ネロの召命1


 皺枯れた老婆が鳩の心臓に矢じりを突き刺した。

 

 亀甲の鉢に真紅の光る血液が滴り落ちる。鉢には波々と血がそそがれており、床には無惨な姿に成り果てた鳩達の亡骸が打ち捨てられていた。


 バーバヤンガはシューシューと低い声で唸りながらヒソプの若枝を天に掲げていた。太鼓の響きが、どろん、どろん、と祭壇の篝火かがりびに照らされた地下に響きわたる。そこでは白い頭巾をすっぽりと被った人々がバーバヤンガを取り囲んで祈りを捧げていた。

 

 再び、どろん、どろん、と太鼓の響きが部屋にこだました。するとバーバーヤンガは白く濁った眼をカッと見開いてヒソプの若枝を鉢の中の血に浸し、それを祭壇の篝火に振りかけた。


 どろんどろんどろんどろん……


 太鼓の響きは激しさを増していく。それに呼応するように祭壇の篝火も大きくなっていった。

 

「啓示の霊よ! この端女はしために語りたまえ!」


「未来を見通すまなこよ! このめしいた眼に宿りたまえ!」


 バーバヤンガが大声でそう叫びながら鳩の血で紅く染まったヒソプを炎に振りかざす。すると青白い煙が立ち上り一人の少年の姿をかたどった。

 

 バーバヤンガは歯の抜け落ちた口を大きく開けて満面の笑みを浮かべた。太鼓の響きはそれを祝福するかのようにいっそう激しさをましていった。

 

「見ぃつぅけたぁあああ……!!」

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