第16話 戦闘狂の真実

 龍空達が帰ってから少しして魔王軍幹部の一人が帰ってきた。


 城の惨状を見た幹部は他の幹部を緊急招集して俺を含めた会議を始めた。


「魔王様、城でなにがあったのか聞かせていただいてもよろしいでしょうか」


「勇者と聖女が攻めてきた」


 ここで嘘を言ってもいいことはきっとないから正直に答える。


 幹部達は分かっていたようで、特に慌てる様子はない。


「今回の勇者達ってもうそんな強いんだ」


「しかも聖女と一緒に来てるってことは手を組んだ可能性もあるだろ」


「それはないと思うぞ」


 そこは否定しておく。


 龍空と雲雀がここに来たのは利害の一致ということになっている。


 龍空は聖女に回復を頼んで、雲雀は勇者の実力を確かめるということに。


「てか外に居た幹部の一人は何してたんだよ」


「魔王様の話では聖女の魔法で死んだらしい」


「あんな雑魚を置いとくからだろ。魔王様に何も無かったからいいけど、次からはあんな雑魚を置くなよ」


「それならあんたが居ればいい」


「俺は一箇所に留まるのが嫌いなんだよ」


「まぁうち達の中だと一番弱いから適任とは言えないよな」


「あ?」


 この幹部達は仲が悪い。


 死んだ幹部を含めると四人いて、俺の護衛を任されていたのが一番弱い気弱な幹部。


 そして口が悪いのが次に弱い幹部。


 紅一点の女幹部が二番目に強いらしい。


 最後のいつも俺の代わりに指揮を執るのが俺の次に魔族の中で強いの言われてる幹部。


「お前達、魔王様の前で見苦しい姿を見せるな」


「スカしてんなよ。いつかお前は俺の下につくんだからな」


「そのいつかはいつ来るんだ? 私はそれを何年聞かされればいいんだ。だいたい貴様は力だけしかないくせに威張り散らかしていて迷惑なんだよ。今ここで貴様を殺して新しい幹部を見つけてもいいんだぞ?」


 そう言うと筆頭の幹部が何かのオーラを溢れ出させる。


「さっさと謝れよ。お前じゃ勝てないんだから」


「黙れ。いいぜ、殺ってやるよ」


 そう言って気性の荒い幹部も何かのオーラを出した。


「ったく。これだから男ってのは」


 紅一点は興味無さそうに眺めている。


 俺達とはまた違う三人組の関係だ。


 俺と雲雀の言い合いを眺める龍空みたいな感じではあるけど少し違う。


 そんなことより。


「黙れ」


 俺が一言そう言うと幹部達は膝をつき俺に頭を下げる。


 紅一点を除いて。


「お前もやれ」


「は? うち何もしてないんですけど。なんでバカに付き合わなきゃいけないのさ」


「お前」


「聞こえなかったか? 黙れと言ったんだ」


 そう言い直せば静かになる。


「喧嘩をするなとか、仲良くしろとかは言わない。話を続けろ」


 黙れと言っておいて話を続けろなんて言うのはうざい上司の典型なのは分かっている。


 だけど早く話を終わらせて貰わないといけない。


 なぜならあと少しで龍空達との密談が始まるから。


「もし殺り合いたいと言うのなら俺が相手をしてもいいぞ?」


 そう言って魔法で殺気を出す。


「そんな、恐れ多いです」


「お、俺も今はいいです」


 このまま話を終わらせて龍空にいい報告をしたい。


 なのに。


「じゃあうちやりたい」


 紅一点がやる気を出してそんなことを言う。


「お前には言ってないんだが?」


「うちもうるさくしたじゃん。シトラさんとやってみたかったんだよね」


(こいつめんどくさい奴だ)


 おそらく一番の戦闘狂。


 そういう奴はなにを言っても聞かないし、戦いの中でしか喜びを得られないめんどくさいタイプだ。


「ほら、やろやろ」


「魔王様。私が黙らせますか?」


「いや、いい。多分お前が戦っても満足しないだろ。俺が相手をするから話をまとめといてくれるか?」


「はい」


 とてもめんどくさいけど、俺が言い出したことだから俺がやらなければいけない。


 やる気満々に準備運動をしている紅一点の元に向かう。


「ルールは」


「無し、どっちかが死ぬまでやろ」


「戦力の低下で魔族滅ぶぞ」


「その時は人間とエルフを殺せば均衡は保たれるでしょ。それに……」


 紅一点が俺に笑いかける。


「シトラさん的にはそっちのがいいんじゃない?」


(こいつ)


