[目的]
めらりの父、道治郎が防御の結界を張った部屋に敷かれた二組の布団。
疲弊しきった身体を横たえると安堵と不安が入り交じった感情が私の中に沸き上がってきた。
思わず深い溜め息が出る。
「少しは眠れそう?」
「はい・・・・ありがとうございます」
「まあ完全に気を緩めることは出来ないかもしれないけれど、敷地とこの部屋とで二重結界になっているから奴らはここまでは来られない。だからとにかく身体を休めてね」
「はい」
深夜23時。
枕を並べる形でめらりが隣で横になっていてくれることは今の私には何より心強い。
が、安らかな睡眠にスッと入れるほど神経は弛緩していない。
気になることがあり過ぎる。
私は口を開いた。
「あの・・・・」
「ん?」
「私をこうして
「え? ああ、それなら心配はいらないわ、大丈夫。お父様はもう何年も前からこういう事態を想定していたから、かえって好機と捉えているわ」
「好機? ですか?」
「そう。チャンスの方が分かりやすいかな」
「チャンス・・・・」
「うん、今まさに、よ」
どういうことなのだろう──すぐには私の理解が追いつかない。
「それはどういう──」
「意味、意図か? って疑問?」
「・・・・はい」
「目的を果たすための、ってこと」
「目的?」
好機、チャンス、そして目的。
めらりの言葉の真意は一体──
「そう、目的。私たちがやるべき事をやる時が来たの。だからあなたは私たちに何の負い目も責務も感じることはないのよ」
「でも・・・・」
「聞きたい?」
「?」
「目的。聞きたい?」
「あ・・・・はい」
一瞬、私の脳裏に踏み込み過ぎかという
が、めらりの次の言葉が私の全感情を衝撃で揺さぶった。
「私たちの目的・・・・それは
「!!」
消滅!?
我哭守・・・・を??
あの我哭守村の存在を??
あまりの爆弾発言に、瞬時、私の思考が停止した。
「驚いた?」
「え・・・・は、い・・・・」
「そうよね、逃げ出したとはいえ、まがりなりにもあなたの故郷だものね。でも・・・・はっきり言って害悪。あんな闇はもう消し去らないといけないのよ」
「・・・・」
害悪。闇。
めらりが何を指してそう言っているのか──私は理解した。
「時の権力者たちが我哭守の者達の力を利用してきた歴史、それは今さら否定は出来ない。それに我哭守だけじゃなく各時代の各勢力にも表の歴史や事象の裏で少なからず特殊な力の暗躍があったことも事実。だけどそれは人として国として歴史としてあまりに不健全、そう思わない?」
分かる。
出自の者としてもあの環境の異様さは今なら尚更よく分かる。
逃げ出した自分の判断は間違っていなかったということも。
ただ、そんなことが可能なのだろうか?
あの異質な集団、環境を消滅させる?
そんなことが・・・・本当に?
「出来るわよ」
「え?」
「無理だと思ってるんでしょ? あなたはどっぷりと"中の人"だったから恐ろしさもよく分かっているし」
「・・・・」
「だけど
「致命的・・・・」
ふっ、と母の顔が脳裏に浮かんだ。
そうとうなパニックに陥っているであろう様子が想像出来る。
大丈夫・・・・なわけがない。
「この世に変わらないものなんてひとつも無いわ。始まったことはいつか終わる。あなたが抜けたことで我哭守村も終焉に向かう・・・・向かわせるべきなのよ」
語気を強めためらりの言葉が私の胸に突き刺さった。
けれど、終焉──本当にそんなことが可能なのだろうか。
記憶の中であの紅奇面が、にやり、と笑ったような気がした・・・・。
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