第138話 それはそれ、これはこれ


 そして私たちは夜の町で戦闘を始めるのだが、流石というか何というか、腐っても国家魔術師である事を思い知らされる。


 今の彼女はおそらく薬の影響で、一般人であれば一発で廃人になるような程の精神的な苦痛や快感、高揚感等が津波のように押し寄せ、身体中は指先を動かしただけで激痛が走っているであろうに、自我をしっかりと保ち、それだけではなく私達三人の攻撃を避けて反撃までしてくる程である。


 確かに、彼女は薬のお陰で能力が向上しているとは言ってもそれらデメリットを抱えつつ、向上した身体をぶつけ本番で操れるだけの才能、精神的強さと技術の高さを持っている事は認めなければならないだろう。


 だからこそ、それだけの才能を持ちながら薬に頼ってしまうのは、私は惜しいと思ってしまう。


 しかしながら、逆にこれだけの能力を持っているからこそ目上に立つ存在が目障りで、当時の彼女の立ち位置が耐えられない程、それこそ薬に手を出してしまう程にまで許せなかったのであろう。


 とはいっても『それはそれ、これはこれ』である。


 だから許されるという物ではなく、しっかりと裁かれるべきであろう。


「確かに、強い。 それは認めるけど、やはり数的有利は覆せていないのもまた事実。 これはこれである意味で私達にとっていい練習になりそうね……」


 確かに彼女は薬を使っているとはいえ強いのだが、戦闘時間が長引けば長引くほど数的有利な私達の方が攻める回数が明らかに多くなっていき、被弾数もそれに伴い多くなっていく。


「思っていた以上に粘ってはいたが、ここまでだなっ」

「早く潰して、帰るデス」

「そうね。 私も早くシャワーを浴びて汗を流したいわ」


 そして私たちは相手の魔術師を路地裏まで追い詰め、後は潰すだけの作業である。


「薬が切れかけて副作用が今少しずつ襲ってきている中、良くここまで耐えたわね。 それに関しては素直に凄いとは思うのだけれども、残念。 だからと言って見逃すような事はしない」


 彼女は恐らくドーピング用の薬を日常的に使っていたのであろう。


 その為身体はその薬に慣れてしまい、効果の持続時間が短くなっているようである。


 途中から一気に相手の動きが鈍くなり、逃げに徹するようになったので間違いないだろう。


「私達と戦わずに始めから逃げに徹していればまだ助かったかもしれねぇのにな」

「……バカ、デス」


 恐らく彼女はもうコンクリート壁を壊す程の力も残っていなければ、ビルを飛び越えて逃げる力も残っておらず、立っているだけで精いっぱいなのだろう。


 その事が彼女の表情からも窺えて来る。

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