第5話 魔王との邂逅
シルさんに鍛えて貰い初めてから数日が経った。
それなりに戦えるようになり、ここら辺に出てくる魔物ぐらいなら討伐出来るようになった。
「リクさんほんとにすごいですよね」
「なにがですか?」
「吸収力って言うんですかね。私が見せたものは全部一回で出来るようになって」
この世界でも、僕の唯一の特技は使えるみたいだった。
あんまり好きな特技ではないけど、早く強くなって雲雀ちゃんと獅虎を探しに行きたい僕からしたら、今回ばかりは助かる。
「シルさんの教え方が上手なのもありますよ。確かに僕は見ただけでそれなりに出来るようにはなりますけど、シルさんが理屈を丁寧に教えてくれるから応用も出来ますし」
「褒め上手なんですから。リクさんは教えたことをちゃんと理解してくれるから、教える側も嬉しいです」
「そう言って貰えると僕も嬉しいです」
そう言って僕らは笑い合う。
「なんかいい雰囲気だけど、周りが凄いな」
「マイさん」
マイさんが顔を引き攣らせながらやって来た。
僕らの周りには倒した魔物が沢山転がっている。
「ゴブリンとかオークならまだ分かるけど……、あれ何?」
「珍しいですよね。私も冒険者時代に一度しか会ったことないんですよ」
マイさんが指さす先にはミノタウロスの死体がある。
たまたま歩いていて、襲いかかってきたから倒した。
「そもそもがここ魔物の森で和気あいあいと話してるのがおかしいんだよ」
僕達が今居る場所は魔物の森と呼ばれていて、魔物が無限に湧いてくるらしい。
だからある程度の力を持った人が修行に使うみたいだ。
「そんなに強い魔物は出ないんですよね?」
「シルの普通を信じたら駄目だよ。シルはその身一つで魔族も殺せるんだから」
「さすがにそれはした事ないですよ。魔族は滅多に出会えないですから」
「出会いたいみたいな言い方するなし」
魔族。人並みの知性を持った魔物のような存在みたいだ。
ファンタジーの定番だけど、僕はその魔族を倒して抑止力にならないといけないらしい。
「勇者じゃない人間が魔族に勝てるのか気になりません?」
「ならないよ。シルももし魔族と会っても戦ったりしたら駄目だからね」
「分かってますよ。私だってまだ死にたくないですから」
今本気で戦ったら、僕よりシルさんの方が強い。
でもそのシルさんが死を覚悟する相手を僕が本当に倒せるのだろうか。
せめてシルさんのことを守れるぐらいに強くなってから現れて欲しい。
(あ、これ死亡フラグ?)
前に雲雀ちゃんが「こうなって欲しいなぁとか考えると大抵良くないことが起こって、そういうの死亡フラグって言うんだよ」と言っていた。
(まぁそんな偶然はそう簡単に起こらないよね)
「何か来ます」
シルさんがそう言って臨戦態勢に入った。
「噂をしたから魔族が来たとかないよね?」
「だといいんですけど」
僕もシルさんを真似て辺りを警戒するけど、僕には何も分からない。
「人か」
「!」
今まで何も居なかったはずなのに、そこにそれは居た。
「ま、ぞく」
「シルさん!」
魔族と言われた男の人はシルさんの胸を腕で背中から貫いていた。
「この中で一番強い奴を先に殺そうと思ったんだが、この程度か」
魔族の男はそう言ってシルさんから腕を引き抜いた。
「シル!」
「マイさん、駄目です」
シルさんに駆け寄ろうとしたマイさんを抱き寄せて止める。
「離して、シルが」
「分かってます」
でも今シルさんを助けに行ったら確実に殺される。
「後は雑魚だけか。勇者が現れる前に殺すか」
「勇者が怖いんですか?」
「……なんだと?」
別に煽りたかった訳じゃない。
ただ魔族にとって勇者とはどういう存在なのか気になった。
「前の勇者と魔王は相打ちになったんですよね? だから勇者が怖いのかなって思って」
「相打ちなんかではない。先代の魔王様は死に場所を探していた。それがたまたま勇者だっただけだ」
「妄想とかではなく?」
「調子に乗るなよ人間」
なんだか魔族の男の人を怒らせてしまったようだ。
僕はただ真実が知りたかっただけなんだけど。
「死ね」
「僕は死ねないんですよ。友達と会うまで」
「そんなの知る、か?」
「え?」
魔族の人が僕に襲いかかってきたから、通りすがりに両足と左腕を斬り落とした。
それを見たマイさんも驚いている。
「マイさん。今のうちにシルさんを」
「あ、分かった」
マイさんは我に返って、シルさんの元に走り出す。
「聖女様ならこれぐらいの傷なら治せる。私は聖女様のところに行ける転移陣に行く。リクは?」
「僕はこの魔族の人を止めておきます。危なくなる前には逃げるので」
正直さっきのは偶然に近い。
