人ならざる兄弟の悲しき生き様
青時雨
WHAT IS BLOOD
WHAT IS BLOOD
EPISODE 1
研究所では、秘密裏に異常生物創造実験が日々行われていた。
犠牲になった被検体も多くいた。両生類や爬虫類、中でも哺乳類を扱う実験では人間さえ使われていた。
しかし、その事実が明るみに出ることはない。
国公認の研究所では無論なかったが、一部の政治家や富豪は違法にそれらを買い取り、私利私欲のために使っていた。
異常生物同士を戦わせ賭けをする者、悪事に利用する者など用途は様々。
異常生物にも命があり心があることを知らない彼らは、とっくに心など失くしていた。
幸か不幸かその悪行が一般市民への被害に繋がることはなく、一見すると穏やかで平和な国が保たれていた。
例え被害が出ていたとしても簡単にもみ消されてしまうような国、と言うのが事実だが。
研究者たちはある研究に躍起になっていた。無理を重ね死に至った者もいたという。
その研究は、新人類を創るというものだった。
人間の血を一切用いずに〝血液のようなもの〟を開発し、研究者たちはその狂気な探求心でついに新人類を完成させた。
いや、人間を創ったのかどうかは定かではないが。
彼らは人ではない何かを作るような常軌を逸した目をしていた。
彼らは自分たちの手で新たなアダム 01《ぜろいち》とイブ 02《ぜろに》を創り、神をも上回るこの世の創造主になろうとしていたのかもしれない。
しかしこれを創った研究者たちも所詮は人間。
当然、綻びが生じた。
アダム01とイブ02を創り終えた後、先に目覚めたイブ02の血管がみるみるうちに青く浮き出し破裂。そこら中に血飛沫が飛び散った。
その血を浴びた研究者たちもまた、イブ02のように身体に異常が起きた。
骨を無視するようにアーチ状に反って背中を下に四つん這いになり、顔だけが正しい向きで進行方向を見ながら獣のように走り出す者。
足から溶けていき、まるで床を泳いでいるかのように液状になった者。
研究者たちは全員、既に人間ではない何かに変異していた。
その光景を何もせずに静観していたのは後から目を覚ましたアダム01だった。
彼は初めに創られ血が濃かった。その為、イブ02のように不安定になることもなく、血を浴びても身体に異常をきたさなかった。
気づけば周囲には肉塊と血だまり、妙な生き物しかおらずアダム01は戸惑った。
研究者たちが創った血は知能や体力、人間の持つ全ての機能に置いて上回るものだった。
その血で創造された彼は瞬時に状況を把握できた。賢い彼は自分だけが実験成功の証であり、対で創られたイブ02という生き物とその血に感染した他は失敗に終わったのだと直ぐに理解できた。
幸いなことにこの研究所は誰かが簡単に見つけられるような場所には位置していなかったため、アダム01は失敗作を処理した後自身を構成する血液について研究を続けた。
それが生みの親である研究者たちの望んでいることだということも、理解していた。
人によって創造され突如この世に生を受けたアダム01は、超人的な肉体を持ち合わせている。食事をせずとも生きられ、病気にもならなかった。
つまり彼は人間と違い、誰かに頼らずとも一人でも十分生きていけた。
だからここへやって来る常連の政治家や富豪も目障りでしかなかった。
「新種のウサギは用意できたのかな」
「いえ、まだ…」
「実験が失敗して研究員が君一人になってしまったようだね。資金援助は今までの倍にしてやろう。その代わりに早く次のウサギを」
「前回のは不作だったからね、すぐに死んでしまったよ」
「こっちは二羽いないと話にならんのだよ。片方が死ぬまで戦わせるのがセオリーだからね」
生みの親の研究者たちが遺した資料でこの人間たちの名前も、話している内容も全て完璧に暗記していた。
ウサギは異常生物の隠語らしい。
今までの異常生物はただ遺伝子を組み替えた生き物だったようで、人間からしてみればどこか馴染みのある見た目をしている生き物ばかりだったようだ。
人気だったのはイルカという哺乳類などIQの高い生き物の遺伝子や、毒を持つ生き物の遺伝子の組み合わせだったようだ。
リストに載る生き物全て、アダム01にとっては初めて見るものばかりだった。調べて画像や映像資料を見ても新鮮さしかなく、人間が感じるようなその馴染みのあるという感覚が彼にはよくわからなかった。
どの生物の資料に最後まで目を通しても、自分と同じようにどこにも存在していない遺伝子というのは使われていなかった。途中で失敗したと言った方がいいのかもしれない。
だからこそ、今対話している人間の姿をした自分がその異常生物だと知れば、きっとどこかへ連れて行かれ利用される。
そこまでアダム01は読んでいた。
だから彼らに、自分は生き残った研究員だと嘘を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます