怪異たん
こばなし
【呪いの夜景】
「ああ、綺麗な夜景ね。さすが穴場スポット」
「残業戦士たちに感謝だな」
「やめてよ、
「おや、同じタイミングでいっせいに点滅しだしたぞ?」
「何これ、怖っ!」
「妙な
「なんて言ってるの?」
「リアジュウバクハツシロ……だってさ」
「……それじゃあ、私たちに言ってるってわけ?」
「どうやらそうらしい」
「何がどうなってこんなことが起こっているの!?」
「まあ、落ち着きなよ。こんなハプニングもまた面白くてイイじゃないか」
「あなたっていつもそう。こないだ家具が宙に浮いた時だって『ポルターガイストだ、動画サイトにアップしたら再生数取れるぞ!』とか大はしゃぎだったわよね」
「ごめんって。いいじゃないか、結果として広告収入が沢山得られたことだし」
「そういう話じゃありません。……もうちょっと、私のことも見て、話を聞いて欲しいって言ってるの」
「大丈夫、ちゃんと見て聞いているよ」
「ほんと?」
「イチャイチャシテンジャネエゾ……だって」
「そっちかよ! それ、怪異からのメッセージだよね!? 見聞きして欲しいのは私の話の方だから!」
「君の話はさておき」
「ちょっと!?」
「このままだとせっかくのロマンティックな時間が台無しだ。僕は、君と美しい夜景を見に来たのだから」
「きゅ、急に真面目になったわね」
「まあ、それは二の次で、ワンチャン怪異現象に遭遇できることを期待して、心霊スポット的な場所をデートスポットに選んだだなんて、口が裂けでもしない限りは言わないよ」
「裂けてるわよ、
「ともあれ、こうして期待通りに事が運んだ」
「もう隠す気も無いじゃないの。この怪異大好き人間め……!」
「怒るな、怒るな」
「怒ってない! ……って、なんでスマホのライトをチカチカさせてるの?」
「夜景に言ってる。「怒るな、怒るな」って」
「やっぱり私そっちのけだった! っていうか、スマホのライトでモールス信号送れるの!?」
「おお、ちょっと
「すごい。怪異と通じ合っちゃった」
「……う~ん」
「どうしたの?」
「いや、夜景を見に来といてなんだけどさ。夜景を楽しむのがなんだか
「夜景じゃなくて、怪異目的ってさっき言ったばっかりだけどね」
「ごめん。謝るよ。言い直そう。怪異だけじゃなくて夜景も少しは見たかった」
「怪異第一なのが変わっていない!」
「いや、でも、少なからず夜景にも期待していたんだ。それは君も一緒だろ?」
「うん。ちなみに私は怪異にはこれっぽっちも期待してない」
「まあまあ。……その、夜景への期待ってさ。つまりは今も残業して働いている人たちに対して、もっと働けって言ってるみたいで、どうなんだろ? って思っちゃったんだよ」
「ああ、言われてみれば確かに。この夜景の光の7割くらいは、したくもない残業で働いている人たちの作り出す光なんだもんね……」
「僕は、したくもない残業で人生の貴重な時間を費やすよりも、大切な人と過ごすことに時間を費やしてほしい」
「あれ? 私の彼氏がすごくまともなこと言い出した。怪異現象……?」
「もしくは僕みたいに、怪異に遭遇することなどの、尊いことに時間を
「いつも通りでなにより!」
「そう言うわけだから、彼らにメッセージを送ろうと思うんだ」
「なんて送るの?」
「愛する人が待ってるよ……っと。これで皆、家に帰っていくだろう」
「なんだか、モールス信号で送るってのも
「……あれ?」
「どうしたの?」
「ひとつも夜景の明かりが消えないんだ」
「まさかの全員
「いやあ、参ったな……」
「こうなったら、あらゆるメッセージを送ってみるしかないわね」
「例えば?」
「推しのライブ配信が始まってるわよ、っと」
「おお、ちょっと明かりが消えた」
「スーパーのお弁当が半額になったわ、っと」
「更に消えた!」
「違法残業を労働基準監督署に言いつけちゃうわよ、っと」
「あああ!? 夜景を作り出すオフィスの明かりが、すごい勢いで消えていく!」
「ポジティブな提案よりも、ネガティブな
「僕の彼女が怪異より怖い」
「なんか言った?」
「いや、僕の彼女がかっこいいなって!」
「それにしても、すっかり暗くなっちゃったわね」
「ああ。100万ドルの夜景と言うには、残念ながらほど遠いかも。
……あ、見て、上!」
「ん? ……わあっ。満点のお星さま!」
「街の明かりが消えたことで、星が綺麗に見えるようになったんだね」
「素敵……」
「……ふふ」
「何? じろじろ見て」
「いや、100万ドルの夜景以上の、プライスレスなものを見れた気がして」
「やだもー。キザなセリフ、似合わないわよ?」
「あっ、違う違う。君の顔のことじゃなくて、向こうの
「きゃあああっ!?」
「おっ、見て! 流れ星だ。それも沢山!」
「この状況で見れると思う!?」
「願い事しなきゃ。……怪異に
「私の彼氏をどうにかしてくださーい!!」
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