第4話 告白リセット
頭脳明晰な時谷渉君はここで狼狽えたりしない。一体何が起きたのかを冷静に分析する……。
「あぁ⁉ なんだこれ……どうなってんだ⁉ また夢⁉ え⁉ 何⁉ 幻覚⁉ 何がどうなってこうなった⁉ まさか俺死んだ? ……いや、生きてるよなぁ」
叫んだり、飛び跳ねたり、頬をつねってみたり、腕を叩いてみたりと、特に意味のない奇行を十五分ほど取りまくって、俺はようやく落ち着いた。
「……これは現実だ。間違いない。少なくとも今は現実にいる。じゃあさっきまでのは夢……? あんなリアルな夢があるのか……?」
とりあえず一旦整理しよう。まずは今日の日付だ。スマホで確認してみたところ四月十五日と表示されている。
あれが全て夢でも幻でもないのなら、俺が四月十五日を体験するのは二度目……いや三度目ということになる。
時間が巻き戻った……ということなのか? そんな馬鹿げたことがあるはずはないと言いたいところだが、ドッキリや嫌がらせにしたって大掛かり過ぎてありえない。
それに、説明がつくんだ。俺がずっと感じていた違和感。今日を体験するのが初めてではないような感覚。時間が巻き戻っていたのだとすれば辻褄は合う。
「いやいやそれにしたっておかしいだろ。ゲームじゃあるまいし……」
この時間をセーブポイントとして、放課後になる度にリセットしてここに戻ってきている。リセットされた出来事を覚えているのは俺だけで、俺以外の皆の記憶には無い。
今までの経験を踏まえて推測するとこうなるが、いくらなんでも非現実的すぎる話だ。すぐには受け入れられそうもない。
とにもかくにもまずは情報収集だな。何かが起こっていることだけは間違いないのだから、現状の調査をしていく必要がある。
俺はいつも通り制服を着て、いつも通り通学路を通り、いつも通り学校に行った。
最優先で確かめなければならないこと。それはやはり、本当に同じ一日を繰り返しているのかどうかだ。
状況証拠は集まってきているし、その推論が正しいとすれば色々と説明はつく。しかし自分を納得させるためにはもっと確信できるような材料が欲しい。
そのために、俺は極力昨日と同じ行動を取るよう意識しつつ、教室へと向かう。
「────やあ、おはよう。君は今日も早いね」
席に着くと声をかけてくるのは、隣に座る牛見。ここまでは昨日と全く同じ。問題はここから先のやり取りだ。
もしも同じ四月十五日が繰り返されているのだとしたら、唯一その記憶を保持している俺が行動パターンを変えない限り、他の人だって同じ行動パターンを取るはず。
「お前は今日も眠そうだな、牛見」
だったらこうやって、昨日と全く同じことを言ってやればいい。これに対し、彼女がどう返答してくるか。
「昨日は徹夜だったんだよ。だから眠くって」
「それにしては珍しく俺より早く来てるな」
「珍しい? そうでもないよ。私は時々学校に寝泊まりしてるからね。誰よりも早く教室に来れるんだよ」
「学校に泊まってる? なんで?」
「仕事」
「学校に泊まる仕事ってなんだよ?」
「うーん、それは内緒」
昨日、牛見とどんな言葉を交わしたか、一言一句に至るまで正確に覚えているわけではない。だから再現度としては百点満点とは言えないだろう。ただ、極めて近いものが出来上がったことは間違いない。
「…………マジかよ」
いくら牛見が変人といえど、昨日と全く同じ会話をするのはおかしい。同じ会話が繰り返されれば、俺と同じように違和感を持つはず。なのに牛見はそんな素振りを一切見せない。
やはり俺の仮説が正しいとしか思えない。そうでなければ説明がつかないだろ。俺だけが同じ日を何度も繰り返していて、周りは誰もそのことに気づいていない。俺の記憶にあるのは昨日の出来事ではなく、今日の出来事なんだ。
だとすれば、きっとこの後も前回と同じような展開になることが予想される。ホームルームで連絡を聞いて、同じような授業を受け、放課後になれば真殿から告白を受ける。
この後、美少女から告白されるのが確定しているというのは、結構幸せな気分になるものだな。その辺の男子を捕まえて自慢してやりたくなる。
「なんでこうなったかよくわからんけど、未来がわかるっていうなら、そんなに悪いことじゃないな。これが定期テストの日とかに起こったら、対策し放題になるわけだし……」
……いや、待て、違うぞ。そうじゃない。これは一日を二回体験できる便利な現象なんかじゃない。俺は既にリセットを二回経験し、三回目に突入しているんだ。ならば今回も同じようにリセットされるんじゃないのか?
前回と前々回では真殿の告白を聞き終え、返事をしようとしたタイミングで自分の部屋に戻された。
同じ一日を繰り返すというのなら、そこの展開もきっと同じになるはずだ。このままでは永久に、真殿にオーケーの返事ができない。それどころか永遠に、明日を迎えられないなんてことも考えられる。
「せっかく告白されたってのに……なんなんだよこれ……⁉」
何年も頑張ってきて、ようやくモテ始めたってのにこの仕打ちか。リセットのタイミングが告白直後なのは多分偶然じゃない。誰の仕業か知らないが、俺がモテるのを認められないらしいな。
「ふざけやがって……! 何が何でもリセットの法則性を掴んでやる……‼」
目標は決まった。この謎のリセット現象から脱却し、真殿の告白を受け、無事に明日を迎えること。そのためにできることなら何でもやってやる。相手は超常現象なんだ。手段を選んでもいられない。
俺は何が何でもモテて、彼女を作らないといけないんだ。そうでないと────あいつとの約束も果たせないからな。
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