負けヒロインちゃんのやり直し!~二周目の青春は悪役令嬢と共に~
夜摘
第1話 幼馴染み属性負けヒロイン、悪役令嬢と体をシェアする
あるところに1人の少女が居た。
彼女の名は、
"幼馴染くん♂"のお隣の家に住んでいる幼馴染の女の子だ。
面倒見が良く心優しい性格だが少々お節介焼きなところがある。
趣味はお菓子作りと読書、そして映画鑑賞。特技は料理。
幼馴染くん♂のお嫁さんになることを夢見て、日夜花嫁修業に勤しんでいたが、あの運命の日…。なじみと幼馴染くん♂のクラスにやってきた美少女転入生が、なんやかんやあって幼馴染くん♂と相思相愛になってしまい、なじみは失恋。
かくして人生の意味を見失うこととなった負けヒロインちゃんである。
そしてまたあるところにもう一人。非常に見目美しく華やかな少女が居た。
彼女の名は、アクーヤ・クレイ・ジョーンズ。
由緒正しい名門貴族の家に生まれ、恵まれた容姿と才能を持ち、何より高飛車で高慢な性格で他人を嫌な気持ちにさせることにかけては右に出ることがない、ある意味で典型的な我儘お嬢様である。
"真実の愛を見つけた王子"の元婚約者であり、真実の愛を見つけてしまった王子に公衆の面前で婚約破棄された上、なんやかんやあって破滅する人生を歩んでしまった悲劇の貴族令嬢である。
二人の共通点はともに愛した相手への想いを成就させることが出来なかった”負けヒロイン”であること、そして、それが確定した瞬間にそれまで順風満帆かに見えた自分の世界が崩れ落ちて行ってしまったということである。
二人は自らに訪れた破滅の直前、あるいは最中に不思議な力により不思議な場所へと転送され、そこで出会うことになった。
* * * * * * * * * *
別々の世界に生まれ落ち、悲しい定めに翻弄されてしまった二人の少女は、己の記憶にある最後の瞬間、謎の眩い光に包まれ、そこで意識は途切れた。
そして、再び意識が戻った時には、見知らぬ場所にいることに気が付いた。
そこは光る雲の上のような、何故かキラキラとした…ふわふわとした現実感のない空間。
そこに佇んでいたのは、いわゆる女神だったり天使と言われるような、何処か神秘的で人間離れした神々しい雰囲気を纏った女性だった。
状況が飲み込めず、困惑する少女二人を尻目に、女性はゆったりとした口調で話を始めた。
「ここに来て貰ったのは他でもありません」
「貴女たちに最後のチャンスを与えるためです」
「貴女たちはそれぞれ自分の生きる世界で、大きな絶望と挫折を味わいましたね」
「時に私たちの神は、地上で起きた"出来事"について、"それ"が本当に起こるべきものだったのかを審議します。」
「そして、それがこの星の歴史として相応しくない─────起こるべきでなかった世界の過ちであると判断された場合、その時間とその間に起こった出来事は、すべて"なかったこと"へと修正されるのです」
「そして貴女たち二人が大きな絶望と挫折を味わうことになったそのきっかけ────貴女たち自身には身に覚えがあるでしょうけれど…それについて、これから神は審議を行うことになりました」
「貴女たちの絶望が、死が本当に世界に必要なものだったのか…それを確かめるため、貴女たちには…」
「もう一度"やり直して"貰います」
* * * * * * * * * *
ピピピピピピピ…
聞きなれた目覚まし時計のアラーム音に、意識がゆっくりと目覚めて行く。
チュンチュンと言う雀の鳴き声。
カーテンの隙間から差し込んでくる眩しい光。
何度も何度も迎えてきたいつも通りの朝だ。
「…ゆ、夢!!?」
飛び起きた
突飛な内容なのに妙にリアルすぎる悪夢で頭が混乱していた。
どこまでが夢でどこまでが現実なのか、なにもわからない。
「…嘘でしょ…????」
部屋の壁にかけられたカレンダーに目を向ければ、それは3年前の4月を示している。そして、赤い丸で記された日付に、間違いなく自分自身の文字で入学式!と言う単語が書き込まれているのだ。
「………」
なじみは得体の知れない夢の内容を思い返してみる。あの女神のような女性は言った「やり直せ」と。
なじみは、さらに思い出す。
―————そう、自分は高校生活の最期…卒業式の日、大好きな幼馴染くん♂に失恋したはずだ。
思い出したくもない。大好きな彼の隣には、高校に入学して少し経った後に転校してきた美少女の姿があった。
それが夢であればどれだけ良かっただろう。悪い夢であって欲しいと、なじみは何日も何日も泣いた。何もする気が起きずに部屋に引きこもった。苦しくて辛いばかりのあの時間すら、本当に夢だったの……?
「————そんな訳がない…」
ただの夢や妄想がこんなにリアルなはずがない。
「…………」
今もまだ、なじみの心の中には幼馴染くん♂への想いはしっかりと息づいている。
ハンガーに掛かっている真新しい…でも見慣れた高校の制服へと視線を向け、なじみはぽつりと呟く。
「私…本当にやり直していいの…?幼馴染くんを諦めなくて、いいの…?」
その瞬間だった。
なじみの頭の中に自分ではない誰かの声が響き渡った。
『ちょっと!!』
「……え?」
『諦めたら同じことの繰り返しになってしまうじゃありませんの!
その男を今度こそしっかり掴まえて貰わないとわたくしも困りますわよ!!!』
「!!!!?」
『————何を驚いていますの?
今回の"やり直し"について、あの女から…わたくしと貴女で一つの身体をシェアして挑むようにと言われたじゃありませんの。どうしてか…はわかりませんけれど…』
「え、え… だ、誰…????」
『はぁ!!?覚えていませんの???あの場所に!居たでしょう!麗しいわたくしが!』
そう言えば、夢の中で…あの女神様みたいな人と一緒に、「ですわ~」とか言いそうな雰囲気の金髪縦ロールのお嬢様キャラみたいな女の子も居た気がする…。
そして、何だかそんな風なことも言われていた気もする…。
『とにかく!貴女の失敗はその幼馴染とやらとの恋が成就しなかったことなのですわよね。でしたら、今回は以前よりももっとガンガンに攻めてさっさと自分のものにしてしまいましょう』
「え、えぇ!!!?」
『当然ですわ。貴女のその様子だと、前回はろくにアプローチも出来ずじまいだったのでしょう?』
「う…」
『安心なさい。今回はこのわたくしも一緒なのですから。…いくら貴女が頼りないと言えど、必ずやこのミッションやり遂げて見せますの』
姿は見えないのに、そのお嬢様キャラの人が胸を逸らしふんぞり返っている姿が、何故か見えるような気がした。
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