第26話 二万七千三百四十二回

「獅虎、いつまでそんなことしてる気?」


 神様からの攻撃を凌ぎながら獅虎に問いかける。


 うずくまりたい気持ちも分かるけど、今はそんなことをしてる暇がない。


「獅虎!」


「これはもう駄目だ。諦めろ」


 神様が獅虎に蔑みの視線を向けながら言う。


「それは獅虎が決めることだ」


「自分を愛してくれた女が目の前で無惨な姿になり、自分のせいでまた死んだ。ここでは魔王なんて言われていても中身は所詮高校生なんだよ」


 確かにそうだ。


 獅虎は僕や雲雀ちゃんよりよっぽど優しい。


 だから目の前でツムギちゃんが潰されたり、獅虎を庇ってリリちゃんが死んだのが相当堪えている。


「皆がお前みたいに気にしているようで無関心な訳ではないんだよ」


「僕だって悲しいよ。だけどそれは全部お前のせいじゃないか」


 ツムギちゃんをあんな目に合わせたのも、リリちゃんが死んでしまったのも全部神様がやったことだ。


「それは少し違うな」


「言い訳なんかいい」


 この期に及んで言い訳をする神様に腹が立って一気に肉薄して斬りかかる。


「お前はほんとに話を聞かないよな」


「ちゃんと話すのは初めてだよ」


 むしろ話を聞かなかったのは神様の方だ。


 僕は色々聞きたかったのに何も聞かせずにこの世界に送られた。


「お前にとってはな」


「どういうこと?」


「それはそこの女に聞けばいい」


 神様はそう言って雲雀ちゃんを指さす。


「雲雀ちゃん?」


「僕はその女に頼まれてお前らをこの世界に呼んだ。そして結果的にお前らが来たからその女とさっきの女は死んだ」


 頭がこんがらがってきた。


「雲雀ちゃ」


「どういうことだ雲雀」


 何も分からないままに雲雀ちゃんに声をかけようとしたら怒っている獅虎が先に雲雀ちゃんのところへ行った。


「言葉通りだよ。私が二人をこの世界に呼ばせた」


「なんでそんなことを」


「二人を守る為?」


「意味が分からないんだよ」


 雲雀ちゃんが嘘をついている感じもないし、神様に操られている感じもない。


 いつもの雲雀ちゃんだ。


「俺達がここに来たせいでツムギとリリは死んだんだぞ」


「それは違うよ。少なくともリリちゃんは獅虎が何もしなかったから死んだんだよ」


「お前……」


「私はね、他の誰が死のうと関係ないの。最悪龍空さえ生きていてくれたら」


 雲雀ちゃんの顔は冗談を言ってる顔ではない。


 全部が本気。


「じゃあなんで俺もここに呼んだんだよ」


「龍空が悲しむから」


 獅虎の質問に間髪入れずに答える。


「俺は龍空のおまけで、龍空を悲しませない為だけに呼んだと」


「そう」


「最後に聞かせろ。龍空を死なせたくないならなんでこんな世界に呼んだ」


「そうしないといけなかったから」


「答える気はないか」


 獅虎はそう言うと雲雀ちゃんから離れる。


「獅虎……」


 獅虎は僕のことを一目見てすぐに前を向く。


「神、お前を殺す」


「あの女のことは許すの?」


「話はお前を殺してからだ」


 そうして獅虎と神様の戦いが始まった。


「雲雀ちゃん」


「何、龍空。私のこと嫌いになった?」


 雲雀ちゃんの顔がとても寂しそうな顔をしている。


「ならないよ。獅虎だってきっと」


「いいよ。間接的とはいえツムギちゃんとリリちゃんが死んだのは私のせいなんだから」


「それを言うならツムギちゃんと一緒に戦えなかった僕達にも責任はあるし、リリちゃんは……」


 そういえばあの時獅虎を助けに行こうとしたら「今は駄目」と雲雀ちゃんに止められた。


「雲雀ちゃんはなにを知ってるの?」


「……」


「教えて」


