溺愛したい意地悪な姉は難攻不落です!?

MURASAKI

プロローグ

リンゴーン・リンゴーン……


 教会の鐘の音ウエディング・ベルが鳴り響く。扉が開かれると、中から美しいドレスに身を包んだ花嫁が花婿に抱きかかえられて登場した。

 喜びの涙を浮かべながら笑うその顔は幸せで溢れていて、こっちまでつられて涙ぐんでしまう。


 仲の良い友人の結婚式は、どうしてこんなに感動するんだろう? 義妹エラの時はただ嬉しくて、全くそんな風に思わなかったのに。

 やっぱり、がっつり自分がプランナーとして関わっていて緊張しまくってる結婚式より、参加するだけの気楽なお式の方がリラックスしていいのかな。


 私の右前あたりに、若い女の子が沢山群がってブーケトスを待ちわびているのが見える。独身女性は前の方へ集合するようにとアナウンスが流れて、本当なら私も行くべきなのだろうけど……流石に行き遅れともなると、そういった場に自らしゃしゃり出ることは申し訳ないし、ちょっと恥ずかしいのよね。

 転生前の世界なら、まだまだ私はひよっこの部類だろうけど……この世界じゃ19歳で結婚の決まったエラいもうとでさえ、適齢期を少し過ぎていたのよ。信じられる? 16歳や17歳で結婚するとか……考えられない! 人生まだまだこれからじゃない!


 シンデレラの世界で「意地悪な姉」に転生した私、槌瀬梨蘭つちせりらは、ドリゼラとしての人生を楽しんでいる。

 私ドリゼラを含め、お義父とう様と実妹のアナスタシアが不幸になるはずだった未来を、力業ちからわざで変えて救うことが出来たし、お母様の鬱状態だって改善させて幸せに導いたのだから……私が今の人生を楽しむくらい許されてもいいと思う。

 実際に商売しごとはとても楽しいし、私の家族が笑顔でいられることが私の喜びになってしまったんだから仕方ないよね。

 私が楽しんでいなくちゃ、誰も幸せになんてできないじゃない?


「キャーッ!」


 私が自分語りに浸っている間に、ブーケトスが始まったみたい。

 実は、ブーケトスをこの世界で庶民レベルに広めたのは、何を隠そう私だ。貴族の間でのみ細々と継承されていると聞いて、これはチャンスだと思った。

 エラいもうとの結婚式で大々的に花吹雪やライスシャワーをやったおかげで、その前に買収しておいた花屋は毎日のようにどこかで開催されている結婚式に引っ張りだこになった。

 日本転生前独自の文化(だと思う)の花輪をお祝い事に贈るのも、私財をつぎ込んで浸透させたおかげで――これは投資だからね?――事前に準備していた市場も販売ルートもほぼ独占出来て、商売は益々繁盛してウハウハ状態なのよねぇぇ。うふふ、じゅる。

 最初は大切な義妹いもうとの為に、花が足りなくなるといけないからと花屋を買収したのがきっかけなんだけど……ここまで上手くいくなんて、私だって考えてなかったもん。

 私が花を出す魔法を使えはするんだけど、花の魔法はすぐに効果が切れてしまうから……その代わりに考えたのが、安定して生花を供給できる独自ルートの開拓だったってわけ。


 やっぱり、私はこの世界で商売をする運命なのよ!


 鼻息荒く脳内でガッツポーズをしたとき、周りの空気がちょっとおかしなことに気が付いた。


「あああ!」

「キャー! 何でそっちに行くの?」


 ブーケトスで集まったお嬢様たちの悲痛な声が聞こえる。ああ、なんだかちょっぴり既体験感デジャヴ

 エラの時も、ブーケが強風であらぬ方向に飛んで行って、護衛で参加されていた騎士団長のサミュエル様の腕にすぽっと納まったのよね。

 驚いて目を白黒させているサミュエル様の表情ったら……あれはあれで面白かったけど、そう言えばあのブーケって、最終的に誰に渡ったんだっけ?


「あ、危ない!」


 私はその声に反応して、勝手に身体が動いた。おかげで周囲が騒然となってしまうなんて思わなかったのよ。

 ブーケを追って倒れかけた女の子と一緒に、あろうことかブーケまでキャッチしてしまった……。

 私が男性だったなら、お嬢さんを救ったオトコマエの行動に黄色い歓声が上がって耳が痛かったんだろうけど……そんなこともなく、ただのの私がブーケを手にしてしまったことで、その手と私の顔に交互で無言の視線が集中した。


 ゆ・許してぇ、そんな目で見るのはやめて~! 事故よ、これは事故なのよ~!


 半泣きで壇上に居る結婚した友人・エイダの顔を見上げると、それはそれは綺麗な笑顔で私の方を見ている。


 これはもしかしなくても、は・謀られた!?

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