月影の綴り

閃知音

夜の幻影、朝の薫り

 夜の闇が訪れると、彼は足を踏み出す。繁華街の喧騒を遠ざけ、都心の海岸へと向かう。何度も通った道であったが、今宵は何とも不思議な感覚に包まれていた。


 街灯が揺らめく小道を進むうちに、現実と幻想の狭間へ誘われていく。闇に浮かぶ街路樹が優しく舞うなか、かすかな月明かりが彼の道を照らす。足音は静かで、夜風に抱かれながらゆっくりと港へと進む。


 港に到着すると、海は静かに広がり、波の音が心地良いリズムで響く。遠くに黒い影となる夜の船が、ひっそりと水面を滑る。彼は、船がどこへ向かうのか、何を運んでいるのかを想像しながら、遠い地平線を眺める。


 澄んだ空気の中、宝石のように煌めく星々が夜空を彩る。彼はその美しさに見惚れ、あたかも自分も星空の中を漂っているかのような感覚に浸る。


 時が過ぎるのも忘れるほどの至福の時間が流れ、月が徐々に沈んでいく。やがて東の空に朝の兆しとなる淡い紅色の光が現れ、彼は夜の幻想世界から現実へと戻る。朝の光が静かに彼の頬に触れ、心の奥には新たなる幕開けの息吹を感じた。

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