第83話 百道の長男長女

 ヒーローの存在意義。


 それについて考える機会はいくらでもあった。

 でも、本気で向き合うのは今が初めてかもしれない。

 『魔王の泥』という桁違いの能力に凛樹が呑まれた。

 凛樹を助け、それを消滅させたのは、無能力者で主婦の母。

 本人が望んでいないのもあるが、その功績を闇に葬り、ヒーロー協会の功績とした。

 そのお溢れに預り、称賛を受ける俺。


「次世代のNo.1、期待の星、シャイニングマン!!」

 そう称えられる。

 その過剰にして虚構の評価に、握った拳の内側から血が滴る。

 超えやる…

 最強の頂き、その遥か先に存在する母。

 そして、俺が守る…

 最愛の妹たちをひっくるめた家族と世界。

 母ちゃんが担っていた全てを、俺が担ってやる

 

 若き血の滾りを、フラッシュライトが更に沸騰させた。


「俺が最強になる…本物の最強に…」

 渡されたマイクにそう宣言した。

 いつまでも守られるガキじゃない、守る存在となる。


 決意と自覚、少年の成長の瞬間であるその宣言、ヒーロー協会と光のSNSを炎上させた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「『魔王の泥』か…同じ世界征服として認めるわけにはいかないな…」

 映像を見て呟くのは、世界征服を目論む秘密結社ブラックラピッズの総帥、黒瀬堰臣は、

「街に…人に被害をもたらして、何が世界征服だ!!」

 立ち上がりそう怒りを顕にする。

「それと、彼らと手を結ぶことは金輪際ない。我らブラックラピッズは、『イトスギ』を拒絶し、否定する!!」

 水面下で何度も交渉に来ていた此度の騒動を起こしたヴィラン結社『イトスギ』。それに対する拒絶を宣言した。

 それは敵対に近い程の拒絶であった。


「平和…労働者とその家族…人の幸福なくして何が世界征服だ!!あんな悍ましいことを平気で行う連中がブラックラピッズの本懐を理解出来るものか!!ブラックラピッズの本懐は、『働きやすく、仕事と家庭の両立を真の意味で達成し、生き甲斐のある世界』。」

 黒瀬堰臣は拳を握った。


「弱きを守り、腐敗を憎む。それが改革の基礎だ。無差別に悪意を振り撒く時点で、正義ではない。」

 ブラックラピッズの真の目的を知る数人の部下は、彼の言葉に呼応し、動き始めた。




−−−−−−−−−−−−−−−−−



「違ぇだろうが!!そこでなんでその数式を使うんだよ!!」

 病棟に響く怒鳴り声。

「だから、違うって言ってんだろうが!!」

「も~勉強やだぁ~!!」

 ママによるマンツーマンレッスン。

「まだ初めて20分だろうが!!」

「やだぁ!!勉強やだぁ!!」

 お見舞いなのにスパルタ教育をするママに泣き叫ぶ私。


「嫌じゃねぇんだよ!!バカ娘!!」

「バカじゃないもん!!バカって言う方がバカなんだぁ~、ママのバカぁ~!!」

 病院の消灯時間まで、スパルタ教育は続いた。


 ママが帰り、真っ暗になった病室で、私は天井を見ながら呟く。

「なんで私のママなのに勉強好きなんだろ…」

 ママはあれでかなり成績優秀だったらしい。

 パパと結婚すると決めていたから大学に行かなかっただけで、どこの大学でも入れる程度の学力だったと神也叔父さんが言っていた。

「勉強よりも面白いこといっぱいあるのにぃ~。」

 対する私は学力は地を這うレベル。

「とりあえずデバイス取り戻さなきゃね…」

 没収され、どこかに保管された私のデバイスを取り戻すべく、私は夜の病棟でミッションインポッシブルをしていた。


「またなの!?今日という今日はお母さんに報告しますからね!!」

 巡回していた看護師に見つかり(十数回目)、ガチの説教を受けていた。

「入院長引くかなぁ…」

 ママから拳骨落とされるビジョンが見え、私はそう呟いた。







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