イチイチク(No.11)

ユザ

(1)

 生まれつき周りと比べて頭の出来がよかった。嘘でも自慢でもない。偽りのない事実だ。そのせいで時折奇妙がられることがあるくらいに。だから大抵のことはすぐに理解ができた。それが何故なのかはわからない。そこに「これ」と断定できる原則や要因が存在していたのかもわからない。わかるからわかる、としか説明のしようがなかった。何かの生まれ変わりかもしれないと思った。でも、前世の記憶は全くない。それに、変換キーのないキーボードのように、理解したものをそのまま出力できるわけではなかった。

 マルは自分の生みの親が誰だったかなんて一切覚えていなかった。物心ついた頃には、明らかに血の繋がっていない老夫婦のもとで暮らしていた。子供に恵まれなかった彼らは、彼女のことを本当の我が子のように扱ってくれた。おじさんは定期的にお漏らしをしていたマルを一切叱らない優しい人で、おばさんは毎日美味しいご飯を作ってくれる料理上手な人だった。

 しかし、彼らはどちらもそのわずか一年後に他界してしまった。住宅街の一角が灰の山になるほど大きな火災に巻き込まれたのだ。二軒先の家に住んでいた素行の悪い中学生の息子が寝タバコをしていたことが原因らしい。その火災で命を落としたのは、奇しくも足腰が弱かったせいで逃げ遅れた彼ら二人だけだった。

 マルは燃え盛る火の海に溺れていくように家屋が崩れ落ちていく光景を目の前にして、「まだ家の中におじさんとおばさんがいるんです。誰か助けてくださいっ」と必死に叫び回っていたが、結局は誰も助けてくれなかった。みんな彼女の声には気付いていながらも、誰も彼も知らんふりしてその場から逃げていった。ずいぶんと遅れて到着した消防車のサイレンの音はやけに耳にこびりついている。当時の記憶が鮮明によみがえってくることは未だによくあった──。

 華金の繁華街。路地裏の陰に身を潜めるようにして人の行き交いを眺めていたマルは、遠くから聞こえてきた消防車のサイレンの音に耳を澄ましていた。また誰かが寝タバコをしたのだろうか。そんなことを思っているうちに空腹でしびれを切らしたかのように胃がうめき声をあげ、彼女は現実に戻った。

 いちいち大きな身振り手振りで笑い合う大学生らしき集団。頬を赤らめて千鳥足で歩くサラリーマン。これから出勤なのか大胆に太腿を露出するミニスカートに毛皮のコート、ロングブーツを組み合わせた派手めな女性。店の前を通り行く男たちを狙って『おっぱいいかがですか』、『活きがいいおっぱい入ってますよ』と魚屋の店主みたく声をかけていくスーツ姿の男性。終電の時刻はとっくに過ぎていた。とはいえ、この辺り一帯に立ち並ぶ店は未だにどこも一日の終わりを感じさせることのない賑わいをみせていた。サイレンの音に立ち止まり、遠くで火災に巻き込まれているであろう見ず知らずの人々を心配しているような通行人は一人も見当たらなかった。そのうち何人かの通行人はマルの姿に気付いて声をかけてくれたが、油汚れにまみれたその身体を見た途端にそれまで温厚で優しそうだった瞳がまるでゴミを見るような眼差しに変わり、その場から逃げるように立ち去っていった。

 ふとした時にまた腹が鳴る。マルはここ一週間、まともな食事にありつけていなかった。飲食店の廃棄物を閉店後にこっそり漁って回ったり、公園の水道水でなんとか空腹を誤魔化して生きながらえた。

 マルには帰る家がなければお金も持っていなかった。当然、小さい頃からずっと温室で育ってきた彼女が誰の手も借りずに独りで生きていく術を心得ているはずもなかった。しかし実のところ、誰かがすぐに自分のことを拾ってくれるだろうと心配はしていなかった。容姿にはそれなりの自信があったからだ。彼女は自他共に認めるほどの美顔の持ち主だった。

 でも結局、身体中から異臭を放っている一文無しの女を持ち帰ろうとする物好きな男は一人も現れなかった。マルは世の中のことを少し甘く考えすぎていたのかもしれない。今となれば、家を追い出されたところでどこか楽観視していた一週間前の自分が憎たらしい。身体が臭くならないうちに、次の男を見つけておくべきだった。だからその男に声を掛けられた際も、半ば諦めかけていた彼女は無意識のうちに投げやりな態度をとっていた。