 これは多分聞いておかないといけない気がする。


「全部だよ」


「全部?」


「この世界で起こることは大抵全部分かる」


「未来予知?」


「そういうのじゃない。ただなにが起こるか分かるってだけ」


 それと未来予知の違いが分からない。


「……終わっても終わらなくてもどうせだからいっか」


「え?」


「私ね何回もこの世界をループしてるの」


「ループ?」


 ループとはあれだ、アニメとかで同じことが繰り返されるやつ。


「聖女の魔法って時間を巻き戻すみたいなレベルの回復魔法なんだよ。だからなのか時間を巻き戻せるみたいなの、私」


「それで何回もこの世界に来た時を繰り返してるの?」


「そう。私が生き返らせられるのは死後数分で肉体が綺麗に残ってる場合だけ。その私が全員を生き返らせる方法はそれしか無かった」


 それなら納得がいく。


 雲雀ちゃんの言うことを聞けば大抵上手くいったし、雲雀ちゃんがさりげなく言ったことをやってみたらなんとかなったり、雲雀ちゃんの言ったことが現実になったり。


 全部雲雀ちゃんがすごいで片付けてたけど、よくよく考えると当たりすぎだ。


「じゃあ僕だけが生きてればいいっていうのは嘘なんだね」


「それはほんと。何回ループしても獅虎は龍空より先に死ぬんだよ。ああやってキレて」


「何回ループしてきたの?」


「ちゃんとは数えてないよ。十回ぐらいで結構精神やられてたから」


 それはそうだ。


 獅虎だってあんなに落ち込んでいたし、僕も悲しい気持ちになるんだから、雲雀ちゃんが何も思わずに続けられるはずはない。


「教えてやろうか?」


 神様が獅虎と戦いながら僕達に話しかけてきた。


「俺を無視すんな」


「お前は聞きたくないんだろ。あの女が一番の被害者だと思いたくないから。自分が一番の被害者でいたいから」


「違う。雲雀とは後でちゃんと話し合う。今は誰が悪いとかは関係ない」


「そんなお前の気持ちなんか知らないから言うんだけど。二万七千三百四十二回だ」


「……え?」


 きっと聞き間違いだ。


「二万七千三百四十二回だ」


「雲雀、ちゃん」


「諦め悪いよね。普通に進むとさ、全部同じゴールに繋がってるんだよ。多少変えたぐらいでも結果が変わんないし。だからって色々試してたらそんな数になってた」


 雲雀ちゃんが薄く笑う。


「途中でね気づく時もあるんだよ、このままいったら駄目だなって。そういう時は諦めて虐殺するルートとかも作ったけど、やっぱり結果は変わんないんだ」


 雲雀ちゃんの顔が暗くなる。


「この説明もね結構したんだよ。だからこの先がどうなるのかも分かる」


「だから諦めんのか?」


 獅虎が神様に攻撃をしながら雲雀ちゃんに言う。


「諦めるしかないんだよ。もうすぐ獅虎は神に殺されて龍空も殺される。そんなのを私は何回も見てきた」


「毎回じゃないだろ」


「ここから変わったことなんかないんだよ」


「でも変わらない訳じゃないんだろ」


 確かに今まで変わらなくても今回は何か変わるかもしれない。


「獅虎は私がこの話をすると毎回そう言うけど変わらず死んでくんだよ」


「今回は死なねぇ」


「雲雀ちゃん。獅虎を信じよ」


「信じる信じないじゃないんだよ。このやり取りだって何回したと思ってるの? それでも最後は神に獅虎の胸を貫かれて……」


 雲雀ちゃんが絶望した顔をする。


 その先を見ると、獅虎の胸を神様が貫いていた。


「またやり直しだ……」


 雲雀ちゃんが膝をつく。


 だけど僕は終わりだとは思わない。


 だって獅虎が笑っているから。

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