与太話だと思うかい?

EPISODE 1

 異空間に戻てくると、サミエドロと果実の神しかいなかった。バクはもう逃げる準備でもしてるのかな。



「君がここにいるってことは、バクは僕の用意した試練を見事に乗り越えたんだね。サミエドロ」



とっくに知ってることだけど大げさに話せば、サミエドロが深いそうな表情を見せるはず。



「そのせいかバクがそこの部屋にこもって塞ぎこんでしまっているんです」



ほら、一瞬だったけど僕に対する嫌悪感が見えた。それを見て楽しむ。

 決しては向かっては来ないけど、バクに与えた試練のことを兄としては快く思っていないんだろうね。それはそうか。



「果実の神、ご苦労だったね」


「いえ」



この子の生真面目さはやっぱりバクと接するにあたって利点になった。最期まで信頼はしなかっただろうけど、兄が不在の間多少は心のよりどころになっただろう。

 果実の神nだけは源星の生き方を教えておいたから、バクは予想通りそれを上手く利用してくれたみたいだね。

 バクのこもっているという部屋のドアノブに手をかける。二人を死神にした部屋だ。

 もう逃げているかもしれないな。鎌を振ればこの宇宙のどこへだって行ける。まあこの僕ならあたりをつけてさっさとみつけてしまけれど。それに一番手っ取り早いのが、サミエドロを餌に連れ戻させることだろう。その方法ならバクは飛んで戻って来るだろうからね。



「やあバク、いるかい」



意外にも、部屋の中央に大人しく座り込んでいた。



「おや、てっきりどこかへ逃げたんだとばっかり」


「逃げたらまた兄さんになんかするでしょ」


「よくわかっているね」


「やるなら早くやってよ。兄さんの顔は沢山見ておいたから、後悔は沢山あるけど僕が悪いし」


「何のことかな?」


「全部の命犠牲にして兄さんを救った僕はあんたの逆鱗に触れたでしょ?」



謎の覚悟を決めてしおらしく座り込んでいるバクを見て、やっと何のことだか理解する。



「はは、これは傑作だ」



この子たちが来てから笑いが止まらないね。見ていて飽きない死、退屈しない。本当にあの時二人を活かしておいてよかった。



「全部試練のための嘘だよ。他のどの星も消滅してない死、勿論命も無事さ」



状況を理解出来ず狼狽しているバクの前にしゃがむ。



「サミエドロにもお前に試練を与えることは先に伝えてあったし。ああ、シャープにも君に嘘を吐くよう指示してあった」



震えているし怒りに任せて鎌でも振り回すかと思ったら、地べたにへたり込んだまま泣き出した。



「よかった…」



ちょっとこれは予想外だな。僕的には怒り狂ってほしかったんだけど。



「誰も僕のせいで死んでなかったんだ」



冷徹になれないところはやっぱり兄弟だね。



「本当の合格だよ、バク」



立ち去ろうとすると、服の袖を引かれた。



「なに?、恨み言を吐いてくれるのかな」


「…あんた、名前あるの?」



要領を得ない質問に動揺を隠す。



「そんなこと聞いてどうなるのさ」


「かゆいところに手が届く」



逡巡して、話しても問題ないという答えを出す。



「フラット…だけど」


「ふーん、やっぱり似てるだけか」



ああ、そうか。

 バクにはシャープに合わせてあげたから、僕との違いをはっきりさせたかったのかもしれないね。

 バクを連れて部屋を出る。

 随分僕に従うようになってきた。兄を常に人質に取られているとわかっているからか、さらに要領がよくなったからか。

 いい子にしてくれてさえいれば、正直どちらでもいいんだけど。



「サミエドロとバクは二人で一人の死神として認める。常に二人で行動しなさい」


「「はい」」


「いい返事だ。それぞれ自分に求められている仕事をこなしなさい。サミエドロは命を吹き込む仕事を、バクは命を刈る仕事を」








 異空間から兄について出て行くバクを寂しそうに見送る果実の神。そn哀愁漂う背中が気になり、声をかける。



「バクと離れるのは寂しいかい?」


「ええ、とても」


「今生の別れってわけじゃないんだ。同じ異空間にいればまたすぐに会えるよ」


「もの凄く己惚れた話、バク様に対して兄のような気分で過ごしてしまったものですから」


「それはそれは、随分大きく出たね」



軽く苦笑すると、果実の神は静かに目を伏せた。



「でもご心配な攫う。この気持ちは今ここで捨てて見せます」



当たり前のことをそんなに堂々と…。



「感情はね、一度生まれてしまったら捨てることも取り消すことも難しいんだよ。君が思っている以上にね」



まあ、君のそういうところが実は気に入っていたりするんだけど。



「バクの相手は疲れただろう…あの子は昔から人より感情が豊かな子だからね。貸してごらん、見てあげる」



彼は頭上に浮かぶ輪を外しこちらに差し出す。



「感情に負荷がかかると寿命の減りが加速するからね」


「なるべく感情に白湯されないよう意識していたのですが…」



ある死神は、神の感情を瓶に詰めて対処していたと話していた。神が感情を粉砕して下界に降らせたという話も知り合いの死神から聞いたことがある。それに神などいないという話も。どれも死神の集会で小耳に挟んだ話だけど、本当かどうかは定かじゃない。

 それを離すと果実の神どころか盗み疑義していた人間の神まで興味津々で話に割りこんできた。



「与太話だと思うかい?」


「いえ、死神様を信じておりますので」


「私hあこの段階では半信半疑ですが、説明を面倒そうな話を貴方様がわあわざ冗談でするわけがないので本当なんでしょう」



どうやら二人と信じてくれたみたいだ。



「その話が本当であるとすると、死神様は他にもいらっしゃるということですか」


「あの二人が来る前は僕一人だと思ってた?」


「ええ」


「私もそう思っていました」


「それも正解と言えば正解なんだけどね」



お気に入りである二神に、死神について少しだけ話てあげることにした。

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