第6話 戦の朝
朝。
目が覚めると、部屋の時計は6時を指していた。
いよいよ来たんだな。
アイツら、どうしてんだろうな……。俺がいねえから心配してんだろうな……。
だが、ここまで来たんだ。折角創作キャラを相手に戦えるんだ、優勝してやろう。そして1000億ドルを持って帰って、アイツらを驚かそう。
あと4時間で大会が始まる。ちゃんと朝食を食わねえとな。
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「朝最初に
「あら、貴方がユーリ・ピーターズね?フフッ、ありがと」
「一緒に朝食でもいかがですか」
「う~ん、どうしましょ~」
……こっちは部屋から出た途端そんなのを見て気分が悪くなった。朝からそんなのを見せるのやめろ!よりにもよって大事な試合の朝に!ユーリ・ピーターズだのエンシェントアトランティスだの、そんなの知らねえっての!あと相手がよりにもよってナターシャとか……!
無視だ、無視。
さっさと朝食に行くか……。
「朝からウ〇コでも食ったような顔してんなあ、お前」
「ハッ」
俺の前に誰かが現れた。誰だよ。声からして男なんだろうが。
「まあアイツらなんて気にすんな。それよりも俺のブレイクダンスを見てくれよ、ブロ」
「お前……ボビーか?」
「B-I-N-G-O,I am Bobby Argyle~♪」男は童謡『ビンゴ』のメロディーで答えた。
「……本物みてえだな」
「そういうお前こそ『一般人』ジョン・H・スミスだな?」
「そうだよ」
「ワオ!一般人がこんな大会に呼ばれてるってんで気になってたんだ、会えて嬉しいぜ!」
「こっちこそ会えて嬉しいぜ、『オーラダンサー・ボビー』」
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「おはようございます」
「君は
6時。わたしが部屋から出ると、ネコポンがいました。
「おはようネコポン。まさか私が好きになったから迎えに来たの?」ミーナがおどけて言います。
「ち、ちがうです!」ネコポンの顔は真っ赤です。
「隠さなくてもいいんだよ?」
「ホントです!ミーナさんに恋なんかしてな……」
「あら~?真っ赤な顔でそんな事言っても、説得力ないわよ?」
「でもよかった、ミーナに恋人が出来て」
「くへっ」今のはミーナです。「ま、まだ恋人とは決まってないんだから!」
「わたしにも早く運命の人、来たらいいな~」
わたしは冗談のように言いました。でもちょっぴり、ホントの事です。
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「お集まりの皆さん、私の名を覚えているでしょうか?」
朝食の静寂、或いは団欒が、その一声によって破られた。
「インフィニット・Xだろ?」和葉が冷静に言う。
「よく覚えていらっしゃる。同じ名前を思い出していた人は手を挙げて」
一同は戸惑った。
「……冗談です。これから戦いに赴く者達には戦いの直前までリラックスしていて頂きたいので」
「ハッハー。さすが格闘大会の主催者、心身共に万全の状態で戦わせてえって訳か」二番目に討竜が言った。「だがお陰で疑問まで出ちまった。なぜそこまで手厚くしてくれる?なぜ別々の世界の連中を戦わせる為に色々してくれる?俺にも、他の奴らにも、やりてえ事があったんだろうのによ」
「……ただの興味ですよ」
「なんだって?」「ただの興味?」「どういうことだ?」朝食会場の客たちがざわめく。
「ただ単純に、色々な世界の色々な力を戦わせたらどうなるか、という事に興味が湧いただけですよ」
「なんだよ、それ」討竜が少し笑みを浮かべて言う。「『俺がお前だったら、そんな事考えてた』って事そのものじゃねえかよ」
「それを聞けて良かったです。貴方と同じ世界に生きてたら、貴方とは良いお友達になれてたでしょうね」
「そうかい。バトルだったら俺が勝ってたんだろうがな」
「しかし、夜明けまで誰も出て行かなかったってのは素晴らしい。私としても興味を埋められるし、討竜さんにしても全員倒せるかもしれない」
「念のため聞いておきたいことがある」
突然の言葉。皆が目を向けた先は、『ストレイ・センテンス 異能奇譚』の主人公・
「簡単ですよ」インフィニット・Xが言う。「別室で快適に残りを観戦していただいた後、元の世界におカエしします。他に何か疑問は?」
「良かった。なら結構」葉治は言う。「それより、終わるまで自殺はできないのかい?」
「して頂いて結構ですが、他者と戦ったらどうかと。どのみち死ねないので」
「えぇ~……」葉治は不満げに声を出す。「なら辞退すりゃよかった」
