闇鍋

 20年ぶりに高校時代からの友人から連絡が来た。どうやら今度の週末、仲の良かったグループで集まって鍋パを開こうとのことらしい。具材は各自好きなものを持って来いとのことで、どうやら鍋パは鍋パでも“闇鍋パーティ”のようだ。


 闇鍋とは暗い部屋の中で、一体何が入っているのか分からない鍋を皆でつつくといったものだ。その単語だけは聞いたことがあったけれど、まさか本当に体験することになるとは。

 しかし、どうも心配なことがある。なぜならオレ達は高校時代かなりのワルで、登校すれば下校するまでずっとふざけてばかりのお調子者グループだった。大学はそれぞれ違うところに行ったが、それからも時折彼らのおふざけ武勇伝をよく聞かされていたし、今更急に遊びの誘いを入れてくるなんて……当時のノリが抜けていないな。得体のしれない食材とか食べさせられるんじゃないだろうか。でもまぁ、せっかく誘われたワケだし、参加することにするか。


 妻にはゴルフコンペだと嘘をついておいた。さぁ、スーパーで適当な食材を購入しておこう。


 と言っても全部変な食べ物だと逆に白けてしまいそうだ。当たりとハズレを両方用意するとして、人参、白菜、あとは青りんごと焼きそばパンでも入れてみよう。さて、皆は何を買ってくるのやら。



 その週末はすぐに来た。集まったのは4人。佐藤、田中、高橋、そしてオレだ。久々に顔を合わせた4人は色々な話で盛り上がった。佐藤は最近営業の仕事をサボりがちだとか、田中は最近サヤカという若いOLと浮気しているとか、高橋は最近イライラすることが多くて情緒不安定、キレがちなんだとか。こいつら大丈夫かよ……。


 1時間ほど談笑したところで本命の闇鍋に入る。皆いくつか食材をもってきたようで、なかなかカオスな鍋が出来上がりそうだ。市販のスープを煮立たせて灯りを消し、順番に具材を入れていく。


 ボトン、チャポン、ピチャ。様々な音が次々と鳴っていく。胸がドキドキと高鳴るのがわかる。流石ににもうアラフォーの集いだ、明らかに食べられない物は入ってないだろう。


「「「「いただきます」」」」


 いただきますを済ませ、まず鍋に箸を入れたのは佐藤だ。


「よしっ、まずはこれにしよ」


 佐藤は鍋から食材を取り出し、ふーふーと息を吹きかけその何かを口に入れた!

 モグ、モグ。その咀嚼音は至って普通だが、どうやらかなり柔らかいものを口にしたようだ。そしてその正体に何となく気付いた佐藤はそれが何かを当てようとする。


「おお、多分これ焼きそばパンだな。ラッキー」


 佐藤か口にしたのはオレが買ってきた焼きそばパンだ。それにしてもこれが当たりって、ハズレの具材は一体どんなにひどいものなんだ? それとも、佐藤はとんでもない食材を買ってきたのか? どうか、その変なブツにだけにはどうか当たりませんように……!


 次に田中が鍋に箸を入れ、それを食べる。


「うぇえ、こりゃ人参だな。最悪だ……」


 ん? 人参がダメ? 多分またオレの具材だけど、田中って人参嫌いだったか?


 次は高橋の番だ。


「うおっ、りんごだなこれ。当たりだ」


 え、またオレの具材? こいつらちゃんと具材入れたよな? それとも今、運悪く変な具材だけが鍋に残ってるのか? また怖くなってきた……

 恐る恐るオレも鍋に箸を入れ、適当なヤツを掴んで、パクッ! と口にそれを入れる。


 ムシャムシャ……


 ん? これはりんごか? これも多分オレの具材だけど、それにしては変な味がするような。空気みたいな味、と表現するのはおかしいけれど、それにしても無味の何かを一緒に食べているような……ホントはダメだけど、ちょっとカンニングしてみよう。

 オレはバレないように細目で鍋の中を見る。そこに浮かんでいるのはパンにりんごに人参、それと白菜……全部オレの具材だ。こいつら本当に具材を入れたのか? 3人にそれとなく聞いてみよう。


「なぁ、ここまで全部オレが入れたやつだけどさ、皆何入れた?」


「あーごめんごめん、スープしか持ってきてなかった。てかいい感じの食材考えるのダルくてさ」

「えー、そういえば何だっけ?。適当なモノを入れたんだけど、強いて言うならサヤカちゃんのことばかり考えてたな」

「おいおい、それは聞いちゃだめだろ!」


 何なんだこいつらは……呆れているオレには目もくれず、そのまま闇鍋は続いた。30分ほど経っただろうか、結局にんじん、白菜、焼きそばパン、りんご以外の具材は現れず……3人は引き上げモードになった。


「あぁ、楽しかったけど何か急に疲れちゃったなぁ。でもこうやってリフレッシュできたし、明日からはちゃんと働こう」

「あぁ、何かサヤカのことどうでもよくなってきたわ、誰かに紹介しようか? まぁまぁ可愛いよ」

「ハッハッハ! 今日は楽しかったなぁ、ストレス吹っ飛んだわ。そういえばそのサヤカって女今度紹介してくれよ」

「ちょっと待てって! オレのものだサヤカは!」


 3人は相変わらずカオスな会話を続けている。田中と高橋がサヤカちゃんを狙い始めたし、もうワケがわからねぇ……

 もう今日はオレだけ先に引き上げよう。何か3人にムカムカし始めたし、明日の仕事がダルすぎるから早く寝たい。いや、その前にサヤカちゃんと会ってみたいな……


 それにしても3人は何の具材を入れたんだ? 流石に何も入れてないワケないもんな。

 気のせいだろうけど、あの日から仕事はサボりがち、会ったこともないサヤカちゃんのことばかり考え、そして何より、なぜかイライラすることが増えたんだよな。それがなぜかは、わからない。

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