第24話 ダンスパーティー ①

 今回の討伐をたたえる意味と、私のお披露目と言う事で小規模なダンスパーティーを開く事が決まった。しかもこのパーティーの後には聖龍が住んでいる森の奥に邪気の溜まり場ができていると情報を掴んでいるらしく、それを払いにいくことが決まっている。実は南の国聖女に見てもらっていると、ミュゼァが教えてくれた。私に不安を抱いて欲しく無かったから、報告が遅くなったと謝られた。

私のお披露目についてララにも話したら、一番喜んでくれた。この世界に来てから一番一緒にいる時間が長い。


 朝食の席でパーティーのことを話したらとても嬉しそうだった。今日は天気が良かったからバルコニーでご飯を食べていた。

 二人位は並んでご飯を食べられそうだけど、ララにお願いをしてもご飯を食べてくれない。


「美麗様の美しさを皆に知らしめるようにお化粧させていただきますね。今回はあまり派手なものにはしないで、ちゃんと国の邪気を払ったら大きなパーティーをするって話していたのでそれまでは我慢しますが……。とても楽しみです」

「ララはパーティーに参加するの?」


 護衛の役割もしているララ。それを理由に近くに居て欲しいって考えるのは贅沢ぜいたくかな。


「ちょっとそれは難しいですね。騎士団の人間が護衛にあたりますし」

「知っている人がいないのは寂しいわ」


 隔離かくりされているわけじゃないけど、私はあまり人と接していない。ラヴァが言ってくれたことで少しは自信がついたけど、いきなりは難しい。


 ガタッと、扉が開くとミュゼァが姿を現した。


「オズワルドの気まぐれですまない。開催は明後日」


「明後日ですか」


 私が驚いて立ち上がる。ティーカップが少しずれるが、溢れることはしない。

 ミュゼァが席に近づいてきたので、私は正面の椅子を勧めた。ララは一旦姿を消しすぐに新しいティーカップを持ってくる。ついでに私が食べ終わった食器を下げる。


「私ダンスなんて踊れない」


 踊れたとしても盆踊りくらいだけど、この世界にそんな踊りがあるのかな。用意してもらった紅茶に口をつけ、ミュゼァがため息をついた。


「そうなるだろうと予測して失礼ながら朝早くからお邪魔した。俺が教える」


「本当ですか」


 今日は魔法の練習の予定だったから、空いた時間にララがダンスを教えてくれる話

になっていたけど。


 でも一日で踊れって言われってできるようになるのか。運動は苦手じゃない方だと思うけど、失敗したらどうしよう。


「そんな不安そうな顔をしないでくれ。スタートの一曲目の曲だけ踊ってもらえたら、後は誘われても断って構わない。君に話しかけてくるとしたら聖女のことが気になる連中だけだろう。俺のそばを離れないでくれ」


 その力強い瞳に胸が高鳴ってしまう。


 ミュゼァは私のために手伝ってくれるだけ。それは魔法に関しても同じで、特別な理由は一つも入っていない。

「ありがとうございます」



 一日踊ってなんとか形になったのが奇跡きせきのように感じてしまう。帰り際にミュゼァがドレスをプレゼントしてくれた。聖女の正装だからバニーガールの衣装を着ないといけないのかとヒヤヒヤしたけどそれが免れた。


 ドレスの箱を開けたララがニヤニヤ笑ってた。


「今日は全身マッサージして、明日綺麗な美麗様を見せつけましょう」


 嬉しそうなララに言われるように私は全てを任せた。




 ララがいつも以上に念入りに準備をしてくれて、準備が整ったタイミングで迎えに来てくれたのはミュゼァだった。いつもの魔術師の制服とは違い、黒をベースにしたジャケットには金色で袖口などに刺繍ししゅうほどこされている。ズボンは白く、私のイメージする王子様衣装だ。国王子であるオズワルドを見ても「かっこいいな」くらいで終わっていたけど、ミュゼァには先日から、ドキドキしてしまう。


「姫様お迎えにあがりました」


 入り口でお辞儀をしたミュゼァの動きは洗練されたもので私はその場に固まってしまった。


「美麗様、ミュゼァ様の手をとってください」


 後ろからララに背中を押され、私は差し出された手をとる。


 ミュゼァは私の姿を見て嬉しそうに微笑んだ。


「用意してたドレス着てくれたんだな。ありがとう」


「だってドレス何も持ってないんですもん」


 嘘だ。聖女としてこちらの世界で生活していくように雑貨ざっかから衣類まで一通り用意してもらっている。その中にもドレスも何着かあったような気がした。


「だって、用意してもらったなら着ないと申し訳ないじゃない」


 言い訳するようにもう一度口にする。ほおが熱くなっているのを感じる。用意されたドレスはプリンセスラインのドレスだった。色は群青色ぐんじょういろのようなもので、動くとキラキラ光って見えるように宝石が散りばめられていた。


 胸元はコンパクトにまとめてあり、肩が出ているからか、白く肌触りが良いファーの襟巻えりまきを巻いていた。イアリングは真珠しんじゅに似ている石が使われている。


 髪の毛はララが綺麗きれいんでくれていて、小さな生花せいか髪飾かみかざりがわりにつけていた。少しおくれ毛を残しているあたりがとても可愛く仕上がっている。


「美麗様今日は純粋じゅんすいに楽しんでください。最初のダンスだけは少し気が思いかも知れませんが」


「……昨日頑張った成果を見せられるようにします」


 あまり高すぎないヒールの靴。転びそうになるのを必死で堪えながら歩き始める。






 城で通されたことがある場所は召喚されたところと、閲覧の間で学校の体育館の場所に絢爛豪華けんらんごうかなドレスを着て自信満々にしている女性達に驚いてしまう。天井にあるシャンデリアはキラキラと輝いており、入り口から向かって左側にはテーブルが並んでおり料理がある。入り口から反対側の正面には左右に階段が別れており、王族はそこから入ってくるんだろうなって思ってしまった。


