EPISODE 2
異空間に戻るとぱあっとした弾けんばかりの笑顔でバクがこちらを振り返った。が、兄ではなく僕だとわかった瞬間に変わったその顔の酷さといったら。
「サミエドロだと思った?」
「兄さんは?」
あえて沈黙すると、バクは真っ青になった。まだ何も言ってないのに、楽しませてくれるな。
「兄さんに何かしただろ」
「さあ?。お前は今から死神として通常の仕事量をこなしてもらう」
「兄さんをどこへやったんだよッ」
愚かにも襲い掛かろうとするから、鎌で少しだけ切った。
「ッた…」
バクの頬から赤い鮮血が滴る。
「それくらい大したことないだろう?。それにサミエドロは無事だ、今は」
「…どうしたら兄さんを返してくれる?」
感情的になっては交渉が難しいことをちゃんと理解しているらしい。怒りに身を震わせながらも、落ち着いた口調でそう問いかけてきた。
この子のこういうところには好感が持てる。無駄なことは酒常に要領よく、そして狡猾に。
「なら手始めに、ここに跪くんだ」
苦虫を噛み潰したような表情で膝をつくバクを上から見下ろすのは壮観だった。思った通り、兄のためなら何でも言うことを聞きそうだ。
「いい子だ。お前が言うことを聞けばサミエドロは無事でいられるよ。お前が言いつけを破ったり隠し事をしたりすればその時点でサミエドロの命はないから、そのつもりで」
「…わかった」
「なら話は早い。神の選抜以外の仕事は単に命を刈ること。生き物の寿命は予め設定されているものじゃない。お前が決めるものだ。言っていることはわかるね?」
「うん」
「お前だけでは心配だから、果実の神も連れて行きなさい」
「大事な神を連れまわしていいの。仕事が増えるんじゃない?」
「問題ないよ。無駄口を叩いてないで早く行け」
果実の神はその名を呼ぶ声を聞きつけるなり、どこからともなく姿を現してバクの後ろに控えた。
「いつ兄さんを返してくれるの」
「そうだね、お前が死神に相応しいと僕が感じたらかな」
背を向けるバクはもう怒りに震えてはいなかった。
あれは何か企んでいるな。ずる賢い子だからしっかり監視しておかないと。
バクの後を数歩開けてついて行く果実の神と目くばせをする。
彼にも一仕事してもらう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます