罠1
その後も一行は何度かジーンエイプの小集団に遭遇した。大方の集団は五、六人で編成されていた。そのどれもが十数人の奴隷を連れてどこかに進行していた。
猿どもは細くてよくしなる長い槍を振り回しては奴隷をいたぶってウキャキャキャと大笑いするのであった。
その集団に遭遇するたびにネロも、仲間達も、どす黒い感情が胸に湧いた。
パウは呪いの呪文をブツブツと唱えながら怒りの表情で前方一点を見つめて進んでいたし、カインも時々ペッっと唾を吐いては忌々しい猿めと吐き捨てるのだった。
中でも一族の仇を誓うスーの怒りは尋常ならざるものがあった。静かに馬を進めながらいかに残虐に殺してやろうかと復讐の牙を砥ぐのであった。
そんな中、ハンニバルだけは冷静に状況を分析していた。時々立ち止まって周囲を見渡しては険しい表情で考えに耽るのだった。
「パラケルスス! 様子がおかしい! 一旦退こう!」
ハンニバルは大声でパラケルススに叫んだ。
その時だった後方からウキャキャキャキャキャという不気味な声が地鳴りとともに迫ってきた。
「やられた…小集団だと見過ごしたのが裏目に出た! 奴らは初めから合流するために少人数で動いていたんだ! 奴らの役目は俺たちの退路を断つことだ!」
ふり返ると奴隷を連れたジーンエイプの集団が合流して、一つの軍団となってネロ達に迫ってきていた。
「おいおい…!! てことは、前から挟み撃ちの本陣が来るってことか!?」
カインがハンニバルに向かって叫んだ。
その時スーの放った
「いったいどこに敵が潜んでるんだ!? どこにも見当たらねえじゃねぇか!?」
前方に目を凝らしながらカインが叫んだ。
「ワタシにもワカラナイ!!分かるワケがナイ!!」
パウは目をまん丸に見開きながら言った。
それと同時にツァガーンに跨ったスーが前方から全速力でこちらに向かって走ってくるのが見えた。
そしてその背後からジーンエイプの大群が忽然と姿を現した。
「下だあああ!! こいつら沈下した塹壕に潜んでいるぞおおおおお!!」
スーが大声で叫んだ。
ネロたちの後方には百匹近くのジーンエイプが陣取り、奴隷の人間柵が張り巡らされていた。
前方からは無数のジーンエイプが叫び声を上げながら槍を振り回し、黒い濁流となってネロ達に押し寄せてくる。
「ネロの周りに集まれ! 固まって一点突破するんじゃ!」
「左翼に進め! 数キロ先に廃村が見えた! 何もない平原じゃこの数相手にどうにもならないよ!」
スーはそう叫びながら左翼に舵を切った。それを見たパラケルススが皆に続くよう合図する。
「くそ! 何ということじゃ! このような罠にまんまと掛かるとわ…!!」
「今は反省の時じゃない。俺が道を切り開く! ネロを頼んだぞ!」
ハンニバルはそう言って全速力で馬を走らせた。スーはそれに気がつくとツァガーンの上に両足で立ち、弓に矢を
ハンニバルは背中の大剣ライラを手に取ると、剣にエーテルを流し込んだ。バリバリと空を引き裂くような音を立てながら、黒い稲妻の化身となったハンニバルは敵陣の左翼を引き裂いていった。
猿どもの槍を物ともせず、ハンニバルは片手で大剣を振り回しながら突き進んでいく。
その姿は黒い稲光が瞬く様に似ており、雷鳴が響いたかと思えば、次の瞬間には何匹ものジーンエイプが焼け焦げ、切り裂かれ、地に伏しているのだった
ジーンエイプの鉄の胸当てはハンニバルの一振りで無惨に引き裂かれ、内臓や腕や首が、次々と空中に放り出されていった。
あたりは瞬く間に、焼け焦げた肉の臭いと、内臓と汚物と血の臭いでいっぱいになった。
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