「魔術師・ミュゼァ様と、聖女・美麗様が入場されます」


 談笑だんしょうをしていた人たちが一瞬で入り口にいる私たちに視線が集中するのが感じられた。隣にいるミュゼァの顔を見上げると、その瞳は自信に溢れている。


「大丈夫。俺が全部フォローする」


「はい」


 私は胸はり、一歩踏み込む。


 会場の雰囲気はうっすらとだけど、黒いモヤモヤしたものが歩きがしてしまう。多分人が沢山いるからかも知れない。私とミュゼァが入ってきたらみんなこちらをチラチラ視線をむけてくる。  


 ミュゼァ曰く「知らない人と無理して話す必要はない。ここにいるのは国の重鎮じゅうちんもいるが聖女である君は権力に縛られる必要はないから、自由にしていていい」と言われた。


 会場を見回すと四十代位の男女が多いような気がした。扇で口元を隠して話している女性陣には近づきたい気持ちが浮かばなかった。


 キラッと光る何かが目の端に入ると、聞き慣れた声が私のことを呼ぶ。


「美麗様今日はおてもお美しいです。エスコートされているミュゼァ様が羨ましい」


 ミークの服装は見たことのあるものとは違い、シルクのような肌触りが良さそうな生地。燃えるような赤い糸の刺繍ししゅう。ミュゼァの服の衣装は植物のような模様に対して、ミークの服の刺繍は星をイメージするかのような刺繍だった。


「ミーク様も素敵ですよ」


 私はオリビアに教えてもらったカーテシーをする。淑女としての最低限の礼儀。ごうに入ればごうに従わなければならない。


 私のお辞儀に対してミークはにっこりと笑った。


「美麗様に褒められたら寿命が5年は伸びてしまいますな。お時間があれば一曲ワシとも踊ってください」


「はい、私でよければ」


 引きった笑顔にならないように気をつけていると、会場の空気が一瞬で変わる。私に対する悪意のある雰囲気から一変息を飲む声が聞こえてくる。


「王子オズワルド様、婚約者オリビア様の入場です」


 自然と会場の中から拍手が巻き起こる。普段突然私の前に現れるオリビアのイメージから、王子の婚約者ということを忘れてしまう。オズワルドとお揃いのデザインの服装。お互いの目の色をドレスやジャケットの一部に使っている二人。


 先ほど正面にあった階段から降りてきた二人は、階段をおり終わると二人は見つめ合う。オズワルドからは甘い雰囲気は感じず、でも大切な家族に向ける瞳に思えた。オリビアは一途に相手を想う瞳で、私は二人の関係性がなんとなく分かってしまった。


 ミュゼァは私のことを大切にしてくれるけど、それは私が聖女だからでそれ以外だったらきっと私を見てくれない。


 自分の母親が聖女だったから優しくしているだけ。


 辛さを知っているから、聖女から逃げ出さないために側にいてくれるんじゃないかなって思ってしまう。


「本日はダンスパーティーに集まっていただき感謝する。今代の聖女は異界から召喚された。今まで紹介できていなかったんだが、先日の魔物を退治してくれたのの感謝の意も込めて」


 オズワルドが私のいる方に視線を向ける。すると、隣に立つミュゼァが私の背中を押した。


「呼ばれている。お辞儀をするだけで大丈夫、なはず」

 少し自信がなさそうなミュゼァの横顔。最初言われていたのは、ファーストダンスをミュゼァと踊るだけでいいと言われていたはずなのに。


 オリビアだけでなく、周囲の人たちが私の場所に気がついたみたいだ。オズワルドが立っている場所へと人々が道を開けてくれる。期待の眼差しで見つめられるけど私にはその期待に答えるだけの勇気がない。


 一歩踏み出してみる。帰れないからこそ頑張ると決めた。だからこそ私はやれるだけのことを最大限にこなさないといけない。


 オズワルドが立っているところまで行くのがとても遠いように感じてしまった。私はオズワルドの正面まで行くとお辞儀をする。


「この国の聖女として当たり前のことをしただけです」


 そう聖女としての当たり前をしただけで、特別なことはしていない。


「そんな畏まらなくていい。今日は国王は来ないから楽しんでくれ」


「ありがたきお言葉」


 顔をあげオズワルドの顔をみると、王子の笑顔をしているんだけどその瞳の奥に何か感情が隠れている気がした。


 オリビアは私の姿を見て嬉しそうにしている。本当に素直な人で好感が持てる。


「今宵のファーストダンスを、美麗様に踊っていただきたいと思う」


 そう宣言すると、周囲の男性陣が少し動き始める。ミュゼァが動き始めると、女性陣が少しざわつき始めた。


「今まで誰とも踊らなかったのに」


「ミュゼァ様が今日来ているのも不思議だったのに、そういうことですか」


 悲鳴に近い声を上げる人たちが多い。私と踊ることが許せないのか、それともミュゼァが今まで誰とも踊って来なかったことに対してなのか私にはわからなかった。


「聖女・美麗様、踊っていただけますか?」


 王子様ってこんな感じなのかな。私はそっと差し出された手を取る。


「よろしくお願いします」


「もちろん。足を踏んでも大丈夫だ。安心して」

 そういうと、どこからともなくバイオリンなどの音楽が聞こえてくる。


 歩きながら中央にリードしてもらう。人々はダンスフォールの中央を開けてくれている。

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