第17話

 その後は黙々と作業を続けて夕方頃には大量の戦利品を手にすることができたのであった。

その日の晩、宿に戻るとベッドの上に座りながら手に入れたものを眺めていた。

「それにしてもまさか本当に成功するとは思わなかったよ。これもあの時作った薬のおかげだよね。でも流石にそろそろいいかげん打ち明けないと駄目だよな……いつまでも隠し通せるとも思えないしさ。まあその前にまずは明日の予定について話しておく必要があるけどね。とにかく明日にしよう、それまではゆっくり休んでおかなくちゃな。ああ、それと一応手紙を書いておくことにしておこうか。万が一にも変なことが起きないようにしないとだからね。よし、これくらい書いておけば大丈夫だろう」

こうして私は翌朝に備えて早めに就寝することにしたのである。そして翌日になると予定通りにギルドへ向かうとそのまま受付嬢の元へと向かった。

「すみません、ちょっといいですか?」

「はい何でしょうか?」

彼女はいつものように笑顔を浮かべたまま対応してくれたのだがその表情とは裏腹に心の中では私に対して不審を抱いていたに違いない。何故なら事前に彼女宛の手紙をこっそり渡していたためでもある。その内容は至ってシンプルであり『あなたの依頼の件ですがご相談したいことがあるので時間を作っていただきたい』というものだった。

「実はですね……」

それから私は彼女に全てを打ち明けた。もちろん私が転生者で神であることやこれから話す内容についても包み隠さずに伝えた上でのことである。ただ残念なのは相手が女性だったため私の外見年齢に近い姿のままで接していたことだろうか。

話を最後まで聞いた彼女の方だが最初こそかなり驚いている様子だったが徐々に落ち着きを取り戻すとその瞳は真剣そのものとなっていた。

「なるほど、つまりこういうことかしら。あなたの本来の目的というのは今現在起こっている異変の原因を突き止めることであってその解決に協力してほしいということなんだわ」

「はいそうです。それでどうか協力していただけないでしょうか?」

恐る恐る尋ねるとしばらく沈黙が続いた後で何かを考えていたような素振りを見せる。

「分かったわ。ただし条件があるんだけど聞いてもらえるかしら?」

どうせ無理だろうと諦めかけていただけに彼女が了承したことに驚きながらも慌てて返事をする。

「えっ!?本当ですか!」

「あくまで条件付きだけどね。まず一つ目としては定期的に連絡を入れるようにすること。二つ目に必ず無事に戻ってきてほしいの。もし約束を破るようであれば今後一切の協力はできないと思ってちょうだい。あとこれはあくまでも提案なのだけれどこの町に滞在している間はここに泊まっていかない?」

「へっ?それはどうしてまた急にそんなことを言い出したんですか?」

予想外の言葉だったのでつい間抜けな声を出してしまう。するとそれに対して苦笑しながらも説明を始めたのである。

「理由はいくつかあるんだけれども一番大きい理由としてはこれが一番安全な方法だと思うからなのよ」

「どういう意味なんでしょう?」

いまいちピンとこなかったので首を傾げるとそれを見た彼女は小さくため息をつくと言った。

「あのねぇ、いくら何でも今の話を聞いた後に一人で行かせるわけにはいかなじゃないの!そもそも相手の正体すら分からない状態でしょう?それなのに危険だと分かっていて向かわせられると思うの!」

「うっ確かに仰るとおりかもしれません……」

ぐうの音も出ずに項垂れていると不意にポンッと手を叩く音が聞こえてきた。不思議そうな顔をしながらそちらを見るとそこにはいつの間にかマリーさんの姿があったのである。

(あれれぇ~おかしいぞぉ!)

