種明かし4


「ブハハハッ!! だ……駄目じゃ!! やっぱり駄目じゃ!! 言わずにはおれん!」

 

 ネロが困惑しているとブラフマンは笑いすぎて涙を流しながら言った。

 

「実はこの女の世話を忘れておったのじゃ!! 赦せ!!」

 

「な…!? どういう…!?」

 

「考えてもみろ!? こんなに楽しいショーを見ている時に、死にぞこないの老いぼれの世話など誰ができる!? 忘れるに決まっておろう!?」

 

「まさか……牢屋に閉じ込めっぱなしだったの……?」

 

「さよう!! 思い出したのはルコモリエが滅んだ直後。用を足している時に突然頭に浮かんだ!! いやぁ〜我ながらよく思い出した。自分を褒めてやりたいくらいだ」

 


「ふざけるな!! だいたい、そんなこと知りたくなかった!! 病死だと言えば分からないのに、なぜこんな貶めるようなことを!?」

 


「何を言う? 流石は世界を滅ぼす悪人だな。ネロ。本は読まぬのか? ん? 神は悔い改めて罪を懺悔すれば赦すと書いてあるのだぞ!? 逆に嘘つきは地獄行きとも書いてある!!」 

 


 ブラフマンは黒い長服を来て分厚い本を抱えた男を呼び寄せた。

 

「余の嘘つきの罪は赦されたか?」

 


「はい。神はお赦しになられました。神は自らの言葉を曲げぬお方です」

 

 男は深々と礼をして言った。

 

「ああ! 素晴らしい!! 胸のつかえが取れた!! 嘘の重みに潰されんばかりだった余の身体が羽のように軽い!!」

 

「このクズ野郎!!」

 

 ネロはブラウンカンを両手で掴んでブラフマンを罵った。ブラフマンはそれを聞いてカラカラと高笑いをしている。


「何を言う? 大嫌いな母親が死に本当はせいせいしているのではないのか?」


 ブラフマンは意地悪な光を目に宿して口角をニヤリと上げた。



「…何を言ってる…?」


 ネロは無意識に一歩後退りながら言った。


「とぼけても無駄だネロ。お前の父が死んでから、母がお前にどんな仕打ちをしてきたか…余が知らんとでも?」


「やめろ…」


 ネロは震える声で言った。


「どうしてあの人が死んでお前が生き残ったの!!」


 ブラフマンは女の声色を真似て叫んでみせた。


「やめろ…」


「この穀潰し!! あの人の替わりにアンタが獲物を獲っておいで!!」


「黙れ…」


「殴られ、罵られ、微塵も愛されない。こんな生活が続いたんじゃないのかね?」


 ブラフマンはニヤニヤと笑いながら続けた。



「しかし母親が病床についてからは態度が一転した。行かないでネロ。私の可愛い子ネロ。母さんを独りにしないでおくれ…!!」



「うるさい!! 黙れ!!」


「やっと愛して貰えたと思ったのだろう。甲斐甲斐しく看病をした哀れなネロ。しかし教えてやろう…」


「やめてくれ…」


 ネロは力無く地面に両膝をついてつぶやいた。


 しかしブラフマンは止まらない。


「それは愛ではない。ただただお前を利用するためのリップサービスだ!! 母親の中にあったのはどす黒く意地汚い自己愛だけだ…!!」

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