『きみ、こんなところで何をしているの?』

「いや、別に何も」とマルはそっぽを向いた。

 すると、よりによってそんな時に腹が鳴った。たちまち火を噴いたようにマルの顔が熱くなる。その音を聞いた男が目の前でクスッと笑ったのだ。マルは目を細めてそんな彼のことを睨みつけた。

 コンビニ帰りなのか、男は手にビニール袋を提げていた。グレーのトレーナーにブルージーンズを穿いているものの、足元は靴下もつけずにスリッパを履いていたことから男の家はこの繁華街の近くにあるのだろうとマルは予想した。こんな寒い日に素足をさらして出歩くわけがない。

『お腹空いてるんだね。サラミあるけど、食べる?』、男はそう言うとビニール袋から取り出したサラミをその場で開封し、マルの顔の前に差し出した。『結構これハマっててさ。美味しいからきみも食べてごらんよ』

 男の薬指に光るものは付いていなかった。ということは彼は独り身なのだろうか。そんなことを考えながら、マルは何も言わずに男の顔色を窺っていた。脈アリなのかどうかを見定めるように。

 すると男は何を思ったのか、唐突にその顔をマルにぐっと近づけて微笑んだ。『遠慮せずに食べなよ。何も食べてなかったんだろう?』

 一瞬、心臓が止まるかと思った。マルはとっさに目を逸らしてしまう。何故だかそれ以上は彼の顔を直視できないと、彼女の中の乙女心がそう判断を下した。

『本当にいらないの?』と男は尋ねた。

「別にいらないとは言ってない」、マルはスナック菓子のかすが袋からボソボソとこぼれ落ちるような小さな声でそう呟き、ようやく目の前に差し出されたサラミに手を伸ばした。薄切りされた乾燥肉は口に入れた瞬間にピリッとした辛味が舌を刺激し、表面にまぶされた黒胡椒の爽やかな香りが鼻に抜けた。不思議と口内の水分は奪われていく。しかしいつの間にかその感覚が癖になり、気付いた時には彼女はその手を止められなくなっていた。

『ずいぶんと美味しそうに食べてくれるんだね』と男が言った。ずいぶんと嬉しそうな目を浮かべながら。

「あんまりジロジロ見ないでよ」とマルは言った。その直後にビニール袋の中に金色ラベルの缶ビールを見つけた。これから家で晩酌でもするつもりだったのだろうか。彼女はビールというものを飲んだことはなかったが、喉越しが良くて誰もが幸せな気持ちになる飲み物だということは噂で耳にしていた。一体どんな味がするんだろう。一度でいいから飲んでみたいな。マルはビニール袋の中を覗きながらビールの味を想像した。

 やがて男は彼女の視線からそんな思惑を見透かしたかのように苦笑いを浮かべ、首を振った。『ごめんね、これはあげられないんだよ』

 マルは黙ったまま男を睨み付けた。すると彼はしばらく頭の後ろを掻いていた。参ったなあという風に。

『じゃあさ、これからウチこない?』、男は思い立ったようにそう言った。

 えっ、とつい声が漏れる。

『そんな警戒しないでよ。それよりも名前はなんていうのかな』、男はそう尋ねてマルの胸元に目をやった。

 何の許可もなくジロジロと覗き見るその視線にマルは思わず身構えた。そして不意にあることを思い出し、首から掛けていた名前が刻印されたペンダントを慌てて手で隠した。それは前の男にもらったものだった。

『へえ、マルちゃんっていうんだ』、男は独り言のように呟き、それからしばらく何か考えごとをするように数秒ほど黙り込んだ。『……歳も俺と同じくらいなんだね』

「あんまり初対面の女の子の前で年齢の話をするのは良くないと思うんだけど」

『ああ、ごめんごめん。ちょっと計算してたんだよ』と男は言った。

「計算ってどんな?」とマルは尋ねた。

 しかし男はその質問を無視して強引にマルの身体を抱きしめた。『はい、捕まえた』、抱き寄せたマルの背中の後ろで、男は手に持っていた開封済みのサラミを反対側の手に提げていたビニール袋の中に器用に仕舞う。そして彼はマルの耳を何度か優しく触った。『もう大丈夫だから。俺んとこにおいで』

 近くを通りかかった通行人たちはみんな、油まみれのマルを抱擁している男に対して軽蔑するような目を向けていた。きっと彼もその視線には気付いていたに違いない。だが、それでも抱きしめることをやめようとしない彼の腕の中にいるうちに、なぜだかじんわりと安堵感が広がっていく感覚があり、不思議と抵抗する気になれなかった。

