02_闇の組織
この日、イチノ村の結界が崩壊した。数十年前にも、一度、結界が崩壊し魔物たちが侵入してきたことがあった。とはいえ、結界がすべて崩壊した訳ではなく、一部結界が崩壊し比較的弱い魔物たちが侵入した。弱い魔物たちの侵入ではあったが、無防備な村人たちに魔物たちが襲いかかり多くの被害が出た。
今回は、その時の規模ではない。イチノ村の結界が完全に崩壊した。弱い魔物だけでなく、勇者でも手に負えないようなとてつもない魔物たちが侵入してくる可能性がある。
そうなれば、村は壊滅的な被害がもたらせる事は、容易に想像できた。
「魔物が来た。ドラゴンだ!」
「やばい!?こっちに来るぞ!みんな、逃げろ!」
「逃げるって、どこにだよ……」
村人たちは、村の外から滑空してくるドラゴンの群れを目にする。目を見開き、その絶望的な光景を嘆いた。地面を鳴らし、一斉に村人たちは、ドラゴンからとにかく走って逃げようとする。
だが、ドラゴンの群れは、空を凄まじい速度で滑空しあっという間に村の上空までたどり着いてしまった。ドラゴンたちは、口の中にマナを集め、灼熱の球体を作り出すと放出する。
村に立ち並ぶ建物に、灼熱の球体が直撃し、火の柱が上がる。建物は、一瞬で破壊され灼熱の炎に包まれて行く。炎の柱は、夜空を覆う雲を赤く照らしている。
その異変は、数キロメートル離れたカナタたちにも確認することができた。
「どうやら、大変な事がこの村に起こっているみたいだ」
「うん、タナさんが言っていたユウという人を早く探さないとね」
「ああ、だが、問題はそのユウがどこにいるのか分からないことだ」
二人が話していると、突然、首飾りの緑色の結晶が神々しい光を放ち始める。
緑色の結晶がついた首飾りは、母親が呪いをかけられた時にカナタたちに託したものだった。光を放つ緑色の結晶は、ひとりでに動き出し、どこかをピンと指し示す。
「その首飾りがピンチになった時、きっとあなた達を導いてくれる」
首飾りをもらった時の母親の言葉をカナタたちは思い出し、直感する。
きっと、この緑色の結晶が指し示す先にユウがいる。
お母さんは、再会の花園に初めて会った人物に会うように言ってた。
きっと、木の魔物に襲われたあの場所が再会の花園だったんだ。
俺たちは、異世界に来た瞬間からすでに目的の場所に来ていた。
そして、出会っていたんだ。母親が言っていた出会うべき人物に。
「コナタ、ユウはきっと、この先にいる」
カナタは、緑色の結晶が指し示す方向を見ながらコナタに言った。
「うん、僕も不思議なんだけど、そんな気がする。まるでお母さんが僕たちを導いてくれてるような感じだ」
カナタたちは、緑色の結晶が指し示す先に向かって夜道を進んでいく。幸運なことに、カナタたちが向かう場所は、ドラゴンの群れが村を蹂躙している場所とは反対の場所だった。
しかし、不幸なことに最も出会うべきでない人物に目をつけられてしまう。カナタとコナタは、夜道を進んでいたが、急に進む足をピタッと止めた。
「なあ、君たちはどこに行くつもりだ。私も連れて行ってくれないか」
男の声がしたかと思うと、気づいた時には、後ろから迫ってきた男の手がカナタとコナタの肩の上にごく自然に置かれていた。
息が詰まりそうな緊張感だ。身体が、硬直している。
カナタは、喉元に鋭利な刃の切っ先をさっと突きつけられているかのような感覚に襲われていた。
だ、誰だよ……。お兄ちゃん、小便漏れそうだよ。
一方、コナタはあまりの強さに身体を小刻みに震えて、助けを求めるかのようにカナタの方を見た。
我慢しろ。今はまずい。
カナタとコナタは、話をしていなかったが、以心伝心で喋らなくてもなんとなく何が言いたいのか分かった。
「突然、話しかけてすまない。俺はクラネ。君たちの敵じゃない」
クラネは、黒いフードを被りながら、ニヤリとほくそ笑んでいた。なんとも言えない不気味さが、彼からは滲み出ている。カナタとコナタは、そんな彼の独特な雰囲気を感じ取り、警戒をさらに強める。
「何が目的だ。なぜ俺たちに話しかけた?」
カナタが問いかけると、クラネは、カナタとコナタの゙喉元に手をそっと近づける。
この人やばいよと言わんばかりの顔をコナタは、カナタに向ける。
「そうだね。君たちになぜ話しかけたのか、まずは言わなくちゃいけないね。単刀直入に言うよ。俺たちソンブルの゙仲間に入らないか」
「何だと……」
カナタたちは、思いもよらないクラネの言葉に戸惑いを隠せなかった。これほどの危険な匂いを放つ男に仲間に入らないかと問われても答えはすでに決まっていた。
絶対に仲間になるなんて嫌だ!
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