第20話
「そんなもの必要ありません!さあお付き合いしてくれるんですよね?」
「ごめんなさい。今は誰ともおつき合いするつもりは無いんです」
はっきりと言い切るとようやく離してくれたのであった。しかし今度は腕を組んで密着してきたのだ。「う~ん困りましたね……このまま諦めるつもりはないのですが……」
そんな事をぶつくさ呟いている姿を見ながらため息をつくしかなかったのである。
(これ完全に詰み状態じゃないか……)
そんな事を考えながら途方に暮れているとある事に気づいた。
(あれ?こんな所に路地なんてあっただろうか?おかしい、明らかに今まで通ってきた道とは違う気がするのに……)
疑問に思いながらもさらに進んでいくと見覚えのある建物が視界に入ってしまった。
「あれはまさか宿屋?」
そう、そこは昨日泊まったばかりの宿があったのであった。
「え?どうしてここに?確か別の場所に移動したはずなのに……」
「ふふ、お兄さんもまだまだ甘いですね?私の幻術は完璧です。一度見た場所なら簡単に再現出来てしまうのですよ」
「なるほど……つまり俺達はまんまとおびき出されたと言うことか」
「そういうことです。さあ観念してください」
「悪いけどそれは無理だ。まだやる事が残っているし何よりも君の気持ちに応えることは出来ない」
「どうしてもですか?」
「ああ、例え君がどれだけ魅力的であっても断るよ」
「そうですか……残念だけど仕方がないわね。でも私は諦めないから覚悟していてくださいね?」
「はぁ……」
(これはまた厄介な相手に好かれてしまったな……これから先ずっと追いかけられるのか……先が思い遣られてしまうな……まあなんとか頑張るか……)
こうして俺は再びこの街に戻ってきてしまい更にとんでもない相手に目をつけられて今後の対策に頭を悩ませる事になったのである。
「それじゃあ早速始めようか?」
「あの……本当にやるの?」
「当たり前だろう?」
「いやまあそうなんだけどさ……もう少し優しくしてくれても……」
「却下します!さあ始めるわよ?」
「はい……分かりました……」
目の前にいる女性に逆らえないと感じたので渋々従うことにしたのであった。そして俺達の戦い(?)が始まったのである。………………………….. どれくらい時間が経ったのであろう。未だに勝負がつく気配はなかった。というのも俺の攻撃は全て防がれているからである。
「ねえそろそろ降参したらどうかしら?」
「そういうわけにはいかないんだよ。約束したからな!」
そう言いながら剣を振り下ろすと彼女はあっさりと避けて後ろへと下がったのだった。
「ふう……なかなかやりますね。でも次はこちらの番よ!」
そう言って彼女はいきなり突っ込んできた。咄嵯に反応して受け止めようとしたが一瞬遅かったようで脇腹を切りつけられてしまったのだ。
「ぐっ……」
痛みに耐えきれず膝をついてしまった。すると追い打ちをかけるかのように蹴り飛ばされたのである。
「これで終わりかしら?もう諦めたらどうです?」
「誰が……負けるもん……かい!!」
必死に立ち上がって斬りかかろうとしたのだが次の瞬間地面に叩きつけられたのである。どうやら踏み潰されそうになったようだ。
「あら?しぶといわね。早く楽になりなさい!!」
そう言うなり何度も蹴られたので意識が飛びそうになっていた。それでもなお抵抗しようとしたが遂に限界が訪れて倒れ込んでしまった。そして薄れゆく意識の中で最後に聞こえてきたのは彼女の声であった。
「さてと目的は果たしたからもう用済みね。さよなら」
そして首元に手刀を叩き込まれとうとう気を失ってしまったのである。……. 次に目が覚めた時には見慣れた天井が広がっていた。
(ここは……そうだ!!あいつに殺されかけたんだ!!急いで逃げないと!!)