 きっとこの人は味方なんだと、マルはそう思った。


 男は自らをハヤトと名乗った。年齢は二十四歳。たしかに同世代だ。

 帰路の途中、彼は訊いてもいないのにペラペラと身の上話をし始めた。

 ハヤトは高校三年生の時に交通事故で父親を亡くし、卒業後はかねてより志望していた大学への進学を諦めて地元の印刷会社で働き始めた。専業主婦だった母親は夫の急逝に大きなショックを受け、それからは精神的に不安定になってしまったのだという。何の前触れもなく唐突に夫の名前を呼びながら泣き叫んだり、温厚だった以前までの姿は影を潜め、些細なことで感情的になってハヤトに強くあたるようにもなったのだとか。

 ハヤトはそんな母親を相手するために、恋人も作らずせっせと仕事と家事に奔走する日々を過ごしていた。母親を一人きりにするなんてことはとても考えられなかったという。『できればマルにも会わせたかったんだけどな』と隣でぽつりと呟く寂しそうな彼の顔を見て、彼は家族のことを何よりも大切にする人なんだな、とマルは深く感心した。

 彼の母親はちょうど一年ほど前に夫のもとへ旅立った。近くの公園で倒れていたところを通行人に発見されたのだという。彼女は死ぬ直前まで何かと戯れていたらしい。

 遺体には特に目立った外傷はなく、体内からも有害な毒物は一切検出されなかったため、警察はすぐに事件性はないと判断した。かかりつけの主治医は、彼女は昔からアレルギー体質だったから何かの引き金で突然容態が悪化したのだろう、かなり深刻なアナフィラキシーショックを引き起こしたのかもしれない、と説明した。ハヤトはその時に初めて自分の母がアレルギー体質だったことを知った。

 マルはその話に黙って耳を傾けていた。興味がなかったわけではない。ハヤトの大きな歩幅に食らいついていくことで必死だったのだ。それに、彼自身もすでに吹っ切れている様子だった。今更、そんな人に向かってマルがどんな慰めの言葉をかけたところで、彼はおそらく『気遣わせちゃったね』と愛想笑いを浮かべるような気がして、結局は遠慮した。たぶん彼もそんな言葉は求めていない。

 人というのは時折、一方的に話すだけで満足することがあるということをマルは知っていた。彼女は一度覚えたことは決して忘れなかった。なにせ、頭の出来が違うのだから。

 予想通り、ハヤトの自宅は繁華街からそう遠くは離れていなかった。瓦屋根で昔ながらのその二階建て日本家屋は、一人で暮らすにはあまりにも広すぎるような気がした。外壁は白いモルタルの塗り壁仕上げで、入口は引き戸の玄関扉が取り付けられている。敷地を囲うレンガの積まれた外構の内側には、等間隔で庭木が三本植えられていたが、どれもひったくりに遭ったように葉っぱを一枚も携えていなかった。

『二階はほとんど倉庫みたいになってるんだよね』とハヤトは言った。

「見るからに部屋余ってそうだもんね」と後ろからマルは言った。

 ハヤトはジーンズのポケットから鍵を取り出し、それを玄関扉の鍵穴に挿そうとしたが、手がかじかんでいるのかその先端がなかなか上手く入らなかった。それから十数秒ほど格闘したのちにようやくガチャっと音が鳴る。彼は滑りの悪い引き戸を開けて家の中に入った。

 どうやら彼は電気を点けたまま外出していたらしく、居間から漏れる薄明かりが真っ暗な玄関と廊下を横から照らしていた。正面には二階へ続く階段が見えたが、その半分あたりから先は闇に溶けて目視できなかった。

『ただいま』とハヤトは小さな声で言った。彼は踵を揃えてサンダルを脱ぐ。

「お邪魔します」とマルは言って敷居をまたいだ。

 玄関に敷き詰められた石目調のタイルはひんやりとして冷たかった。彼女はつい身震いをしてしまう。

『寒いでしょ。ごめんね、この家古いから床暖房とか入ってないんだ』、申し訳なさそうな顔でそう言ったハヤトは彼女に向かって手招きをし、『ほら、こっちこっち』と早速明かりの点いていた居間に案内した。

「……あったか」、マルは居間に足を踏み入れた瞬間に部屋の暖かさに驚いた。

 どうやらコタツと電気ストーブのスイッチも入れたままにしていたらしい。『ちょっとの外出くらいなら点けっ放しにすることが多いんだよね』とハヤトは言い訳するみたいに苦笑いを浮かべた。やがて彼は手に提げていたビニール袋をコタツ台の上に置き、足をその下に滑り込ませた。マルもそれに倣って、家主の許可も取らずに汚れた身体のままコタツの中に潜り込む。しかし彼はそれを見ても嫌な顔ひとつしなかった。