あまりの出来事に目を丸くしていると何故かニコニコしながらこちらに向かって歩いてきた。

「話は聞かせてもらったのじゃ!それならばわらわが護衛としてついて行くのは問題なかろう?」

「ちょっ、何を勝手に決めてるのよ!大体あんたがいなくなったりしたらこの子一人になるじゃないの!!」

焦った様子の彼女を尻目にさらに話を続ける。

「なぁに心配はいらぬ。ちゃんとお主にもメリットはあるから安心せい。ほれ、前に言っていたであろう?もしものことがあればその時は責任をとってもらうと言っておったではないか」

「ぐぬぅ……仕方がないわねえ。でも絶対に無茶だけはしないこと、いい加減これ以上犠牲者を出すつもりはないんだから!」

そう言うと渋々ではあるが納得したようでそれ以上は何も言わなかった。

「そういうことで決まったみたいだのう。さて早速出発するとするかの。ところで場所はどこなんじゃ?」

「ああ、確かここから北にある洞窟らしいですよ」

「ふむ、となると少し距離はあるが問題はなさそうだし日暮れまでには着けるかのう。では出発の準備を始めるとしましょうかね」

こうして私達はようやく最初の一歩を踏み出すことができたのであった。ちなみに準備といってもせいぜい荷物をまとめる程度のものなのですぐに終わり、そのまま町を出ることにしたのであった。

「それにしてもまさかマリーさんまで同行してくれるとは思ってませんでした」

移動中に隣にいる彼女を見ながらそんなことを言うと照れたのか頬をかきながら答えたのである。「まあな、正直に言えば最初は乗り気ではなかったがお主の話を聞いているうちに何やら面白そうになってきたからの。こんな機会でもなければなかなか経験できることでもないと思ったというわけだ。しかし本当に良かったのかい?一応はギルドの職員という立場もあるだろうにわざわざ危険な場所に行こうとするなんて普通ならありえないことだぞ?」

「別に構いません。むしろあなた達のような人がもっと増えてくれればそれだけ被害が減るということですので是非とも頑張ってもらいたいところですね」

「おお怖い。まるで鬼みたいな奴じゃな」

「失礼なこと言ってると置いていきますよ?」

「おっと冗談だよ冗談。だから睨まないでくれってば……」

そんなやり取りをしていると前方の方で何やら人影のようなものが見えた。おそらく盗賊か魔物の類だろうと警戒を強めると武器を構えつつ慎重に近づいていくとやがてその姿が見えてくると思わず絶句してしまったのだ。何故ならばそこにいたのは紛れもなく人間だったからである。しかもどう見てもまだ子供にしか見えない少年とその母親らしき人物の姿もあった。

「おいお前らそこで止まれ!!いったいここで何をしてるんだ?」

「えっとその実は道に迷ってしまいまして困っているところをたまたま通りかかったこの人に助けていただいたのです」

母親の方はそう答えるのだがよく見ると服はかなり汚れており髪にも枝葉がついていることから森の中で長い間彷徨っていたことが窺えた。だがそれよりも驚いたのは息子の方である。なぜなら目の前の彼は自分と同じ転生者(正確には違うけど)でありなおかつどう考えてもその見た目はまだ10歳前後くらいの子供の姿しか見えなかったことにあったからだ。

(うわぁマジかぁ!よりによってこんな時に同じ境遇の人と会えるとか予想外すぎるんだけど!とりあえず話しかけるべきかどうか悩むなこれ……よし決めた!ここはあえてスルーしよう!うんそれが一番良い選択に違いないよきっと。だって明らかに面倒ごとの匂いがプンプンするもんね。とはいえこのまま放っていくというのも人としてどうかと思うからせめて場所だけでも教えておくか……ん?)

そんなことを考えているとあることに気がつき彼の着ている服をよく見てみるとそれは自分が今来ているローブと全く一緒のものだったことに驚いてしまったのである。そして慌てて他の二人を見てみると同じようにそれぞれ同じような服を着ていることを確認するとこれは偶然ではないと確信した私は意を決して声をかけることに決めたのであった。

「あのもし良ければですがそのことについて詳しく話を聞かせてもらえませんでしょうか?それと出来ればお名前を教えてほしいんですけれどもよろしいですか?」

すると私の問いかけに対して二人は顔を見合わせるとしばらく考え込むような素振りを見せたあとに母親が静かに口を開いた。

「分かりました。ただ申し訳ありませんがこれについてはあまり広めないでもらえたら助かります。あとこちらからも質問させていただきたいことがあるのですが良いかしら?」

「はい大丈夫ですよ。私が答えられることであれば何でも聞いてください!」

それからお互いの情報を交換するとまずは改めて自己紹介を行った。それによると彼女の名前はサヨと言い夫と二人で暮らしているということ、また息子の名前はトオルという名前だということが聞けたので私もそれに倣って自分の名前を告げた後、今回の経緯について説明していった。