慌てて起き上がろうとするのだが体が動かない。よく見ると何かに拘束されているような感じだった。そこでようやく自分がベッドに寝ていることに気づいて視線だけ動かしてみると隣では彼女が眠っていたのだ。しかもなぜか裸の状態で……。
「えっと……なんでこうなっているのかな?全く記憶が無いぞ!?」
パニックになっているとその声で目をさましてしまったようである。
「おはようございます。体は大丈夫ですか?」
「いや全然平気じゃないんですけど?それよりもこの状況を説明してくれる?」
「はい!もちろんです!!」
それから彼女による説明を受けたのである。なんでも昨日の戦いでかなり消耗していたらしくそのまま気絶したので仕方なく連れ帰って治療を施したらしい。ちなみに服を脱がせたのは治療のためであり決して下心などは無かったとの事だ。
「事情は分かった。それで何故君は俺と一緒にいるんだ?」
「そんなの決まっているではありませんか。あなたをお慕いしているという理由以外にありますか?」
その言葉を聞いた瞬間全身がゾクッとした感覚に襲われたのである。
(おいちょっと待ってくれ。そんなこと言われたって困ってしまうじゃないか!そもそもどうしてここまで執着してくるのかさっぱり理解出来ないし……)
頭を抱えながら考え込んでいるとある事に気づいたのだ。
(あれ?そういえばどうして名前を知っているんだろうか?教えた覚えはないんだけど……)
不思議に思っていると彼女は笑顔を浮かべたまま答えてくれた。
「ふふ、驚いていますよね?実は私あなたの事について色々と調べさせて頂いたんですよ」
「ええええええ~~~!!!!」
思わず大声で叫んでしまいすぐに口を押さえると小声で話し始めた。
「一体どうやって知ったのか教えてくれないか?」
「別に難しい事ではないですよ?ただギルドに行って職員の方達に尋ねればすぐです」
「なるほど……しかしそこまでして俺なんかを追いかけてくるなんて余程の物好きだな」
「いえ、それは違います」
突然真顔になった彼女に戸惑ってしまった。
「私は好きでもない人にこんな事をする程馬鹿じゃありませんよ?」
「そうなのか?」
「はい、なので私は本気です」
そう言って抱きつかれたのである。
(うーむ……正直こういう経験は初めてだからどうすれば良いのか分からないな……)
内心ドキドキしながらもとりあえず落ち着かせるために背中をさすったのであった。……………………
しばらくすると彼女は満足したように離れていった。
「ところでお兄さんの名前を教えてください。いつまでもお兄さんと呼ぶのも不便でしょうし……」
「ああ確かにそうだね。俺はローランド・ベンドリンガーだよ。よろしく頼むよ。あとお姉さんの名前は?」
「私の事はフローラと呼んでくださいね。それと敬語じゃなくて普通に接して欲しいのですが良いでしょうか?」
「まあそれくらいなら構わないよ」
「ありがとうございます。これから末永くお願いしますね?」
こうして俺達は恋人同士(仮)となったのであった。………………………………
「なぁ一つ聞いても良いか?さっきの話だと冒険者になったのはつい最近だって言っていたがいつ頃なったんだ?」
「えっとですね……確か一ヶ月位前だったと思いますよ」
「へぇそうなんだ……てっきりずっと前からやっていたと思っていたよ」
何気ない会話をしていると急に真剣そうな表情になって質問してきた。
「あの……もし良かったら私がどんな依頼をこなしていたかご存知ですか?」
「ごめん……知らないんだよ……」
そう答えると彼女は少し残念そうにしながら語り始めたのである。
「そう……ですか……実はこの依頼を受けていました」
そう言って見せてきた紙には『人探し』と書かれているようだったので詳しく聞くことにした。
「これはどういう内容なんだ?」
すると悲しげな雰囲気のまま説明してくれたのである。どうやら行方不明の兄を探してほしいという内容の依頼を何度も受けていたという。そして遂には手がかりを見つけることが出来ず諦めかけていたところに俺が現れたということらしい。
「そういうことだったのか。でも俺みたいな初心者でランクの低い奴よりベテランの冒険者に頼んだ方が効率が良くなかったか?」
素朴な疑問をぶつけてみると彼女は首を横に振ってきた。
「最初はそうしようと考えましたが無理だと思い直しました」
「なぜだい?何か問題でもあったのかい?」
その問いに対してゆっくりとだがはっきりと答えたのである。「はい……実はこの街に来た時から何度か探そうとしたことがあるんです。ですがその度に妨害されて結局何も出来なかったんですよ」
「まさか……君に嫌がらせをしていた人達の仕業なのか!?」
「おそらくそうだと思われます。一応何人か思い当たる節はあるので……」
「そっか……やっぱり君の力になれなかったことは申し訳なく思うよ」
俺の言葉を聞くなり慌てて否定し始めたのだ。そして涙目になりながら訴えかけてきたのである。
「いいえいいえ!!そんなことは無いですよ!!むしろ感謝しています!!それに今はあなたが居てくれるだけで十分ですから!!」
あまりにも必死になっていたため逆にこっちの方が困惑してしまった。そこで気を取り直すと彼女の頭を優しく撫でたのであった。
「分かった分かった。とりあえず落ち着いてくれ」
「あっすみません!またやってしまいました!」
ようやく落ち着きを取り戻したようでホッとしているとそのタイミングを見計らってか扉がノックされた。
コンッコンッ!ガチャ……キィー……バタン!!!
