第13話 夏休みと猿田

 ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン。

 毎日、ゴブリンを倒す。

 2周間ほどたつとスライム掃除屋(クリーナー)からゴブリンスレイヤーに俺の評判はかわっていた。


 夏休み期間中だがミコト、ミキ、猿田もダンジョンでたびたび見かけた。

 本当のレベルを隠している事がうしろめたいのと、なんだか声もかけづらいので一度も声をかけていないが……。

 


――――――――――――――――――――



 天野(あまの) ヒサシ 17歳 男 レベル:257


 HP:65058/65058 MP:56265/56265


 攻撃力:255


 耐久力:273


 速 度:289


 知 性:225


 精神力:162


 幸 運:178


 スキル:リストリクト 任意のレベルに制限するスキル

      リリース   リストリクトの効果を消して本来の力を発揮する


――――――――――――――――――――



 レベルは2週間ほどで50ほどあがった。

 250をこえ300も見えてきた。

 驚異的なレベルアップスピードだ。

 どこかで全力を出してみたい。

 今ならベルゼバブも恐れるに足りない気がする。


「よし、今日は早めに切り上げよう」


 いつもより早く切り上げたのには理由がある。

 帰り道の南池袋公園はいつにも増して人があふれていた。


 色々出店もある。

 

「うおおお! やったあああ!」


 小学生3人組が何やら叫んでいる。


「ああ、金魚すくいか」


 今の俺は金魚よりもアイツだ。


「すごい数の人だ。間に合わないか!?」


 もっと早く来るべきだったか。

 俺は公園の一角を人の波をかきわけ進む。


「残りわずかだよ!」


 炭火のおいしい煙が食欲を刺激する。


「うおおおおお! くださーい!」


 俺が叫んだ瞬間。

 無惨にも目の前で最後の一匹が無くなってしまった。


「おお! ボウズ! 今ので最後だ! また来年な!」

「は、はい……」


 今日は100年以上続くサンマ祭の日。

 無料で炭火焼きサンマが配られるのだ。

 周囲には幸せそうに家族やカップルで、サンマを楽しむ人々。


「く、くそっ……。遅かった……」


 あまりにみじめすぎる。


「んっ!?」


 サンマを焼いている出店の奥に水槽が見える。

 10匹ほど生きたサンマが泳いでいる。


「す、すいません。あの後ろの水槽で泳いでるサンマは……」

「ああ、あれね。あれはダメだよ。アステカ様へのお供えだからね」

「アステカ様?」

「この祭はアステカ様へのお供えの儀式。偉い神様だけど怒らせると怖いらしいよ」


 日本各地でよく聞く怖めの昔話だな。

 どうせお供えした後はスタッフのみなさまで美味しくいただくんだろうし食べさせて欲しい。


「う、うわあ!」


 突然、子供の叫び声が聞こえたかと思ったら次の瞬間。

 水槽が床に落ち盛大にサンマが散らばった。


「い、いててて」


 子供が走って来た勢いでそのまま屋台の中につっこんだのだ。

 いかにも悪ガキ風の小学生が尻もちをついている。


「おい、ボウズ! 大丈夫か?」

「お、おう! 大丈夫だ。俺は強いからな」


 偉そうなガキだ。

 屋台の水槽ひっくり返しておいて、まったく悪びれていない。


「兄ちゃーん!」

「兄ちゃーん!」


 悪ガキとまったく同じ見た目の小学生が2人追いかけてきた。

 いや、よく見ると3人とも見た目は同じだが、つっこんだ奴が一番大きくて

 2番目、3番目と少しづつ身長が小さい。

 3兄弟で年齢が違うようだ。

 それにしてもどこかで見たことあるような顔立ちだ。


 一番小さい小学生が手に金魚の入った袋を持っている。

 そうか、さっき見かけた金魚すくいしてた小学生か。


「兄ちゃーん。オレがサンマ食いたいって言ったから……」

「大丈夫だ! 兄ちゃん強いからな」

「に、にいちゃん! 血が出てる!」

「大丈夫! 大丈夫! こんなのカスリ傷だ」


 兄弟で1番小さいのは気が弱いのか、今にも泣きそうだ。

 2番目がなぐさめている。

 金魚すくいして寄り道したからサンマにありつけなかったか。


「仕方ないなぁ……」


 店主は困り果てた顔をしていたが、ため息をつくと表情をかえ明るく言った。


「このサンマ、お供えするわけにはいかないから焼いてしまおう」

「やったあ!」


 悪ガキ達が喜んでいる。


「おう! そこのボウズ。お前の分もあるぞ。よかったな」


 店主は俺にも声をかけてくれた。


「あ、ありがとうございます!」


 思わぬ僥倖(ぎょうこう)。

 悪ガキ3兄弟には感謝だな。



---



 三兄弟は、焼いてもらったサンマをおいしそうにほおばっている。


「ほら、ボウズおまえにもだ」


 屋台の店主が、串に刺した焼きたてのサンマを手渡してきた。

 

「ありがとうございます!」


 と俺が受け取ろうとした瞬間。

 横からサンマを奪われた。


「いただき!」


 三兄弟はコイツに似てるんだ。


「猿田! 返せよ!」


 猿田の奴は、笑いながらサンマを道具袋へおさめた。


「こいつは俺がもらっていくぜ。悪いな。同じクラスになったよしみでな」

「お前、こんな時だけ調子よく……」


 俺が猿田からサンマを奪い返そうと近づくと悪ガキ三人がよってきた。


「兄ちゃん!」

「兄ちゃん!」

「兄ちゃん!」

「おお! アワ。ツブ。ヒコ。サンマ食えてよかったな!」


 こいつら兄弟だったか。

 三兄弟は、猿田の髪を丸坊主にしただけ。

 

「猿田、4兄弟だったのか」

「いや、自宅には兄貴と1番下の妹が居るから6人兄弟だな。大家族だ」


 猿田の奴が大家族だとは意外だった。

 金持ちボンボンのひとりっ子だと勝手に思っていた。


「おっ! 金魚とったのか? 兄ちゃんが預かっておいてやる」


 猿田は金魚を一番小さいやつから預かると道具袋へ入れた。

 猿田の道具袋はサンマに生き物と俺の道具袋よりも良い物かもしれない。


「ぬ、ぬしら、何をやっとるんじゃ!」


 突然、老婆が鬼のような形相で近寄ってきた。


「大(おお)ババア! どうされました?」


 店主が焦って出てきた。


「どうしたも、こうしたもないわい。アステカ様のお供えはどうしたんじゃ!」

「いえ、水槽ひっくり返っちゃったから焼いて出してしまいました」

「なんという、なんということを……」


 老婆はその場にへたれこんでしまった。

 後から追いかけてきた神社の職員だろうか?

 連れられていった。


「大丈夫ですか?」


 俺が店主に話かけると笑いながら答えた。


「おう。ボウズすまんな。大(おう)ババアは、この神社の神主でサンマを生贄にささえないと人間がさらわれてしまうと迷信をしんじてるんだ。あそこまで取り乱す必要は無いと思うんだけどなぁ」

「そんな迷信があるんですか……」


 猿田と三兄弟も少しバツが悪そうにしている。

 

「心配ない。心配ない。大(おお)ババアにはオレが話しておく」


 店主は俺たちが気にしないように明るく言った。


「サーベイランス招集! アラート発令! アウトブレイク! アウトブレイク!」


 突然、頭の中で警報が鳴り響いた。

 しかし、指示が来ない。

 アラートのみが鳴り響く。


「猿田。これは?」

「オレもはじめてだ。アラートだけが鳴り響くなんて」

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