第21話 制圧軍はきた。
「おい、起きろ、女王。」
エリシアの布団が剥ぎ取られ、眩しい光が嫌でも彼女を目覚めさせる。
見れば、いつもの食事を運ぶ少年だった。
「頭領からの伝言だ。『演説を10時ごろにしてもらう。衣装の準備はこちら側がし、侍女も派遣する。心づもりをしておけ。』と。」
「…………そう。ご苦労様。」
少年はスタスタと去っていった。
(アレは夢だったの?夢にしては、すごく実体験的だった気が……)
「…………違う。夢じゃない。」
手にはたしかに少女から受け取ったみかんの大きさぐらいの四角い箱があった。
(あの女の子はちゃんと存在したのね)
箱は鍵がかかっていた。頑丈そうで、箱の造りもしっかりとしている。
(人からの預かり物だから、きちんと守らなくては。またあの少女に会って、返すときまで。)
しかし、あの空間は何だったのかは不明だ。
謎の空間。謎の少女。謎の箱。
ただ、それらを考えるよりも、今の現状を打開することのほうが優先だ。
(演説なんかさせられたら、私は本当に反逆者になってしまう。)
――――――――――――――――――――――――――――――
「エリシア女王、参りますよ。」
「…………」
侍女2人と護衛5人(という名の監視)に囲まれてエリシアは移動させられる。向かう先は演説用の大きなバルコニーだろう。
大人しくしずしずと、ついていく…………とでも思って?
とある重々しい廊下を歩く中…………
(あの花は……)
すきをついて、廊下に飾ってあった花瓶の水を護衛の目にぶちまけて一時的に目眩ましをした。
更に、侍女2人を手刀で床に転がして、急いで角を曲がり準備する。
あとを追ってきた護衛が角を曲がった瞬間、腰掛けていた天窓から飛び降りて一人の護衛を踏みつぶし、剣を奪う。
あとは、すべてがエリシアの独壇場だ。
モブという名の残りの護衛をエリシアは一気に葬った。
(ここがこういう造りになっているのね…………。)
エリシアはその城らしき建物の中の全貌を把握しようとしていた。
使用人らしきものたちと鉢合わせにならぬよう細心の注意を払い、服も手刀で倒した侍女の一人から調達する。
(あの花の茎を浸した水は、目眩ましの液体に使われる成分を多く含んでいる…………幸運だったわ)
と天に感謝しつつ先に進む。
出口や脱出経路などを確保するために、建物の構造を頭に叩き込んだ。
(今はまだ逃げれない。見知らぬ地で、計画もなしに脱出したところで、助けも土地勘もない私はすぐに捕まる。その上、外では暴動に巻き込まれる可能性だってある。)
そう考えると、制圧軍が来るのを待った方がいいだろう。
(制圧軍が来ても、私を救出してくれるかとは別問題だし、助けは望み薄だけど。)
王族、宰相は優しくなどない。容赦しないのだ。
反乱の疑惑がかかっているエリシアを救出してくれるか には、彼女自身もさほど期待していない。
ただ、反乱軍の力が削ぎ落とされる瞬間をエリシアは期待しているのだった。
『ガチャ』
今まで見た中で一番大きく立派な扉を開ける。
ドアノブにホコリがついているのことから、長らく使われていないであろうことがわかるので、中にも人はいないだろう。
「わ……大きい…………」
そこは大広間らしかった。
広い大理石の床に、赤い壇上、それに玉座らしき物を含めた椅子が3つ。
豪華絢爛の舞踏会のあとを感じさせる場所だ。
思わず中まで足を踏み入れて見て回ってしまった。
ふと見ると、壇上の左端には、この城の持ち主一族の集合画があった。
どの人も重々しい、いかにも古き良き貴族というような出で立ちだ。
「……こ、この少女は!?」
絵画の中に、10才過ぎたぐらいの少女が写っていた。
昨日の、箱をエリシアに渡した少女だ。
(あの子は、ここの城の子だったの?)
「「そこまでだ。女王エリシア。」」
いつの間にか、首謀者らしき男たちがエリシアを取り囲んでいた。
あの後、精神作用のある魔法によって、無理やりエリシアの口を動かされた。
演説だ。
エリシアの意志とは無関係に動いていく口は、反乱軍を鼓舞するような言葉をひたすら紡いでいった。
反抗は無駄だった。
どっと疲れたエリシアは、元に戻された塔の上の監獄で、ぼっーとしていたが、ふと窓の外を見ると、独特な狼煙が上がっていた。
(反乱の制圧軍が来た…………)
自身に与えられるのは、救出という慈悲か、制裁か………………。
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