「さっさと誰かに倒されればいいだけの話です。それからもう一つ」モニターはねっとりと言う。「貴方達は、願いをもうお決めになったのですか?」
「僕の願いだったら最初から決まってる!」大声で叫んだのは『禁忌戦機 GAZER666』の主人公・イエマサ。その眼はまるで信念を宿していると思わせる輝きを持っていた。
「僕の世界を、第四帝国から救う!だから、優勝してやる!」
「私も同じだ。『
「その意気です」モニターが褒める。嬉しげだ。
「他の方々も何か願いましたか?世界の為でも良し、身近な人の為でも良し、自分の為でも良し。その気になれば他の世界を破壊する事だって」
「……そうかよ」和葉が呟く。「やけに神の権能を面白がってるみたいだな」
「それではこの辺で……おっといけない」モニターの声は変わらず楽しげだ。「すっかり忘れるところでした。特別ゲストの事」
「特別……ゲスト?」ジョンが声を漏らす。
「あちらに」声がそう言うと、モニターに実写の手が映り部屋の隅を指した。「フードを被った方がお見えですが、貴方達はもうご覧になりましたか?」
皆が振り返ると、フードの男が腕を組んで座っていた。フードが深く被られているため、顔が見えない。
「ああ……大会の公式マニュアルにも詳細が載ってなかった、28人目の戦士か」ユーリが言う。風を体現するその声は、今は重い風の声だった。
「18品目の綿糸っつったか?」軽い声。これはユーリの声ではない。『ボケツッコミ日報』の1コーナーの主人公とも呼べる老爺の声だ。「ワシがボケGじゃ。早く帰ってダラダラしてたかったのによぉ、3兆円の為に体張らなくちゃならんくなった。お陰で今ワシは不機嫌じゃ」
「お爺さん、『18
「あんだって?」
「28人目の戦士」
「あんだって?」
「28人目の戦士!」ユーリの声が少し大きくなる。
「28品目の、な、何だって?」
「にじゅうはちにんめのせんし!」ユーリの声が一層大きくなる。
「28人目の
「にーじゅーうーはーちーにーんーめーのーせーんーしー!」ユーリが今までで一番の大声を出した。「ったく、そんなに聞くくらいだったらそっちから近づいてきてくださいよクソジジイ!」
「何じゃと?」ボケGの顔が固まる。
「そっちにだけは耳が反応するんですか」
「くっ……このっ、やるかぁ!?」激昂したボケGが服の中から大砲を取り出すと、その銃口はユーリを向いた。
「はぁ……これだからジジイの相手は」ユーリが溜息をつく。「なんだったら今やるか」
「は~いそれまで」インフィニット・Xが呑気に言う。「後で喧嘩できるから無益な戦力公開は慎んだ方が良いですよ。それはさておき」
参加者達がモニターに向き直ると、モニターは言った。
「その正体についてですが……今はまだ言いません」
「……は?」
「大事な事なのでもう一度。私は今、フードさんの正体を明かさない」
「何この場を引き延ばそうとしてんだよ!」女の声。魔法少女でも弾幕少女でもない、黒髪赤メッシュの少女の声である。「アタシはさっさと帰りたいんだよ!優勝して世界を書き換える、そしてお兄ちゃんにも会うって決めてここに残ったんだ!早くお兄ちゃんの顔が見てえんだ!さっさと戦わせやがれ!」
「血気盛んなのは良いことです。しかし今そうなるのはやめてくださいよ、『復讐の
「くっ……」敬禰と呼ばれた少女が歯ぎしりする。「じゃあいつ分かんだよあいつの正体。この体になっちまったせいで戦いたくて仕方ねえ」
「それを話そうと思っていたんです」
敬禰が元の椅子に乱暴に座ると、モニターは続けた。
「フードさんの正体は…………貴方達の出撃前にお教えしましょう」
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「それまではどうか平和に朝食を摂っていてください。こういう体験は二度と無いでしょうから」
そう言うと、モニターは煙のように消えた。
「……フードの奴、がキーパーソンなんだろうな」
「What the hell……面白え事になってんじゃねえかオイ。フード被ってるっつう事は、何かあんじゃねえのか?」
「……ひょっとすると、この中の誰かの敵、かもしれないな」
「いや、敵だったらすぐに殺しに来るだろ?この昨晩から今までそういうの見ても聞いてもいねえから、
「……そうか?」
「まあでも、フードの中身が見えねえんじゃなあ……」ボビーがだるそうに言う。
「男か女か、体格すらも分からねえくらいフードが大きいしな……」
俺はもう一度、フードの奴を見た。やはりフードが大きく、しかも深く被られている為、顔がほとんど見えない。ボビーの言う通り、性別も体格も分からねえ。
あれもうローブじゃねえのか?
