第13話 神薙塔矢②-2
*
「ええと、あの……よろしくお願いします」
昼休み、何時ものように屋上で寝転がっていた俺のもとへ一人の男子を連れた橘がやって来た。背が小さく線の細いその男子生徒は、伏し目がちで俺に一礼をしてくる。
「ああ。お前が橘の言ってた協力してくれる、って奴か。ありがとな」
そう言いながら橘たちの背後を窺う。どうやら今日は日渡は来ていないようだ。
「でも、多分初対面だよな? なんで協力してくれるんだ?」
「あ、それは、橘先輩に言われて……」
先輩……てことは、こいつは二年生か一年生ってことか。歓迎されるべき立場である一年生をさすがに協力させるわけもないだろうし、しかしこれは――。
「おい、橘……」
「大丈夫大丈夫! 無理矢理とかじゃないから、ね! そうだよね、
いやいや。もうそれ、ほとんど強制じゃないか。先輩の圧がしっかりにじみ出ちゃってるんだよ。
「面倒だったら全然断ってくれていいからな。もしこの嫌な先輩が恐いとかなら、俺が叱っておくから」
「あ、はい、ありがとうございます」
しおらしい返事。なんだか、悪い気がしてならない。自分から辞退する意思を発するのは難しいだろうが、かといってこちらから拒否してしまえば、それはそれで必要がないと言っているようで後味が悪くなる。
はあ。橘が昨日今日と連れてきているのは、心労としか思えなくなってくるな。
「でも橘、お前確か力要因として男子を誘ったとか言ってなかったか? 見た感じ結構不安なんだが」
「見た目はね。この子、同じ吹奏楽部なんだけどさ、チューバ担当で軽々楽器を運んだりもしてるから意外に力持ちなんだよ」
チューバがどれほどの重量なのか知らないが、金管楽器は重たいとも聞くし橘の言っている通り見た目とは裏腹の筋力を持っているのだろう。ひ弱で断らなそうな奴だからパワハラしました、というわけではなさそうで少し安心した。
この男子も日渡も、橘によって俺への協力を強いらているわけで、吹奏楽部内でのカーストでは橘が上位にいるのだろうか。吹奏楽部内でのあれこれは全く興味はないが、ひたすら突っ走るような奴が上位の存在だというのは、不憫な気もする。特急列車ならぬ暴走列車になっていなければいいが。
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