私は蝶になりたい②




こんな一依であるが、入学前はここまで地味なわけではなかった。 人並みに学校生活に夢を見ていたし、化粧ももう少し上手くできていた。

友達は全くいなかったが、それは希望する遠方の美容学校へ通うため一人暮らしを始めたからだ。


―――わぁ、周りにいる人、美人さんばかり・・・。

―――そりゃあそうだよね、ここは美容学校だもん。


この美容学校は日本でも特に大きな学校でたくさんの学科がある。 その中で一依はメイクアップの学科に入ろうとしていた。


―――・・・え、何あの人。

―――本当に同じ新入生なの・・・?


教室へ行くとひと際目立つ美人な女性がいた。 彼女が小巻だ。 入学した時から小巻の容姿はとても美しく老若男女問わず注目されていた。


―――学ぶ前から既に磨かれている感じ。

―――・・・私と同じメイクアップ科って何を学ぶんだろう。


「はい、みんな注目ー! 新入生にはこれからスキルを配っていくからね。 ウチで取ったら他ではもう二度とスキルを得られないから変えるなら最後のチャンスよ。

 といっても学校入学から変えないといけないから、変えるのはオススメしないけどー!」


入ってきた先生がそう言った。 高校を卒業し進学すると人は皆スキルを得ることができる。 学校毎に異なる種類の機械を使いスキルを取得するのだ。

そのスキルは今まで努力した分だけいいものが発現する。 ほとんどの生徒がそのスキルを目指して高校を選ぶ。

当然向き不向きがあるが、一生の選択を高校で迫られるのが社会の常識となっていて、誰も文句を言ったりはしない。

もちろんスキルを得ずに人生を送ることはできるが、改めてほしくなった場合に成長期を過ぎているとほとんどスキルを得られないというのが一般的に知られている。


「順番は問わないから一列に並んでねー」


運ばれてきたのはパソコンのような機械にヘルメットやバンドがコードで繋がれた装置だった。 それを新入生に付けることでスキルを得られるらしい。


「見て見て! 私ずっと自分に合うアイラインを探し続けていたからアイラインのスキルが超高いんだけど!!」

「俺は全体的に程よい感じだなー」


新入生には男子生徒も三割程いる。 スキルが高い人程メイクの技を素早く習得できた。 鏡を見ずに雑にサッとアイラインを引くだけでも綺麗に引けてしまうようになる。

魔法のような力だが無から何かを生み出すことはできない。 あくまで技能の延長線上にあるのがスキルだ。


「見ててー! 試すためにメイクを落としてみた!」


そう言ったすっぴんの女性がスキルを使ってメイクをし始めた。


「スキルを使ってメイクをしたら一瞬で出来上がったんだけど!? これでもうメイクする時間が省けて助かるー!」


それらの会話を聞きながら一依は最後尾に並ぶ。 すると今度は先頭から甲高い声が聞こえてきた。


「小巻、凄ッ!? オールパーフェクトじゃん!!」


その発言で教室中がざわついた。


「新入生でオールパーフェクトだなんて前代未聞よ。 今まで相当努力してきたのね」

「当然です!」


先生に言われ綺麗な笑顔を見せる小巻。 オールパーフェクトとは努力してきた潜在的能力が規定値を全て超えた時の呼び名だ。

これはただ自身の能力のグラフ化に過ぎないが、オールパーフェクトだと得られるスキルも当然いいものになる。


―――オールパーフェクトなんて凄い・・・。

―――自分を綺麗に見せるように本当に今まで頑張ってきたんだな。


そうして最後になり一依の番となった。 先生に装置を付けられる。


「・・・え? これだけ?」


一依が得たスキルは自分の肌の状態が維持できるというだけでメイクに関しては一切スキルをもらえなかった。


「まぁこういうこともあるわ。 人に使えない力だからメイクアップアーティストになるには努力するしかないわね」


―――そんな・・・。

―――私はもう綺麗になれないの?

―――スキルがないから自力で頑張れっていうこと?


一応ちゃんと今もメイクはしている。 だが周りと比べてみれば月とすっぽんもいいところ。 クラス全員の中で見たとしても一番下手くそな出来栄えだった。


―――・・・私、メイクの才能なんてなかったんだ。


一依はトボトボと席へ戻る。


「みんなー! 喜ぶのも分かるけどあまりスキルに頼り過ぎないようにねー?」


先生は忠告した。 一方一依は先生の言葉も聞こえず俯いたまま席に座る。 割り振られたスキルを見て学校へ入って早々凹んでしまったのだ。 自由時間になると先生が一依のもとへやってきた。


「川原さん。 貴女はどうして美容学校に入ろうと思ったの?」


誰をとってもメイクに関するスキルを得られたのに一依だけそうではなかったことに疑問を抱いたのだろう。

そもそも美容学校のメイクアップ科用にセットアップされた装置を使ったため、たとえ才能がなくても何らかのメイクに関するスキルを得られるはずだったのだ。

確かに自身の肌の状態を綺麗に保てるのはいいことだ。 しかし、それは仕事には生かされず美容学校としてはあまり好ましいことではない。


「えっと・・・。 私が小学生の頃、モデルのミナさんに会ったことがあるんです」

「あのミナさんに?」

「はい。 その時に頬を触られて『君、肌がめっちゃすべすべで綺麗だね! 大きくなったら凄く美人さんになるんだろうな』って言われたんです」


人気モデルに褒められたことが噂で広まり一時期一依は肌が綺麗ということで有名になった。 だが高校生になり周りがメイクをし始めると一依は徐々に目立たなくなっていった。

それなら自分もメイクをしようと始めるがどうも上手くいかない。 モデルで有名なミナに『大きくなったら美人になる』と言われたことを信じここまでやってきた。 しかし望んだスキルを得られなかった。


「・・・だから特に夢とかないんです。 もし他に得意なことや好きなことがあれば美容学校を選んでいなかったのかもしれない。

 だけどあの時褒められた言葉が忘れられなくて、夢が見つからない私でも自慢の肌があれば何かできないかな、って・・・」


そう言うと先生に肩を叩かれた。


「まぁ、無理せずに頑張ってね」


この時既に一依は周りから浮いていると自覚し始めたのだ。 それから一依は才能がないと広まり周りからはからかわれ今となる。



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