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「なるほど、『フードの男』だな」
「ああ。奴は30代に見えた」
朝食を終えた俺は、ケイローンと最後の作戦会議をする。
他の選手の能力などは
だが、問題はフードの男だ。スキル『心眼』でフードの人物が男だとは見抜けた。
「奴の戦闘力は常人より少し強い程度だ。だが能力までは掴めなかった」
「あの板の神が介入しているんじゃないのか?」
「何度も言ってるだろ、俺の『分析』スキルは敵の持っている技までは見えないんだ」
「だから気を付けよう、という事か」
「奴の能力が分からないうちは」
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朝食を終え、客室に戻ってきた。
もうじきこの部屋ともオサラバか。
あるいはあの部屋ともオサラバか。
部屋にはキレイに畳まれた軍服といつものナイフ、M870ショットガン、M16アサルトライフル、そしてMP5マシンガンが置いてあった。それらが俺を応援するかのように。
俺はその軍服を着ながら、頭の中で友に言う。
必ず、1000億ドルを持って帰るからな。そしたら皆、俺の豪邸で住まわせてやるよ。美人な奥さんもつけてな。余った金は起業に回して、また得た金で毎日パーティーやっちまおうぜ。
服よし、ナイフよし、銃よし。
さてと、俺は言ってくるぜ。
ジョナサン、マイク、今に見てろ。俺はお前らと1000億ドルをシェアしてやるぜ。
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羽田空港、滑走路。
戦士たちはモニターの前に集まっていた。モニターは先程のような実体のない状態ではなく、ちゃんとした液晶画面に例のエンブレムが映っている、というものだった。
「皆さん、28人全員そろって頂きありがとうございます」モニターの声は歓喜に満ち溢れている。「実体があれば写真を撮りたかったくらいです」
「御託はいい、さっさと戦わせろ」「道着の奴に同じ」討竜と敬禰が述べる。討竜の声は嬉しげだが、敬禰の声は不満げだ。
「まだ説明したい事があるんですぅ~」おちょくり声でI・Xが言う。「まずあちらをご覧ください」
モニターは声の後、手を映して横を指差した。
一同が向いた先には、何かの巨大なポッドが28個、厳かに鎮座していた。
「……あれは」デイビッドが驚きの声を漏らす。
「あれは転送装置です。スタート地点はフィールド内からランダム、という訳で転送装置を利用します」
「ジョン、ジョン」
「何だよレイスピード」
「街の中でまた会おうな」
「ああ」
「さあさあ皆さん、まずは転送装置の中へ」モニターが嬉々として言う。
「頑張りましょう、仙理」早夢が微笑んで言う。
「そっちも途中で落ちたらアカンで」仙理が微笑んで返す。
「……にじか」
「和葉さん」
「また後で」
「……うん」
全員が転送装置に入り、外は静かになった。
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黄土色の革ジャケットの若者がポッド内の椅子に座った。
「……これはなかなか居心地がいいね、自殺場所にはピッタリかな」
他人が聞いたら少しばかりは引くであろうセリフを吐きながら若者が椅子にもたれる。椅子には
「さてと、皆さんが入ったところでお待ちかね、28人目の参加者発表を行いまーっす♪」嬉々とした耳障りな声と共にモニターが点灯した。右には例の『神』のエンブレムが、左には参加者の顔が映っていた。
「最強は俺だ」「にじか!」「和葉さん!」「さっさと戦わせろクソモニター!」「……」「行くぜ、ジョナサン、マイク」色々な声が左から聞こえてくる。
「あのー、今から28人目の参加者発表をするんですが」『神』がねっとりと言う。
「うし来たっ!」喜ぶ男の声。これはどう考えても道着の脳筋だ、と若者は思った。
そしてモニターが言う。
「28人目の方、フードをお取りください」
28人目が、そのフードを取った。
若者は目を暫く閉じることが出来なかった。
「なっ……なんで、あ……あっ……あいつ、が……」
フードの中から現れたのは男だった。若者の、何度も見た顔だった。
それは仇敵の顔だった。
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「その人の名前は
モニター、その声どうにかならんのか。
結局28人目さんの能力とかも教えてくれなかったし。
願いを叶えてくれるとは言え、やっぱあのモニタームカつく。でも勝てば願いを叶えてくれるんでやっぱいいヤツ。
ま、28人目とか問題外なんですけどね。
僕には倒したい人が別にいるんですよ。
今に見ていろチート勇者。僕はお前を許さない。
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「それでは!これよりバトル開始の秒読みに入ります!!」
10!「提督、行ってきます」「ユーリ君、また後で」「ナターシャさんこそ」
9!「……」「さ~楽しい楽しい武闘会の始まりだぁ!」「威勢がいいなデイビッド!」
8!「行くぜアッシュ」「ああ、共に生き延びよう」
7!「さ~て、ここで一花咲かせますか!」「待ってろよワシの3兆円!」「民よ、そなたらの為に必ずや勝ってみせるぞ」
6!「……天使め」「……悪魔め」
5!「みんな、オレは勝ってみせるよ」「改めて見ると面妖な事だな」「行こうゲイザー」「ああ、イエマサ」
4!「最強は俺だ!」「兄ちゃん、必ず呼び戻してあげるから」
3!「にじか、また後で」「和葉さんも」「必ず倒してやるからなお前」
2!「「ネコ君、また後で」」「早夢ちゃんも仙理ちゃんもです!」
1!「またな、ジョン」「後で会おうぜ、レイスピード」
0!
「皆さ~ん、行ってらっしゃ~い!」
その声と共に、ポッドが一つを残して消えた。
そしてモニターは呟いた。
「さあ、戦いあうがいい……。勝てば願いが叶い、負ければただカエるのみ……」
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