の全貌が露わになる。
それは全長およそ二メートル、直径は太いところで七十センチ強という、化け物のような大根だった。
「うんうん、なかなか良い感じに育ってるな」
巨大なのはその一本だけではない。
その一帯にできた大根はどれもこれも、人間の大人を凌駕する大きさなのだ。
大きいだけあって、重量も相当なものがあるだろう。
にもかかわらず、ルイスは片手でひょいひょいと抜いていく。
百本以上あった巨大な大根を、あっという間に収穫し終えてしまったのだった。
無論、ルイスが作っているのは大根だけではない。
ジャガイモや玉ねぎ、トマト、カボチャ、ネギ、ピーマン、ナス、キャベツ、白菜など、色々な野菜を生産している。
そのどれもが巨大で、当然ながらルイス一人ではもちろん、彼の住むこの村だけでは到底、消費し切れない。
ゆえに周辺の村々、いや、遠くの村や街にまで運ばれて、大勢の人々の胃袋を満たしていた。
しかも、ルイスはたった一人ですべての農作業を行っているのだ。
――時には作物を狙う魔物を駆除することもあった。
「っ……魔物か」
魔物の侵入を察知したルイスは、地面を蹴って凄まじい速度で跳躍した。
農地全体を見渡せる高さまで飛び上がった彼は、すぐに魔物の姿を捉える。
「あいつだな」
直後、猛烈な風が吹いた。
それに後押しされるように、ルイスは空を飛翔して一気にその魔物のもとへ。
そこにいたのは全長五メートルを超える猪の魔物だ。
「おら」
ドオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
ルイスの拳が、轟音と共に巨大猪の脳天に叩き込まれる。
「~~~~~~~~~~~~ッ!?」
食べ物に夢中でルイスの接近にすら気づいていなかった巨大猪は、一撃で地面に沈んだ。
ちなみにこの巨大猪、グレートボアと呼ばれ、出現すれば村中が大パニックに陥るような危険な魔物なのだが……。
「よしよし、今夜は猪鍋だ」
そんなことなど露知らず、ただ美味しい肉が手に入ったことを喜ぶルイスだった。
ところで天職には、すべからず〝レベル〟というものがある。
その種類に応じた訓練や実戦を行うことでレベルが上昇し、より強力な戦士へと成長していくことができるのだが。
十二年間、朝から晩まで農作業を続けてきたルイスはというと。
――【農民】レベル99。
レベルがカンストしてしまっていた。
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