勇者として召喚されて３０年。 魔王を倒して元の世界へ、転生時の時間軸と身体（異世界で上がったレベルは据え置き）で戻されたので今度は平穏に暮らしたい

第17話 助けられたという事だけは理解できた

　今現在の魔術研究で発表された魔術は、ガスバーナーレベルの炎を出す魔術であり、野営での火起こし程度には使えるかもしれないのだが、スレット相手に使えるレベルであるかというと、全くもって使えないというレベルが現状である。

　その為私達魔術師は科学技術により進歩した魔術行使用媒体によって、自身の魔力で強化された武器を使いスレットを倒すというのが常識であり、当然私が通っている東京魔術大学附属魔術技術高等学園だけではなく、その他全世界の魔術師育成を視野に入れた学校では、スレットを倒すために教えられる内容は魔術ではなく魔術行使用媒体を利用した武器の扱い方法と、自分にあった武器の適性を探すというのが基本である。

　そして、件の男性はそんな魔術師の常識などどうでも良いと言わんばかりに高威力の様々な魔術を行使して竜型のスレットを防戦一方に追い込んでいる。

　こんな光景を見せられた私は、今まで信じて努力してきた常識がガラガラと崩れ去って行くのが自分でも分かる。

　しかしながら、いくら件の男性が高威力の魔術を行使できたところで竜型のスレットには、どういう仕組みなのかは分からないのだがそもそも魔力を帯びた攻撃そのものが効かないらしく、防戦一方であるにも関わらず無傷である事がここからでも窺える。

　私達の攻撃よりも遥かに威力が高い事が窺える男性の攻撃魔術であればもしかしたら、という思いがあったのだが、やはりというか何というかこの竜型のスレットには打撃攻撃しか通用しないのだろう。

　そうは思うのだが、この竜型のスレットは大槌千里の最大威力の一撃を喰らっても無傷であることからも、もしかしたら物理攻撃すら効かない化け物なのではないのか？　という不安が私の中で生まれてくる。

　そしてそれは私だけではなく、男性の戦いを観戦していた他の先輩魔術師達も同様のようで、はじめこそ希望に溢れた表情をしていたのだが、戦闘が長引けば長引くほどその表情に陰りが見えてきているのが分かる。

　そう思ったその時、男性は何もない空間から一振りの刀を取り出すと、そのまま一閃。　次の瞬間竜型のスレットの首が切り落とされているではないか。

　一体何が起きたのか、私には何も分からなかったのだが、私たちはこの男性によって助けられたという事だけは理解できた。

「竜種は色んな能力を持っているのだが、こいつはどうやら鱗に自身の魔力をまとわせる事によって魔力を無効化させていたようだ。　そしてその副作用で打撃による防御面も上がっていたようなのでコイツの魔力が尽きるまで魔術で攻撃して、尽きた所でその首を刈り取る事ができたという事だ」