079-月下に輝く紅禍
分厚い装甲板を腐食させ、クロノスは地上へと出た。
怒りのままに、目に映る全てを破壊する彼は、地上に待機していた戦車隊から砲撃を受ける。
反撃しようとするも、既に武装などすべて壊れて使い物にならない。
『邪魔........全テ.......消ス!!』
クロノスを中心に腐食の波動が巻き起こり、周辺施設と戦車隊を纏めて腐食させていく。
融解する戦車の内部から、人間が逃げ出していく。
『クラヴィス.....どこダ.....』
その時、クロノスの背後に車が向かってきていた。
それに乗るのは、ノイスター中佐。
しかしながら、彼は元の壮健さを失い、不気味なほどに痩せ細っていた。
「やめろChronus! 待ってろ俺今元に戻してやるぞ!」
ノイスターは隆起した地面を足場に車ごとChronusに突っ込む。
融けて組成の脆くなった装甲に、車はまるで沼に突っ込んだように停止し、ノイスターはクロノスのうなじにあるコックピットへの入り口を、専用の操作盤で開く。
そして、内部へと入り込んだ。
「な、何だこれは!?」
そして、中へと入ったノイスターは、棘だらけのコックピットを目にした。
背中側から生えた棘がコックピットのあらゆるものを腐食させているのだ。
ノイスターも怯まず、端子に管理用装置を突っ込み権限の上書きを試みる。
しかし――――
「な、権限に異常なし....? おい、やめろ! 俺はこんなところで死ぬ人間じゃ!」
クロノスの融解した装甲が、まるで意志を持つようにノイスターに絡みつく。
そして、ノイスターは悲鳴を上げた。
「うわぁあああああああああ!!」
その身体がどんどんと痩せ細り、しまいには骨がむき出しになり、最後には骨すら融けて消えた。
それを確認したクロノスは、心中で醜悪な笑みを浮かべた。
ノイスターは腐食した結果死んだわけではない。
クロノスに全てを”喰らい”尽くされて、その全てが純粋なエネルギーと化して消滅したのだ。
『おレ....の力.........うぉおおオオオおおオオオ!!』
クロノスの周囲で空間が歪み、幾つもの特異点が生まれる。
赤黒く周囲の空間を塗りつぶす特異点は、周囲から続いていた砲撃を完全に打ち消していた。
『死ネェ!!』
特異点の一つが、地上部隊の上空へと移動し、弾け飛ぶ。
赤黒い雨が降り注ぎ、地上兵器と人間を黒く染めていく。
「な、何だこれ....感覚が無くなって....助けてえええ!!」
「こ、こちら三号戦車、内部にまで何かが侵蝕してきて!!」
特異点によって、都市の防衛部隊は完全に壊滅した。
邪魔をするものがいなくなったクロノスは、都市へと進みだした。
だが、その時。
『クロノス!! クラヴィスはこっちにいるぞ!!』
声が響く。
クロノスがそちらを見ると、ヘリコプターが滞空しており、スピーカーから声が聞こえていた。
声の主はハーデン中尉だ。
『クラ....ヴィス.......ウガぁああアアア!!!』
クロノスは反重力装置を起動し、浮いた状態でヘリコプターを追う。
ヘリコプターは全速力で、海の向こうにある人工島へと向かうのだった。
「それで....ハーデンそ.....中尉、どうなされるおつもりですか」
「どうするも何も、このまま人工島に誘導して時を待つ」
ハーデンは、パイロットにそう答えた。
パイロットも深くは聞かない。
この、謎多き青年に逆らうと後が怖いのだ。
「....ですが、時を待つ、とは?」
「協力者がいる。クラヴィスを呼ぶ......まあ、あちらにも考えがあるようだったからな」
『待テ.......!』
その時、ヘリコプターの背後から轟音が響く。
クロノスが特異点による全方位砲撃を放ったのだ。
「シールドだ!」
「は、はい!」
ヘリコプターを一瞬紫色のシールドが包み、特異点による腐食効果をシールドを犠牲に打ち消した。
『ウガアアアアアア――――!!』
「避けろ! 避けなければ死ぬぞ!」
「は、はい!」
ヘリコプターは、左右に激しく動き腐食の砲撃を回避する。
シールドは一度きりしか使えないのだ。
「あっ、クソ!!」
「何っ!?」
回避したタイミングに、波間に紛れて特異点が体当たりしてきたのだ。
ヘリコプターは特異点に呑まれ、接触点から崩壊していく。
だが、幸か不幸か人工島が見えてきた。
「あそこに不時着だ! 僕の心配はいらない!」
「はい!!」
崩れながら落下するヘリコプターの中で、ハーデンは強く願った。
「頼むぞクレイン.....お前にしか、クラヴィスは動かせない....!」
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