 もしかしたら俺が龍空達とコンタクトを取っているのに気づいているのかもしれない。


 そうだとしたら本気で殺すしかない。


「本気になった? 楽しくなりそ」


 紅一点はそう言って俺に突っ込んでくる。


 俺はそれに対する魔法を紡ぐ。




「ってな感じのことがあった」


『お疲れ様』


『要するに女とイチャコラした自慢?』


「どう聞いたらそうなるんだよ」


 あの後は少し本気で殺し合っていた。


 結果的には俺が勝った。


「龍空のこと強く言えなくなった」


「ほんとね」


『ツムギちゃんの次は部下を籠絡か? いいご身分だこと』


 紅一点。名前をリリと言うらしい。


「ツムギもこいつも籠絡なんかしてないわ」


『獅虎にそんなこと出来る訳ないでしょ?』


「うざい」


「ろうらくってなんですか?」


「それはねぇ」


「ツムギに変なこと教えんな」


 リリが加わったことによって俺の疲労がより溜まることになりそうだ。


『獅虎楽しそうだね』


「なにを聞いたらそう思えるんだよ」


『だって文句言ってないもん』


 確かに今までは話の前提に文句があった。


 だけど無い理由は言ってる余裕が無いからだ。


「てかそもそも俺の文句は雲雀に対するものだけだからな」


『いやいや「俺はこんな有能なのに部下が使えなくて困る」とか調子乗ったこと言ってたでしょ』


「言ってねぇわ」


「酷い! シトラさんの為に色々頑張ってきたのに」


 初めて話すはずなのに雲雀とリリが意気投合し過ぎて対応がめんどくさい。


「リリさんってなんでシトラさんがリクさん達と仲良しさんだって分かったんですか?」


「え、かわい。じゃなくて、だってシトラさんうち達と話してる時と勇者の話してる時の雰囲気が違い過ぎるから」


『獅虎って結構分かりやすいよね』


 初めて聞かされる真実。


 ショックが大きい。


「まぁ男共は気づいてないよ。バカはそんなの気づく訳ないし、筆頭様はシトラさん信者だから勝手に都合のいい解釈するだろうし」


「それならいいか。いいってことにするか。それでお前はなにが目的なんだ?」


 戦いながら俺と龍空達の関係を言い当てたリリだけど、なんでここまで関わってくるのか聞いていない。


 理由によっては殺さなくてはいけなくなる。


「理由ね。まぁ簡単に言うなら強い方につきたかったから?」


「お前の性格なら強い奴と戦いたいとか思うのかと思った」


「シトラさんはうちを戦闘狂とか思ってるの?」


「……」


「思ってるって顔だね」


 顔に出したつもりはないのだけど、もう俺は仮面でも被った方がいいのかもしれない。


「さっきのはシトラさんと二人になる為に演じてただけ。うちまだ死にたくないから」


『てか今更でしょ。獅虎が関係ばらした時点で理由も何もないでしょ』


 それもそうなんだけど、一応聞いておきたかった。


「死にたくないのはほんとだよ。まぁこっちについたのはちょっと理由あるけどね」


『リリちゃん……さん?』


「ちゃんがいいなぁ」


『じゃあリリちゃん。もし獅虎とツムギちゃんに何かしたら許さないからね』


「リク君怖いよ。大丈夫だよ、この二人には何もしないって約束するから。でもツムちゃんを抱き枕にしていい許可をちょうだい」


 それを聞いたツムギが俺の後ろに隠れた。


「ツムギ嫌がってるぞ」


『じゃあ駄目』


「じゃあシトラさんでいいや」


 そう言ってリリが抱きついてきた。


「ばっ、やめ」


「照れてる。ウブだなぁ」


『獅虎って女子に弱いよね』


『うん。告白されるのは断れるけど、普通に話しかけられるとぎこちない』


 別にそれは俺が悪い訳ではない。


 俺がよく話す女子が雲雀だから、他の普通の女子に違和感を覚えてしまうだけだ。


『リリちゃんって可愛いんでしょ?』


「うち可愛い?」


 リリが控えめとは言えないものを俺に押し付けながら上目遣いで聞いてくる。


「……そうだな」


『え? なんて。リリちゃんがなんて?』


「聞こえてんだろ」


『もう一回ちゃんと答えて。リリちゃんが何?』


「うちが?」


「……可愛い」


 こいつらを後で龍空の刑に処すると決めた瞬間だった。


『僕もリリちゃんに会いたい』


「言うと思った」


「リク君うちに興味津々?」


『うん。ツムギちゃんとも会いたい』


「リク君って素直過ぎてからかえないの?」


「諦めろ。雲雀でも無理なんだから」


 初めてリリの困惑した表情が見れて、少し優越感を持てた。


「それは楽しみ」


「龍空、会えるぞ。ツムギはどうか分からないけど、俺とリリは今度勇者と聖女を殺しに行くことになった」


 それを聞いた二人の反応は龍空が困惑、雲雀が納得だった。


 それから俺はその日のことを二人に説明した。

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