評議会1
わけも分からぬままネロは運ばれていった。馬に揺られ、時が経ち、興奮が冷めてくると、不安や恐怖が胸を圧迫し始めた。
なによりも病弱な母が心配だった。もう二度と会えないかもしれない。それどころかすでに殺されているかもしれない。そんなことを考えると大粒の涙が次々と溢れ出してくるのだった。
何一つ状況はわからず、質問することさえできなかった。ネロはただ馬に揺られながら聞き耳を立てていた。誰かが何か話していないかと期待したが騎士団員達は世間話ひとつせずに粛々と馬を走らせた。聞こえてくるのは馬の蹄の音と、鎧の奏でる金属音だけだった。
突然馬が止まった。ゴリゴリと重たい扉が地面を擦りながら開く音が聞こえてくる。蹄の音が地面を蹴る音から石畳を蹴る硬質な音に変わった。ネロは城門をくぐって王都に入ったのだと思った。
心臓が高鳴る。自分がいったい何をしたというのか? 騎士団がこんなにも大勢で捕まえに来るような罪を犯しただろうか? きっと何かの間違いですぐに開放されるのではないかと淡い期待が頭をよぎる。必死でそれを信じ込もうとする。
しかしまた別の考えが頭をよぎる。勘違いで捕まったとしても処刑されない保証などない。どのみち殺されるのではないか?
ネロは憂鬱な気持ちに胸が押しつぶされそうだった。ふと自分が食べるために殺してきた獲物たちのことを思い出した。
理不尽に力で押さえつけられ、わけも分からぬままに殺される獲物たち。これはきっと、その罰が巡ってきたのだ。
「降りろ…」
男の声がして馬から引きずり下ろされた。麻袋を被せられているためにうまく受け身が取れず背中を思い切り地面に打ち付けた。
「
衝撃でうまく息が出来ずに苦しんでいると首根っこを掴んで無理矢理に立たされた。
「歩け」
男はそう命令して背中を小突いてきた。男に小突かれながら歩いていくとガチャリと音がして大きな扉が開く音がした。
「まっすぐ進め」
男は背中を強く押してネロを部屋の中に押し込んだ。あたりから大勢の人がひそひそと話す声が聞こえる。
突然麻袋を剥ぎ取られた。ネロは円形の部屋の真ん中に立っていた。あたりを見渡すと数メートル高台になった観覧席のような場所から、いかにも高貴な身なりをした人々がネロを見下ろしていた。さらにその上に一段席があり、そこにはシュタイナー王国の国王ブラフマンがゆったりとした姿勢で腰掛けていた。
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