町おこしに続く恋は愛

縁乃ゆえ

仕事がない!

 長らく、人間関係というものの悩みに付け込み、定職に就かず職を転々として二十九歳となってしまった今日、独身女、望月尋音もちづきひろねは相当困っていた。

 今や、ハローワークなんてものは家のパソコンからでも検索できるし、それ以外にも方法がある。

 いや、何故こうも職に手を伸ばそうものなら書類選考は通るのに面接では落ちるのか。厄がついているのか、お祓いに行きたくてもそんなお金はないし、何か良い仕事はないか……。

 家も実家暮らしと肩身が狭く、最近まで働いていた所は急に仕事がなくなったから辞めて――で会社都合、私が悪いわけじゃない! と開き直り、一応一年以上は働いたので失業保険の手続きをし、細々と生きてはいるが……。

 このままでは親が何かしろ! と怒るのも時間の問題だ。

 どうしよう……とはたと今日も今日とて良い求人情報ないな~と思えば、目に入った多少大きめのそのバナー広告に惹かれた。

『一緒に地元の町おこし、しませんか?』とあるが、その下に小さく目の良い人でないと見れないくらいの大きさで『未経験、年齢性別問いません。この地元に住む方限定、地元愛を試しましょう! 給料はちゃんと出ます。常識ある方で熱意のある方ならインセンティブも考えます!』とか博打か何かやろうとしてるんじゃないか? 普通なら飛びつかない殺し文句で引っかかるのが彼女だった。

「これは、やらなくてはいけない気がする。地元愛、常識熱意インセンティブ……」

 でも、ここにある『大藤だいとうグループの一世一代の町おこし企画』とは何だろうか、ハローワークの求人検索のパソコンの中にあればちゃんとしたやつな気がするし、活動の一つにもなるだろうと尋音は家から近くのハローワークへと自転車を走らせた。


 夕方前のハローワークのパソコンはいくつか空いていて、その一つの指定された所に座り、尋音はスマホのスクリーンショットの画像をこっそりと見て、その求人情報がないか探した。

(あった!)

 そこには大藤グループについて書かれたあれやこれやもあれば、その応募したい求人情報もあのバナー広告の内容とまさに同じくだった。

 急いで印刷をして、これに応募したいんですけど! と尋音はハローワークの受付に持って行った。

 あ~はいはい……と慣れたもので向こうの人は着々とやってくれる。

 そして、書類選考を通り、次の面接ではその大藤グループの若き社長と言われる大藤晴久だいとうはるひさに出会えた。

 彼は三十一歳にして独身男。

 先日、大病で父の直久なおひさを亡くしており、その後継者としてその地位に就いた。

 見た目は爽やか、誠実イケメンそうで仕事が出来そうな感じのする人だ。

「では、望月さんは何故この企画にご興味をお持ちいただけたのでしょうか?」

 大藤社長自ら面接をするのはこの企画が彼自身の発案によるものだからだそうだ。

 気後れしている場合ではない。

 口は上手い方ではないが、ここは何が何でも仕事がしたい! という熱意で押し切ろうと尋音は口を開いた。

「地元愛というものに強く興味を惹かれました。私は生まれも育ちもこの町でして、その熱意を活かしたく、新たな事に挑戦して、この町の人を増やしたいというのは長年思っていましたし――」

 言っていて思うのは、そうすればこんな私でも働ける所がもっと増えるのではないか? という甘い考えもあったのだがそれは口にせず、ない事ある事交えて話した。できるだけ緊張せずに流暢に。受かれば良いんだから噓も方便という高校受験の時の担任のアドバイスを思い出しながら、何とか面接を終えた。

「はい、ありがとうございました」

 爽やかな彼からそんな言葉を受けて、着慣れない黒のスーツを早く脱ぎたい一心で尋音は自宅に帰った。

 もしダメなら今度は何の仕事を受ければ良いのか考える。

 その一週間後、尋音のスマホの着信音が鳴った。

 画面には『町おこし企画(大藤)』となっていて、そわそわな気持ちのまま電話に出てみれば、あの町おこし企画の一員として働いてほしいのですがどうですか? という大藤晴久社長自らの声での嬉しい連絡に、これで働ける! という熱い思いで尋音は「はい!」と即答していた。

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町おこしに続く恋は愛 縁乃ゆえ @yorinoyue

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