第11話 海上決戦

 まるでヨーヨーを振り回すように、1つ目の頭をグルングルンと振り回している。

 

「来るわよ!」


 ミコトが腕を組んだまま、大きな声で言った。

 その瞬間、クラーケンクラスの頭部、いや目玉か? が、俺達に向かって高速で向かってきた。


「オレにまかせろ!」


 猿田が一歩前に出て叫んだ。

 黄金の鎧をまとい両手を空中に向ける。

 強烈な衝撃音と共に猿田は大きな目玉を受け止めた。


「うるあああああああああ!」


 猿田は大きな声で叫んで目玉を海上へ放り投げた。

 

「へえ、やるわね」


 ミコトが腕を組んだまま余裕の表情で言った。


「気をつけて!」


 ミキが後ろから叫んだ。

 クラーケンクラスの頭部兼目玉が海中から飛び出してくると今度は真横から向かってきた。

 

「え?」


 俺達はいつの間にか空中へジャンプしていた。

 空中に浮かぶ俺達の足元の甲板をなめるようにクラーケンクラスの巨大な目玉が横切った。


「ったく、アンタ達トロいわね」


 ミコトは相変わらず余裕で腕を組んだままだが、足元に炎の円盤が広がっている。


「ミコトの能力なのか? すげえ」


 炎の円盤で全員を一瞬にして空中へ打ち上げたのだ。


「ヒサシ、アンタがやりなさい」

「は、はい」


 腕を組んだままの偉そうなミコトの一言に思わず返事してしまった。

 クラーケンクラスのレベルは30。

 今の俺のレベルは35。

 レベル35の力を全力で発揮して一撃で倒してやる。


「たあっ!」


 俺は抜刀しクラーケンクラスの頭部を切り払った。

 巨大な目玉の頭部は、いともかんたんに吹っ飛んだ。


「おいおい、ヒサシやるな!」


 猿田は驚き俺の方を見ている。


「ヒサシくん! すごい!」


 ミキもこちらを見て安心したように言った。


「まだよ!」


 ミコトが叫んだ。

 同時に俺をつきとばした。

 轟音と共に巨大な目玉が側をかすめた。


「もう一体いたのか!」


 海上にもう一匹クラーケンクラスが姿をあらわした。


「アンタ、アホなの?」


 ミコトは戦闘態勢でこちらを見ながら言った。


「どういうこと?」

「あれは巨大なヘビなんかじゃないわよ」

「え?」

「クラーケンはタコの化け物。そしてクラスってのはラテン語で足って言う意味よ」

「もしかして、あの巨大なヘビはタコの足?」

「もしかしても何も最初からそうよ」


 海上に8本の大蛇のような足が現れた。

 俺が先端の目玉を切り飛ばした一本は、黒い血液をたれながしている。

 

――――――――――――――――――――


【クラーケン】


 ・討伐推奨レベル:40


 ・スキル:討伐推奨レベル30の足を8本持つ


――――――――――――――――――――


 海上に丸い頭のタコが姿をあらわした。


「あれが本体か」


 俺がそう言うとミコトが前方に飛び出し言った。


「あれはアタシの獲物よ。アンタ達は見てなさい」


 ミコトを炎を体にまといつっこんでゆく。

 クラーケンの足を一本。

 二本。

 三本とつらぬく。


「ミコトさん、すごい」


 ミキが感嘆の声をあげた。


「さすが、お姫様やるねぇ」


 猿田はヒュウっと口笛を鳴らした。

 本体がレベル40で足はレベル30、合計レベル270だが、レベルは合算されるわけでは無いのでミコトに瞬殺されてしまうのか。


「あれを見て!」


 ミキが指差す方向を見るとクラーケンの足が、もう一本の足にくっつき2本の足が1本になった。


「くっ!」


 ミコトの炎に包まれた体当たりが合体した足に止められた。

 次の瞬間、合体した足が俺達に向けて振り払われた。


「月詠さん! オレのスキルをヒサシに渡してくれ!」


 猿田はミキの背中に手をあてながら叫んだ。

 ミキは両手を俺に向けて叫んだ。


「ヒサシ! 受け取って!」


 ミキから放たれた黄色い光弾が俺の胸に吸収された。

 

「うおおおおお!」


 力があふれてくる。

 俺の体は、黄金の鎧で包まれていた。

 巨大な合体した足が俺にむけて振り下ろされた。


 広げた両手でクラーケンの足を受け止めた。

 強烈な衝撃が重くのしかかる。


「うおおおおおおおおおお!」


 猿田のスキル『黄金の鎧』が防御力を引き上げてくれているためか何とか耐えられる。

 他人のスキルが使えるのは、とんでもないチートだな。

 ミキの能力が重宝されていた理由がわかる。

 

