第2話 集められた者たち
「さあハムスキーの手下め、何企んでるか喋ってもらうぜ」
えっ。これ、まさか俺、疑われてるのか?勝手に俺の部屋にいるのはお前らだろうが。ここは俺の部屋だぞ、ドア開けたらお前らがいるんだ、こっちだって何が起きてるのか知りてえ。
「……おい、ここは俺の部屋だぞ、そっちだってどうして勝手に俺の部屋にいるんだよ」
「ここはお前の部屋だって?なら、尚更お前が怪しい。どうせ中身はハムスキーのアンドロイドなんだろ?」
「いや、俺は人間だ」
「オレ達は気付いたらこの部屋にいた。だがお前はドアから普通に入ってきた。って事は、お前の仕業って事はハッキリしてんだぜ」
……こりゃマズい。絶対疑ってるぜコイツ。
どうする。どうやって人間だと証明する?レイスピードは探偵だから、メチャクチャ頭が切れる。下手な説得をしてもボコボコにされるだけだ。何度もハムスキーの悪事に出くわしてるから仕方ねえんだろうが、ここは何とか、ハムスキーとは無関係の、ただ巻き込まれただけの人間だという事を証明しなければ。とりあえず話を聞くってのも有効だろうし。
アンドロイドと人間の違い……そうだ。
いきなり俺の手に刃物を突き付けるというのはどうか。実際に刺したら、アンドロイドだと何も垂れてこないが、人間だと血が垂れてくるはずだ。丁度俺はコンバットナイフを持ってるしな。やりたくねえが。
「俺の体にコンバットナイフを刺す。これはマジだ。こうして血が出てるってのを見せなきゃ、お前は絶対信用しないんだろうな」
「……正気か?フッ……」
突然レイスピードが笑みを浮かべた。やったか?
「お前、名前は?」
「名前?……ジョン・H・スミスだ」
「……お前、アンドロイドじゃねえな」
「へっ?」
「アイツのアンドロイドは自分を絶対に刺しはしねえ。擬態してるのがバレちまうからな」
「……」
「お前は刺す事を選んだ。人間だってのを証明するためだろうな。そのくらいの自身がなきゃ、まだ無駄に説得してただろうよ。お前は人間だ。信じるよ」
良かった。成功だ。
だが、俺がレイスピードを知ってるってのも言わないといけないか?また怪しまれる可能性があるが……。
「……実は俺、お前の事を知ってるんだが」
「なんだ、お前もオレのことを知ってる『外の世界』のモンか?」
……どうやら怪しまれるどころか、話が進展しそうだ。
「ああ、お前の名はニック・『レイスピード』・マックウルフで、その名の通り光みてえなスピードで動くことが出来る。ハムスキー教授相手に日々戦っていて、好物はコーラと肉料理」
「……やっぱりお前も知ってるんだな」
「お前も、って」
「実はこの改造制服も、同じように知ってやがるんだ」
レイスピードが改造学ランの青年を親指で指して言った。
「この改造制服の野郎が、オレがここに転送された時に何が起きたかを説明してくれたんだ。最初はオレと同じくらいの背丈のネコ野郎が喋ってたんだが、途中から女二人と遊び始めやがってな」
「……はあ」
「そんで途中からは学ラン野郎から聞いた。確か名前は……ショウ・シオミだったか」
ショウ・シオミ……
漫画『ビザール・マスカレイド 奇妙な魔少年と恥知らずの仮面』の主人公で、分身を出して戦う高校2年生。指輪にセットする鉱物によって分身の能力と姿が変わるっていうヤツだったな、確か。これもケントに教えて貰ったから分かる。ケントが「オレのオススメ漫画第1位」とか言ってたしな……。
『ビザール・マスカレイド』はほぼ現実の日本に近い舞台だからな……映画名とかゲーム名もそのまま劇中で出てるってのもあるか。
「で、その『ネコ野郎』って……」
「ああ、ソイツならまだオレの後ろで遊んでやがる。五月蠅えったらありゃしない」
レイスピードの後ろに目をやった。
CGだとは思えない質感の緑オオカミの後ろでは黄色いネコのマスコットが巫女服の少女とゴス服の少女相手に戯れていた。
「ネコ君はやっぱり可愛いわね~、特にその口元とか、目とか」
「えっ、ホントぉ~?ありがと~」
「ネコく~ん、もっかい『にゃ~』って鳴いてくれへん?」
「にゃ~」
「はう~キャワイィー!」
……緊張感ねえのか、コイツら。
「おい今『コイツら緊張感ねえのか』って顔したろ?」
「うわっ!」
「ハハハ、オレは探偵だからな、そんな事状況から見て分かるだろ」
「……はあ」
早くここから出たい。
「あっそう言えば、お前らはここから出られたりしたのか?」
「出られなかった」
誰かの声。レイスピードの声ではない。戯れている3人でもない。
口を
「僕の分身の能力をもってしても、その扉は破れなかった」
聞いて恐ろしくなった。すぐにドアを開けようとした。
が、扉は固く閉ざされてしまっていた。
ナイフを取り出そうとすると、再び承の声が。
「僕の分身の技『プラチナム・ラッシュ』でも破れなかったんだ、ナイフでも銃でも破れない」
「え……」
「ジョン・H・スミス。あんたはこの部屋の持ち主と言ったな」
「名前聞いてたのか……。正確には俺を雇ってる軍の所有物だが、まあ今は俺の部屋ってとこだ。この世界が俺の住んでる世界と同じだったらな」