魔族の人が怒って動きが適当になっていたから出来たことだ。
「分かった。気をつけろよ」
「はい」
僕が返事をすると、マイさんはシルさんに肩を貸して歩き出した。
「クソが。なんでこんなことに。人間の武器なんかに俺の足と腕が」
「あなたはここになにをしに来たんですか?」
僕は剣を構えながら魔族の人に話しかける。
「魔王様の意思を果たす為だよ」
意外と素直に話してくれた。
「意思?」
「この世界を統一する。つまりは魔族がこの世界を支配するってことだ」
「統一ってみんな平等って意味じゃないの? 支配とは違うと思うけど」
そこら辺はニュアンスの違いなのかもしれないけど。
「お前の意見なんて聞いてない。俺達は魔王シトラ様の意思を果たすだけだ」
「今なんて?」
「あ? 意志を果たす」
「その前。魔王の名前」
僕の聞き間違いじゃなければ。
「魔王シトラ様だよ」
「獅虎……」
たまたま名前が同じ可能性もあるけど、獅虎に繋がる道が出来た。
「魔王に会わせて」
「は?」
「魔王に会わせて」
「聞こえなかった訳じゃねぇよ。なんでお前みたいな意味の分からない奴を魔王様に会わせなきゃならないんだよ」
それはもちろん獅虎に会いたいからだけど、そんなことを言ったら余計に会わせてくれなそうだ。
だから。
「僕、勇者なんだ」
「は?」
「ぼ・く・ゆ・う・しゃ・な・ん・だ」
「だから聞こえなかった訳じゃねぇって言ってんだろ。俺がお前の言葉を信用すると思ってるのか?」
それもそうか。
勇者って言えば魔王に会わせてくれるかと思ったのだけど。
「でも、俺の身体が再生しないのは確かにおかしいな」
「ごめん、痛い?」
咄嗟のこととはいえ、足と腕を斬ってしまった。
「お前は意味が分からないな。勇者と言うのなら、魔族を殺したいんじゃないのか?」
「ううん。僕は勇者になりたくてなった訳じゃないから、魔族だからって殺したいとかはないよ?」
この世界に来てまだそんなに経ってないから、魔族がどんな存在なのかまだ分かっていない。
だから魔族をどうしたいとかはよく分からない。
「変わった奴だ。まぁ俺には無理だろうけど、少ししたら魔王様に会わせてくれる人が来るからその人と行け」
「それってどうい」
僕が魔族の人にどういうことか聞こうとしたら、魔族の人の頭を違う魔族の人が踏み潰した。
「はぁ、人間相手にペラペラと。しかも人間に負けるなんて」
(この人強い)
さっきの魔族の人にも勝てる気はしなかったけど、この人は別格だ。
おそらく変に刺激しない方が長生き出来る感じがする。
「私に剣を向けてどういうつもりですか?」
「多分無意識。あなたは僕を魔王のところに連れてってくれる?」
勝てないのは分かっている。
だけど、簡単に命を奪うこの人が許せなかったんだと思う。
だから返答次第では戦わなくてはいけない。
「魔王様に会いたいと。その白い剣は聖剣ですか?」
「はい」
「勇者ですか。いいでしょう。あなたを魔王様のところに連れて行きます」
「いいの?」
「ええ。先代の恨みは今代の魔王様に晴らして貰いましょう」
やっぱり、前の魔王は勇者と相打ちになったのだと思う。
「飛びます」
魔族の人はそう言うと僕の肩を掴んだ。
そして一瞬のうちに場所が変わった。
「ここは魔王様の部屋の前。後は一人で行きなさい」
「いいんだ」
こういう場合は、護衛の人をつけたりするものかと思ったけど、それだけ魔王が信頼されてるということなのかな。
僕はそんなことを考えながら魔王の部屋の扉を開ける。
中は暗く、あまりよく見えない。
でも進んで行くと奥に人影が見えた。
「勇者か?」
多分その人影が喋った。
どこか懐かしい声で。
「獅虎?」
「確かに俺はシトラだが?」
「獅虎!」
僕は嬉しさのあまりその人影に駆け寄る。
だけど僕の目の前に雷系統の魔法が放たれた。
「なにを勘違いしている」
「え?」
「俺はお前なんぞ知らん。死にたくなければここを去れ」
(獅虎じゃない?)
でも明らかに声は獅虎だ。
そしてだんだん姿も見えてきたけど、その姿も獅虎そのものだ。
(僕と違って意識がない?)
もしかしたら獅虎は身体だけこっちの世界に来て、意識はどこかに行ってしまったのかもしれない。
「去る気はないようだな」
そう言うと魔王は立ち上がった。
「ならここで死ね」
魔王が自分の周りに魔法の球を創った。
(獅虎……)
僕はここで帰る訳にはいかない。
こうなったら魔王(獅虎?)を倒して話を聞くことにする。
そうして僕と魔王の戦いが始まった?
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