「とりゃあ!」


 クラーケンの足を弾き返した。


「たあっ!」


 俺は飛び出し一気に間合いをつめてクラーケンの頭部へ剣を打ち下ろした。

 ぐにゅりと感触があったかと思うと剣がはじきかえされた。


「やっぱり、レベル35の力じゃあ無理か」

「どきなさい! アタシがいくわ!」


 炎を身にまとったミコトがつっこんできた。

 そのままクラーケンへ体当りしめり込んだ。


「ブルォオオオオオオ!」


 クラーケンが雄叫びをあげたかと思うとミコトがはじきかえされてしまった。


「効いてないわね」


 ミコトは冷静に言った。

 しかし、焦りの表情が見える。

 最大火力のミコトの攻撃が通じないのだ。

 仮に防衛を続けてもいずれ終わりが来る。


「ミキ、同時に複数のスキルを送る事はできるか?」

「ええ。今まで最大で5人の力を1人に送ったことがあるわ」

「例えば4人のスキルを2人に半分ずつ送ることはできるか?」

「うん。それもやったことがある」

「それなら試してみたいことがある」


 一か八かだ。

 最悪、レベル35以上まで力を開放すれば対処できる。

 最後に試したいことがある。


「ミコト! ミキからスキルを送るからもう一度クラーケンに攻撃してくれ」

「アタシに命令するなんて後でわかってるでしょうね!」

「わかったよ!」


 こんな時までミコトは偉そうだ。


「いくわよ!」


 ミコトは炎をまとい再びクラーケンへつっこんでゆく。

 クラーケンの足がミコトを攻撃する。


「猿田! スキルをミキに!」

「おう!」


 ミキから光弾がミコトへ受け渡される。

 ミコトはクラーケンの攻撃をはじきかえした。


「いけ! ミコト!」

「また、同じじゃないの?!」

「大丈夫だ!」

「ったく。やってやるわよ!」


 ミコトはクラーケンの本体へつっこんでゆく。


「ミキ! 今だ!」


 俺はミキの背中に手をそえた。

 ミキから放たれた光弾はクラーケンへと打ち込まれた。


「とりゃあああ!」


 ミコトが叫びながらクラーケンへつっこんだ瞬間。

 クラーケンの頭は砕け散った。

 残されたクラーケンの足も青い光と共に海上で粒となり消えた。




---




 俺達3人は軍艦の甲板の先頭に立って夕日を眺めていた。 


「ヒサシ。お前強くなったな」


 猿田は俺にしんみりと言った。


「ああ、毎日ダンジョンに潜ってレベルあげしてたからな」

「お前、才能あったんだな。出足が遅いってだけでさ。大器完成って言うのか? 」

「そうだな。俺はスロースターターなんだ。」

 

 俺達が満足そうにしているとミキが横から指摘してきた。


「猿田君。それ、完成じゃなくて大器晩成じゃないかな?」


 ミコトが腕を組みながら追い打つように言葉をはなった。


「そうよ。ミキちゃん。アホな男子二人で苦労するわね。アタシ達は」

「いや、俺だってわかってたよ。猿田となんか一緒にしないでくれ!」

「おい! ヒサシ、お前も俺の仲間だろ! いつの間にか呼び捨てにしてるんじゃねーよ! まあ、いいけどよ」


 死ぬかもしれない状況を4人で乗り切ったためか、くだらない事でさえ面白くて仕方がない。

 俺達はみんなで笑いあった。


「ところでヒサシ。なんでアタシの攻撃がクラーケンに通じたの?」

「ミキに俺のスキルをクラーケンに受け渡したんだ」

「アンタのスキルは……。たしか?」

「リストリクトっていうレベルを抑えるスキル。魔物に放ったのは初めてだったけど予想通りレベルを下げることが出来た。レベル60相当の足をレベル54ほどにだけど。猿田の防御力の向上に突撃の威力と炎のエネルギーも加わって撃破できた」


 ミコトは一瞬驚いたような顔をした。


「アンタ、思ったよりアホじゃないのね」

「いや、そこはヒサシ天才とか、褒めてくれてもいいんじゃないかな?」

「調子にのるな!」

「痛っ!」


 ミコトに思いっきり背中を叩かれた。


「私も」


 なぜかミキも俺の背中をたたいてきた。


「痛っ! ちょっと2人とも」


 猿田が「ヒサシ、2人にモテてうらやましいな」と笑っている。


 今日の戦闘を乗り越えて3人と少し仲良くなった気がした。

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