(今誰か入ってきたような気がしたが……)
そう思って振り返ろうとした時、目の前の彼女がなぜか不機嫌そうにしていることに気づいたのだ。まるで先ほどのやり取りを見られたくないような素振りを見せているように思えたのである。(一体誰が来たんだろうか?)
不思議に思っていたその時、再びドアが開かれ今度は三人の少女達が部屋に入って来たのであった。
「失礼しま~す!ってあれれ?お邪魔しちゃいましたか~?」
「あら本当だわ~!若いって素晴らしい事だと思うけどもう少し空気を読んで欲しいものよね?」
「ちょっちょっと二人とも何を言っているのかしら?そんなんじゃ無いと思うんだけど?」
いきなり現れた少女達に戸惑いながらもなんとか返事をすることが出来た。
「えっと君は確か昨日ギルドにいた子達だよな?」
俺の記憶通りならば昨日の受付嬢のマリナさんと一緒にいた三人組のうちの2人であったはずだ。
ちなみに残りの1人は背の高い赤髪の女性だったが今日は見かけていない。
「うん正解です~♪改めましてこんにちは~!!」
「ふふ、元気な娘ね」
「それで私達の自己紹介がまだだけど先にそちらの女の子にしてもらった方が良いんじゃないかな?」
「それもそうね。では私から行かせてもらうわね」
そう言うと一歩前に出てきてスカートの端を持ち上げるとお辞儀をしながら挨拶をした。
「初めまして私の名前はジュエリ・サマリーと言います。年齢は16歳よ。これからよろしくお願いするわね。あと私のことは気軽にジュリーと呼んでくれるかしら?」
次に出てきたのは金髪碧眼のスタイル抜群で美人なお姉さんだった。しかも胸も大きいのでつい視線がいってしまうほどである。
「次は私の番ですね。私はレイ・ヴェスといいます。15歳ですが年下なのでタメ口でも全然構いませんからね?それともし良かったら仲良くしてくれるとありがたいかな?」
続いて出て来た子は栗色の髪をポニーテールにした活発そうな印象を受ける可愛らしい美少女だった。
「最後はわたしですね。名前はブレイブナ・ベーターと申します。皆さんからはルナと呼ばれています。13歳のまだまだ未熟者ですがこれから一緒に頑張っていきましょうね?」
こうして3人の自己紹介が終わったところで改めて名前を確認するとやはり全員女性だったようだ。しかし何故ここにやって来たのかという疑問が残る。するとこちらの考えを読み取ったかのように説明を始めた。
「ああそういえばまだ言っていなかったわね。実は私達は皆同じ孤児院の出身だから家族みたいなもので仲が良いのよ」
「そうなんです!私たちはもう大の親友同士なんですよ!!」
「ええそうですね。ですが最近はそれぞれ仕事が増えてきたせいでなかなか会えなかったのですけど……」
どうやら彼女たちはここで再会したので折角だし昼食でも食べに行こうということになったらしい。
「そういうわけでせっかくのデート中に悪いとは思ったんだけど貴方にも声をかけようと思ったのよ。どうかしら?良かったら一緒についてきてくれない?」
「それは別に構わないが……その……君たちは大丈夫なのか?」
「ん?どういう意味でしょうか?」
「いやその……俺なんかがついて行っても良いのかと思ってさ」
「そんなこと気にしないでください!むしろ先輩が来てくれた方が心強いですから」
「そうよ。それに変に気を使わなくて良いのよ?だって私たちのパーティーは……」
「はいストップ!そこまでですよ!」
突然の乱入者に驚いているとその張本人は笑顔で話しかけてきたのである。
「ダメじゃないですか!勝手に抜け駆けなんてして……それにあなた方にはちゃんと目的があるはずでしょう?」
「うぅ~ごめんなさい~」
「悪かったと思っているわ」
「本当にすみませんでした」
3人が謝罪している姿を見て俺はますます混乱していた。
(一体何の話をしているんだ?)
