地下神殿への入口2
それを合図に一行はバラバラな方角に向かって走りだした。
カインはベルを抱えて走り、ハンニバルはパラケルススを抱えて走った。
巨大な天使像はハンニバルとパラケルススに狙いを定めて紅い閃光を撃とうとしている。
「パウ! パラケルススを頼む!」
ハンニバルはそう言うと空中にパラケルススを放り投げた。
パウは空の精霊の力を借りて空中を駆け抜けパラケルススを掴んだ。
ハンニバルはぎりぎりまで引き付けてから巨大な天使像の閃光を躱してみんなのところに合流した。
「こんなことを続けていれば、いずれ死人がでる」
ハンニバルは額の汗を拭いながら話した。
「ベル! あいつの倒し方はわからないの!?」
ネロの問いかけにベルは首を横にふった。
「もしかして倒すんじゃないのかも……」
ベルは自信なさげにつぶやいた。
「どういう意味だい?」
「わからない。なんとなくそんな気がしただけ……」
そのときネロは何か閃いた。そうだ。たしかにあの天使像は攻撃しなければ攻撃してこない。
それはまるで堕天の燈火のようではないか。ネロから無理矢理に取り上げようとしなければ堕天の燈火は何もしない。しかし仲間であっても、ネロから火を取ろうと手を伸ばしたとき、パウは燈火に吹き飛ばされたのだ。
「そうか! 敵意に反応しているんだ!」
ネロは叫んだ。
「燈火と同じだ! 敵意に反応する仕掛けになってるんだ! 敵意や悪意がなければ通してくれるかも!」
「危ねえ賭けだな。俺がいくしかねぇだろ?」
カインはそう言うと一歩前に出た。
「だめだ。もし堕天の燈火とまったく同じ仕組みなら、地下への入り口は僕しか開けられないことになる」
考えている暇は無かった。巨大な天使はまたしてもこちらに向けて閃光を放とうとエーテルを蓄え始めていた。
「みんなはあの大きいやつを惹きつけておいて。その間に僕が入り口を何とかする!」
「わたしもネロと一緒に行く」
ベルがネロの手を握って言った。
「どうせみんなといても邪魔になる。ネロと一緒に行く。何か役に立つかもしれない」
ネロは黙って頷いた。
「決まりだ。もしもの時に備えて、俺は出来るだけネロ達の近くにいるようにする。カインとスーとパウはでかいのを頼む。パラケルススは階段の近くまで俺が連れて行く」
一行はそれぞれの役割を果たすために走り出した。
パウは空中を蹴って舞いながら天使の注意を惹きつけた。天使はパウを狙ってぐるぐると旋回していたがやがてパウを諦めて狙いをネロ達に移そうとした。
「させるかよ!」
カインが蜥蜴の姿になって巨大な天使の右肩あたりに体当たりした。天使はぐらりと体勢を崩すと地面に紅い閃光を叩きつけた。
大爆発が広場の中心付近で起こり、天使もカインも爆煙にまかれて見えなくなった。
「!!」
ネロが足を止めそうになるとベルが手を引っ張った。
「みんなの頑張りを無駄にしちゃだめ!」
ネロは歯を食いしばって階段に鎮座する天使像へと向かった。
天使像の前に立つとネロは深呼吸した。天使像の紅玉の心臓は相変わらず等間隔で脈打っている。ネロは首の無い天使像と目が合うのを感じた。ネロは思い切って天使像に話しかけてみた。
「ここを通して欲しいんだ」
ネロの言葉を聞くやいなや、天使像は不気味な動きをした。目にも止まらぬ速さで瞬時に姿勢を変えたのだ。その後一瞬だけその姿勢で留まると、またしても目にも止まらぬ速さで姿勢を変えては一瞬だけ固まった。
それを幾度か繰り返すと天使像は再びまっすぐネロを見つめた。存在しないはずの顔で。
「オマチシテオリマシタ」
天使像は無機質な声で喋った。ネロとベルは驚き、互いに顔を見合わせた。
「アナタノ チノ ショウメイ ヲ シメシテクダサイ」
天使像はそう言うと自ら心臓を差し出した。心臓には小さな穴が開いており一層激しく脈打つのが見えた。
「血の証明?」
ネロは首をかしげた。
天使像は羽を大きく広げた。その羽は一枚一枚が鋭利な刃物になっていた。
「アナタノ チノ ショウメイ ヲ シメシテクダサイ」
ネロは理解した。ごくりと唾を飲み込むと鋭い羽に人指で触れた。指先に血の玉が膨らんだ。血の玉は臨界点を越えると溢れて流れ出し、雫となって滴った。
ネロはそれを差し出された心臓の穴に数滴落とした。紅玉の心臓はネロの血をどくん、どくんと飲み干して天使像の全身に運んでいった。
「カクニンシマシタ」
そう言うと天使像は自身の身体ごと地面に飲み込まれて真っ黒な穴になった。
穴は地下へ続く階段になっていた。
ネロとベルはそれを見て息を飲んだ。こうしてとうとう地下神殿への入り口が開いたのだった。
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