『Clavis X Chronus』 異世界に転生したらロボ娘で、親友が転生してきたロボットに乗って戦うことになりました
黴男
シーズン1-序章
001-始まり
「なぁ、聞いてるのか?」
――――声が響く。
そこは、どこか巨大な格納庫の中だった。
声を発したのは、作業服に身を包んだ男。
その言葉を拾ったのは、機械を操作するもう一人の太った男だった。
「聞いてるよ」
「こいつは一体何なんだ?」
「知らねーよ.....」
機械を操作しつつ、太った男は面倒臭そうに答える。
それを聞いた最初に呼び掛けた男は、得意げに言う。
「俺の聞いたところじゃ、同盟軍の新兵器って話だぜ」
「こいつが新兵器だぁ? 冗談言うなよ」
男は同僚の話を伝え聞いた法螺話と断定した。
何故ならば――――
「こんな宇宙戦艦同士の殴り合いの中、人型の兵器なんざ出して何になる?」
「俺に聞かれても困るけどよ.....」
二人の目の前には、巨躯があった。
鋼で構成されたその身体は、格納庫の照明を受けて輝いている。
太った男が捜査している機械は、その巨躯――――機体に武装を取り付けていたのだ。
「これからテストか?」
「いや、まだだな。こいつ単体では動かないらしいからな」
機械を操作しつつ、男は言った。
「どうすりゃ動くんだよ?」
「知らないが......”鍵”はあそこに居るらしいぜ?」
男が指差したのは、格納庫外――――宇宙空間に浮かぶ、ひとつの実験艦だった。
◇◆◇
『メインフレーム起動、システムオールグリーン、稼働用バッテリの接続を確認。カーネルバージョンを確認、異常は確認できません』
…………….この、声は........?
『制御用データを解凍、アイカメラを起動』
その時、目の前が一気に明るくなった。
眩しさに、俺は思わず目を瞑ろうとした。
けれど、それは何故か出来なかった。
『視覚制御システムにエラー発生、発生個所をパージし、センサー光度を調節』
段々と目の前が鮮明になっていき..........俺は見た。
自分はどこか、白い部屋に寝かされている。
壁には何かは分からないが、無数の明滅するランプ等が付いている。
俺が立ち上がろうとしたとき、目の前に見えていたドアが開いた。
「起動したか」
「............?」
「おっと.....知識のインプットがまだだったな」
その時、俺の頭の中に何かが流れ込んでくる。
それは情報だった。
目の前のこの男は........デビッド・フォスター博士。
俺であり、「私」の――――生みの親。
「あ.............」
「悪いな、こんな形になってしまって.....おっと、その情報は君にはなかったな。」
「博士、早く起動シークエンスを完成させてください」
「ああ」
”博士”と呼ばれた男は、俺の傍の装置を操作する。
すると、何かが”接続”され、手足の感覚が蘇った。
ぎこちない動きで、手を持ち上げると――――それは、肌色ではなく、黒い素材で作られた金属の手だった。
視線を下げると、そこには金属のような、光沢を帯び、角張った胴体が映った。
動揺は起こらなかった。
「博士、感情数値が急激に不安定化したため、抑制しました」
「ああ、手を得たことに驚いているかね。確かに君は、手足の情報を知らなかったな」
俺の中に手足についての情報が流れてくるが、それはもう知っている。
俺は……前世を知っている。
前世は人間だった俺は、何故かこの機械の身体へと生まれ変わってしまったようだ。
「いきなりで悪いが、君の起動シークエンスを完了しなければならない、起き上がれるかな?」
「はい」
俺は返事をし、体を起こす。
博士は俺に首を上げるようにジェスチャーする。
俺がその通りにすると、博士は俺の胸に指先で触れた。
『!!!』
胸が開き、そこから球状の物体にコードがつながった何かが現れた。
「博士、それは?」
「私が開発した、世界でもっとも小型の『
「ほ、本当ですかっ!?」
「恒星機関はもっと大きなものかと思っていました......」
俺の中に蓄積された情報が展開される。
「恒星機関(スタードライブ)」とは、艦載機などに搭載される出力の大きい機関であり、バッテリーの微小なエネルギーを高速機動に必要な推力に変換するための機関であるはずだ。
どうしてそんなものを、情報では一般的な情報端末義体である俺に?
疑問に思うと、演算プログラムが起動し、疑問に対しての予測変換が行われる。
「..............答えてみろ、陽電子頭脳を搭載しているお前になら答えられるはずだ」
「――――私を、より長時間の稼働が必要な演算行動の任務に就けたいのでしょうか?」
だが、疑問は尽きない。
演算機能を長時間維持するためにエネルギーが必要なら、直接俺を大型の演算機械として組み込めばよかったはず。
わざわざ人型にする意味とは?
「そうだ。だが、お前が行うのはただの演算任務ではない、動くな、頭部ユニットを接続する」
博士がそう言うと、俺の頭に何かが触れた。
『外部ユニット検知、ライセンス確認:接続端子口開』と表示が出て、俺の頭に何かが繋がった。
同時に、情報が流れ込んでくる。
追い詰められた末の決戦兵器計画。
禁忌とされた自律型AIを二基も搭載した人型兵器の存在。
その内の一基が、俺――――
「理解したか? 済まないな、自我のある......仲間を、こんな形で死地に送り出さなければならないとは」
フォスター博士は、そう言って俺の眼を見た。
自動でフォーカスが博士の瞳孔を捉える。
「博士――そろそろ、”教育係”の到着時刻です」
「ああ............さらばだ、DN-264、『希望の
博士は最後に、俺に名前を付けて去っていった。
David Number-264、『希望の
いや、俺ではない。
「私」の名前だ。
同時刻。
誰も居なくなった格納庫で、超大型の機体が佇んでいた。
機体のアイカメラが、静かに光を宿す。
そして、その身体を拘束している固定器具が、徐々に軋み始めた。
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