すると今度は俺の方を見て話し始めたのである。
「すみません!この人ったら鈍感で全く気付いていないんですよ!なのではっきりと言ってあげてください!」
「えぇ~!そんなこと言わなくてもいいじゃないか!」
彼女は頬を膨らませて怒っている様子だが正直可愛いだけだと思っていたら他の人達も同じことを思っていたようで苦笑いを浮かべていたのであった。
「あの……そろそろいいかしら?早くしないと混み合っちゃいますよ?」
「あぁそうだね!ほら君たちも行くぞ?」
そう言って歩き出したのだが何故か彼女だけは動こうとしなかったので不思議に思い振り返るとなぜか俯いていたのだ。そして何かブツブツと言っているのである。
(一体何を言っているんだ?)
不思議に思い近づこうとすると急に顔を上げたかと思うととんでもない発言をしてきたのであった。
「わっ私も連れていって下さい!!絶対に離れないから覚悟していてよね!!!」
「……へっ!?それってまさか告白!!?」
あまりの出来事に思わず間抜けた返事になってしまったものの慌てて否定しようとしたところ、目の前の少女の顔を見ると耳まで真っ赤になっていることに気づいたのだった。(えっとこれってもしかしたらマジな奴なんじゃ無いのか?だとしたらどうすればいいんだよ~!!!)
困り果てている俺を他所に今度はジュエリさんが近づいてきた。
「あらあらこれはまた随分と大胆ねぇ~」
「ふふふ、ジュエリさんはやっぱりお姉さんタイプなんですね?」
「ちょ、ちょっと二人ともからかわないでくれよ~」
「ふふふ、そんなつもりは無かったんだけどね」
「はい!ただちょっと羨ましかっただけなんです。だから私達にもチャンスはあると思いますよ?」
「ええもちろんよ。ライバルは多いかもしれないけれど負ける訳にはいかないものね?」
「はいっ頑張ります!!」
二人はそう言うなりお互いの手を取り合っていた。
一応神官やってます。皆さんからはルナと呼ばれています。よろしくお願いします!」
「最後は私ですね。名前はリス・ロンと言います。年齢は16歳の魔法使いです。よろしくお願いいたしましゅ!」
緊張のせいなのか最後の方は盛大に噛んでいたが誰もそこには触れずに優しく微笑んでいるだけだった。
「さっきから黙っていてすまない。俺の名前はアベル・グリードだ。冒険者をやっておりランクはB級だ。ちなみに年は20歳で身長はこれくらいだったはずだ」
すると彼は背の高さを示しながら自己紹介してくれたのだった。
「これで自己紹介は終わりましたね!では早速行きましょうか?」
こうして俺たちは食事に向かうことにしたのである。
しかしそこで問題が発生したのだった。それは店までの道が分からないということである。なので仕方なく案内してもらうことにしてもらったのだった。
「そういえばここに来た目的はご飯を食べるためだったんですけど実はもう一つあるんです!!」
「そうなんです。実は私達は皆ここで働いているんです。だから今日はその人たちを紹介しようと思いまして……」
「なにせ私達は家族のようなものですから」
どうやら彼女たちはこの店で働いており休憩時間に抜け出してきたらしい。そのため本来なら仕事に戻る時間なのだが今回は特別に許可をもらったようだ。
「あっ見えてきましたよ!あそこのお店が私の職場で『かえる亭』っていう食堂兼宿屋なんだ。今度一緒に来てみてよ!」
ブレイブナさんの指差した先にはかなり大きな建物があった。
「ブレイブナの料理はとても美味しいんですよ?機会があれば是非食べに来てくださいね?」
「うん!楽しみにしているわ」
(ブレイブナさんが作るのか……確かに見た目通り元気いっぱいの子みたいだしきっと楽しい食卓になるだろうな。でもそれだけじゃなく周りの人のこともしっかり見ていて気配りが出来る子でもあるから意外とお客からも人気が出そうだよな)
3人ともとても楽しげに話しておりその姿を見ているだけでこっちまで楽しくなってきたのである。
「着いたよ!ささ入って入ろう!」
そう言われ中に入るとかなり賑わっていた。「いらっしゃい!おっ久々じゃないか!」
奥から出て来たのは大きな体格をしたおじさんでおそらくこの人が店主だと思う。
「マスター!こんにちわ!!」
「おう!お前らも相変わらず仲が良いな!」
「えへへ~それほどでもないですよ!」
「そんな事より早く席を用意してくれないかしら?」
「ああ分かった!ところでそいつらは新しい仲間かい?」
「いえ違います。私達のパーティーメンバーですよ!」
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