「確かめてみるか?」
承が突然手を差し出してきた。握れ、って事らしい。
俺はその手を握り返した。
確かな感触。コイツはCGじゃねえ。
「じゃあ次はレイスピードの手だ」
言われるままに、俺はレイスピードと握手した。
確かな肉球の感触。コイツも、CGじゃねえ……。
俺は今まで生きてきたことを感謝した。
「二人とも、本物なのか」
「そうだ。僕も先程、レイスピードの手を握ったが、同じように本物の感触があった」
「という事は」
「ああ。ここにいる全員が、本物だ。今から分身で扉をもう一発殴る」
言うと、扉の方から音がした。誰も物をぶつけていないのに、音がした。
承の分身は『分身能力者』以外には見えない。おそらく承も本物なんだろう。
俺はそれを確かめると、もう一度問うた。
「とりあえず全員が本物だ、って事は分かった。だが、本物のアニメ・ゲームキャラが集まって、何か意味でもあるのか?あとなんで俺のような一般人まで」
「それはレイスピードに聞くんだな」
承はそう言うと、寝る体制に入ってしまった。
承は分身を持ってしまったことで親しかった友達にも離れられてしまったので、そういう不愛想な性格になってしまったらしい。
……何から何まで漫画の通りじゃねえか。
気を取り直して、レイスピードに問う。
「レイスピード、お前はどう思……」
「たぶんコラボ企画か何かだろうな」
レイスピードが口を続けようとした瞬間。
『18時15分になりました。これより参加者の護送を開始します。参加者の皆さんは出発のご用意をお済ませの上、駐車場に集合なさるようお願い致します』
「えっ何だこりゃ?」
「……やはりそうらしいな」
レイスピードが、自分の推理通りらしいという事に喜んだようだ。
「しかもオレ達以外にも参加者がいるらしい。余程大規模な企画なんだろうな、期待外れなら企画者をブチのめさなきゃいけねえ」
「そりゃ大層なこった」
「とりあえず出発の準備をするぞ」
俺達はそれぞれ出発の準備をし、駐車場へ向かった。
三台の黒い装甲バスが、駐車場にあった。
それらは全部米軍の物ではなかった。が、戦争に行くような雰囲気を醸し出している点では同じか。
俺達はそのうち『003』と書かれた車両に乗り込み、めいめいに座る。
『目的地設定。目的地:東京国際空港』
そして、『001』から順番に、装甲バスが発進した。
窓の外には、雨粒が見えた。
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装甲バス『001』の中。
フードの男が座席の隅に座っていた。
男はつまらなさそうに他の座席を見た。
賢さの欠片も無さそうな格闘家風の青年、何かの特殊部隊員のような服装の男、ジャケットを着た白髪の少年、紺色髪と黒コートの少年、金髪白装束の青年、金髪の女騎士、金髪とスーツの男、エンジニア風の青年、ヒップホップ風の黒人青年、そして近未来的装備の女。誰一人として弱そうには見えなかった。
男が他の乗客に対して抱いた感情はただ一つ。
殺したい。
彼もまた、『参加者』とされた者達の一人である。
彼は『活動』をやっている途中、謎の光に包まれ、ある一室に閉じ込められた。『能力』では部屋から出ることは叶わなかったため、集い来る『参加者』を見ながら時間を潰していた。その時の彼は、集い来る者達を殺そうとはしなかった。何かが起こる、という確信が彼を止めたのだ。その『何か』が分かるまでは、殺すわけにもいかなかった。
彼は同時に、自分と何度も相対した宿敵の事を考えていた。その宿敵は今どこで何をしているのだろうか。その事も彼の脳裏を駆け巡っていた。
何度も彼の目の前に現れた宿敵。
自分の理想の世界の実現を妨げる、偽りの正義漢。
その事を、彼は何度も考えていた。
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『まもなく東京国際空港でございます。お忘れ物のなさいませんようお降り下さい』
雨の降る中走っていた装甲バス内に響き渡る、普通のバスのような声。
「トウキョウ、か……。この世界のトウキョウってどんな都市だ?」
「日本、って国の首都だ。文化もモノも色々揃ってる」
「成程な」
普通じゃねえ状況にも関わらず、俺とレイスピードは普通の話をしていた。
「にしても雨か……。オレは雨が嫌いでな、仕事はいつも雨の降らない日にしてる」
「レイスピードさん本人の貴重な言葉、頂きました~。おっと、もうすぐ着くみたいだぜ」
18時45分。
装甲バスが止まった。もう着いたようだ。
俺達は装甲バスの誘導に従って降りていった。装甲バスから降りると、何らかの違和感が生じた。
「おいレイスピード、何かおかしくねえか?」
「何がだよ」
「何故か分からねえがとにかく違和感があるぜ」
「ジョン、さっき『雨が降ってる』ってったな」
「何だよ」
「ついさっきまで雨が降ってたってのに、地面も車両も全く濡れてねえぞ」
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