第117話 少しだけホッとする





『まだ息はあるっ!! 急げっ!!』


「騒がしいわね……」


 路地裏から怒声の様な叫び声が現状の緊迫感を俺たちに伝えて来ると共に、野次馬も一緒に引き寄せ、叫び声が聞こえた方角には緊急車両数台(救急車一台にパトカーが三台)と、それを取り囲むように野次馬が何事かと人だかりを作っていた。


「そうだな……ここ最近魔術師が狙われている事件が多発しているみたいだから麗華も気を付けないとだな」

「あら? 誰に向かて言っているのかしら?」

「そうは言っても今までやられた魔術師たちは全員Aランク以上の魔術師ばかりだと言うじゃねえか」

「あら? 私の事をそこまで思ってくれているだなんて……分かったわ。 東條様の悲しむ顔も見たくないし心配もさせたくないもの」


 そんな非日常的な光景を眺めながら、最近魔術師を狙った事件が多発している為麗華も気を付けるように言うと、初めこそ突っかかって来るのだが、それ以降は大人しく俺の言葉に同意してくれ、少しだけホッとする。


 麗華の事である。


 少しでもプライドを刺激されると逃げれば良いものを反撃しかけないからな……。 なんだかんだ言いつつも気を付けてくれるのならばそれに越したことは無いだろう。


 ちなみに今現在は麗華が一緒に登校してくれないと『この家に連れ込まれて私は無理やり犯されたってご近所様へ言いふらすわよ』と脅迫もしつつ言って聞かなかった為、しぶしぶ『今日だけ』という事で一緒に登校していたりする。


 その『今日だけ』が良く聞く『一生に一度のお願い』と同じレベルの重さにしか感じないのはきっときのせいだろう。


「という訳で、私の事が心配で心配で仕方がないという東條様の言いつけ通り、私は今日この時より東條様の側を離れず、常に一緒に行動する事にするわ。 勿論、朝交わした約束である『一緒に登校するのは今日限り』というのを破るのは心苦しいのだけれども、東條様たっての希望ならば仕方がないわね。 当然毎朝一緒に登校するだけではなく、下校時は勿論一緒に生活する事になるのだからその結果一緒にお風呂に入って一緒の布団で寝る事になるわね」


 そう思った瞬間、まるで俺の思考を読んでいたかの如く速攻で麗華が『今日だけ』という約束を破りにこようとしてくるではないか。


 しかも『本当は約束を破りたくないのだけれども東條様がそこまで言うのならば私は仕方なくその約束を破ります』という雰囲気で言ってきているのがまた腹が立つ。


「どう解釈すればそうなるんだよ……」

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