「なるほど、それで森の奥深くに用事があって行かれたものの帰り道を分からなくなってしまったというわけなんですね」

話を聞いた彼女は納得したようにそう呟くと何かを考え込んでいるようだったがすぐに顔を上げると話し始めたのである。「それならば私たちも目的地は同じなので一緒に行きましょう。もちろんタダでとは言いません。お世話になった分も含めてしっかりと報酬は支払わせて頂きますのでご安心下さい」

「ありがとうございます。正直一人だと不安だったのですごく心強いですよ」

「いえ、気にしないで下さい。元はと言えば私達が巻き込んでしまい迷惑をかけてしまったことに変わりはないのだから当然のことよ。それにしてもまさかあなたが異世界から来た人だったとは驚きだわ。それも女の子の姿で来るなんて……」

「まあ色々と事情がありましてね。でも今は性別についてはあまり関係ないと思っていますのでそこは大目に見てもらえるとありがたいかなと……」

「あらそうなの、ふーん……。ねぇ一つだけ聞きたかった事があるんだけどいいかしら?」

「何でしょう?」

「どうして男の子の姿をしているのかってことを少し気になってしまって」

そう言うと何故かじっと見つめてきたので居心地が悪くなりながらもなんとか平静を装いながら答えることにしたのであった。

「ああやっぱりそこ気になりますよね~。でも残念ながらその理由は言えないんですよ」

「どうしても駄目なのかしら?」

「はいすみません」

「そっか仕方がないわね……まあいいわ!それより早くしないと日が暮れちゃう前に急ぎましょう!!」

意外にもあっさり引いてくれたことに内心ホッとしながらも急いで移動を再開するのだった。ちなみにマリーさんは特に興味がなかったようで特に何も言わずに黙ったままついてきており、逆にユナちゃんは物珍しげにキョロキョロしながら周りを観察していたので手を繋いであげようとしたのだが恥ずかしかったらしく顔を真っ赤にして俯いてしまわれたのだった。

その後しばらく歩き続けるとようやく出口らしきものが見えてきてやっと外に出られると思い安堵していたその時だった。突然背後から何者かに襲われてしまい意識を失ってしまったのである。

(いったい何が起きたの!?)

薄れゆく中そんな疑問を抱きつつそのまま倒れ伏すと完全に視界は闇に包まれていった。

(あれ……ここはどこだろう……確か森の中にいたはずなのにおかしいなぁ……)

目を覚まし起き上がるとそこには見知らぬ部屋の中で自分はベッドの上に寝かされていたことに困惑していたが、しばらくして徐々に思い出してきたことでハッとなり慌てて立ち上がろうとしたのだが手足の自由がきかず動こうとしてもまるで金縛りにあっているかのようにビクともしなかったのである。

(えっ嘘!!体が動かないんだけどどうなってるのさ一体!もしかしなくてもこれってもしかするんじゃ……)

嫌な予感を覚えつつも何とか状況を把握しようと必死になっているとやがて部屋の扉が開かれそこから誰かが入ってきたのだ。その人物は私が起き上がっていることに気づくと嬉しそうに笑みを浮かべると近寄ってきていきなり抱きついて来たのであった。

「あっ!目が醒めたんだね良かったぁ心配してたんだから本当にもう!」

そんな言葉と共にぎゅっと抱きしめられたことに私は思わず悲鳴をあげそうになったがどうにか堪えることには成功したのである。

(ちょっと待ってくれよぉマジかよこの展開は予想外すぎるんですけど!!!つーかさっきまでのシリアス展開返せよ!!!畜生めぇ……こんなのあんまりだよ……orz)

私は心の底からの叫びをあげたくなったもののそれをぐっと我慢すると諦めたようにされるがままに身を委ねたのであった。

それからしばらく時間が経ちようやく解放されると私は改めて相手の顔を見ることにした。そしてそこにいた人物の顔を見た瞬間、何故ここに連れて来たのか理解してしまい頭を抱え込んだ。

「はあ……なんであなたがいるんですかね……」

「むぅ酷いじゃないかせっかく助けに来てあげたのに!」

頬を膨らませ不満げにしている彼女を見てため息をつくと改めて話しかけたのである。

「とりあえずここから出してくれない?そもそもなんでここに連れてこられてるか理由は分かってるんでしょう?」

「もちろん!だって私達が拐ってきたからだもん」

さらりととんでもない事を言われて呆れ果てていると彼女はさらに話を続けた。

「本当はもう少し様子を見てから正体明かすつもりだったんだよ」

「じゃあそろそろいいんじゃないですか?」

「うんそうだね。だけど君も悪いと思うんだよね。勝手に一人で出ていくなんて……」

彼女が何を言っているのか分からず首を傾げると不思議そうな表情をしていることに気づいたらしい少女は苦笑いをしながら教えてくれたのである。

「あのね実は私達も君の後を追いかけて森に入っていったんだ」

「はいぃいい!?ちょ、あなたまで何やってるのさ!!」

「まあまあ落ち着いてってば!それで結局見失っちゃったから仕方なく帰ろうとしてたら偶然ユナを見つけることができたからついでに拾っていくことにしたの」

「…………」

「あ、そういえばまだ自己紹介がまだだったね。私の名前はアイリよろしくね。それとこの子は私の妹の……」

「お姉ちゃんの妹のユナです。よろしくお願いしますねお兄様♪(ニコッ)」

「お、おおおおう、こちらこそよろしゅくおねがいしゃす……」

まさかの事態に動揺を隠せず噛みまくりながら返事をする私を見ながら彼女は楽しげに見つめてきていたのであった。

(はぁ~これからどうなることやら……)

こうして予期せぬ形で再会した彼女と妹とのドタバタした生活が始まったのであった。


「ところでいつの間に名前呼びになったの?」

「それはもちろん私が決めたのよ。ねぇ~いいでしょう?」

「いや別に構わないよ。好きにしてもらっていいし」

「やったーありがとうね!!あと敬語もいい加減止めてほしいかな」

「分かったよ」

「ふふふ、素直で宜しい!というわけで今度からはもっと気軽に接してくれるかな。勿論二人っきりの時限定だからね!!」

「はいはい分かりましたって……あれ、ユナちゃんは?」

先程までは一緒に話を聞いていたはずなのに姿が見えないことに気づいてキョロキョロしていると後ろから声をかけられたので振り返ってみるとそこには笑顔のまま佇んでいるユナちゃんの姿があったのである。しかしその目は全然笑ってなどおらず明らかに怒っている様子だった。

その事に気づいた私は背筋が凍るような感覚に襲われ冷や汗を流しながら恐る恐る聞いてみた。

「えっとどうかされたのでしょうか……何かご機嫌を損ねるようなことをしてしまったんなら謝らせていただきたいのですが……?」

すると無言のままで近づいてきたかと思った次の瞬間いきなり飛びかかられそのまま押し倒されてしまったのであった。

(うわぁああ何これ一体どういう状況なのさ!?)

突然の出来事に混乱しながらもなんとか落ち着かせようと宥めてみるが効果はなく、逆にますます興奮させてしまったようでさらに強く抱きしめてきたのである。しかも何故か胸元に顔を擦り寄せてきておりそのせいで柔らかいものが当たってしまい変な気分になってしまいそうになるのを必死に耐えた。

(くっ……これが噂に聞く百合展開と言う奴なのか!?)

そんなことを考えながらもこの状況をどうしようかと悩んでいればやがて満足してくれたらしく離れていったのでホッと一安心していたのだが、今度は首に腕を巻き付けてきて至近距離からじっと見つめられてしまい心臓が激しく高鳴り始めたのである。

「えっとどうしましたか?」

緊張しながらそう尋ねると耳元へ口を近づけると小声で囁かれた。

「お兄様は渡さないからね……」

その言葉を聞いた途端ぞくりと寒気が走り一気に血の気が失われていくのを感じた。

(ひぃいいいっ!!)

あまりの恐怖に悲鳴を上げそうになったが寸前の所で何とか耐えきり引き攣った笑みを浮かべたまま黙ってこくりと静かに首を縦に振るしか出来なかったのであった。そしてこの時になって初めて目の前にいる二人がただの可愛い女の子ではないことに漸く気づくことが出来たのであった。

(こ、これは想像以上にヤバい子たちかもしれない……)

そう思いつつも彼女達のことが少しだけ怖くなりそれと同時に今までとは違う意味で心配になってしまった。

「「ねえ、早く行こうよ!!」」

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