『あ、そうだ。そういえばまだお腹空いてるよね』、ハヤトは大事なことを思い出したように胸の前で手を叩いた。そして『今日の夕飯の残りならまだあるけど、食べる?』とマルの方に目を向けて尋ねた。

 彼女は今まさに、卓上に身を乗り出しながらビニール袋の取っ手に指を引っ掛け、それを器用に手元に手繰り寄せ、中に入っていた食べかけのサラミを取り出そうとしている最中だった。

 ハヤトはそれを見てくすっと笑い、『わかった。そんなにお腹空いてるんなら持ってくるよ』と一人で勝手に納得した様子で腰を上げた。

 居間から出て行くその後ろ姿を見上げながら、マルは申し訳ないとは思いつつも、無事に取り出すことができたサラミを卓上に広げてみると、次の瞬間にはそんなことも忘れてただ一心不乱に乾燥肉に手を伸ばし続けていた。そして五枚ほど食べ終わった頃に彼女はふと思い立ち、部屋の中を点検するように見渡し始めた。

 八畳分の畳が敷かれていたその部屋には、テレビ、コタツ、電気ストーブがそれぞれ対角線上に置かれ、入口のすぐ傍には、CDやカセットテープがずらりと並べられたカラーボックスが壁に寄せられていた。さらにその上には使い古された縦開きの電話帳や、固定電話まで設置されていた。いまどき珍しいな、とマルはそのカラーボックスを見て思った。まるでその空間だけが文明の進化から切り離されているみたいだった。

 また、入口の正面は四枚の引き違いの襖で閉め切られており、その向こう側にも別の部屋があることが見て取れた。両側には押し入れの襖と障子がそれぞれ向かい合わせに備え付けられており、障子の奥は掃き出し窓のある縁側とつながっていた。マルは十分に身体が温まってから一旦コタツから離れ、閉め切られた襖を開けるのではなく、わざわざ縁側を通って隣の部屋を覗いた。

 そこには四畳の和室が広がっていたが、三段の箪笥と小さな卓袱ちゃぶ台が隅の方に置かれているだけで、空間を持て余したような配置だった。きっと寝室として使われているのだろう。床の間と隣り合わせに備え付けられていた、足元の浮いた観音開きの押入れの中には、きっと布団が入っているに違いない。彼女はその部屋の状況から見て、そう推理していた。

 それから居間に戻ったマルはそのままテレビボードの前に移動し、いくつか抽斗を開けてテレビのリモコンを探した。それは五つ並んでいるうちの、右から二番目の抽斗に収納されていた。彼女は汚い身体のままコタツに入ったことに引き続き、家主の許可も取らず勝手にテレビの電源を入れた。そして結局はまたコタツの中に潜り、卓上に広がっていた残りのサラミを食べ尽くした。

 台所から帰ってきたハヤトはその有り様を見て目を丸めた。やがてその視線はテレビのリモコンに向けられる。『きみがテレビを点けたのかい?』

 マルは肯いた。「ごめん、もしかして何か悪かった?」

 ハヤトはほんの数秒間だけ放心状態に陥ったように一言も声を発さず宙を見つめ、ふと我に返ると、今度はいきなり水浴びをしたゴールデンレトリバーのように首を振った。『いやいや、なんでもない。うん、ほんとに……うん。なんでもないから』

「え、なに? 何かあるなら言って欲しいんだけど」とマルは尋ねた。

 しかしハヤトはそれを無視し、手に持っていた丸皿とお椀をコタツ台の上に載せた。『鮭の塩焼きなんだけど、大丈夫だよね? さっき骨は取り除いてきたから、食べやすいとは思うんだけど』、彼はそう言ったあとでお椀を指差した。『あと、これは喉乾いてるかなって思ったから、一応』

 マルは釈然としないまま礼を言った。「……ありがと、いただきます」、彼女は早速お椀に顔を近づけ、サラミに奪われていた水分を補給した。彼女は口の中に残っていた乾燥肉の油分を一気に洗い流したあとで、焼き鮭にかじりつく。マルはどちらかというと肉よりも魚の方が好きだった。

 ハヤトはマルの正面に腰を下ろし、本能に身を任せた彼女の食べっぷりを見ながらテーブルの上に散乱していたゴミと食べカスをビニール袋の中に集め、金色ラベルの缶ビールを取り出した。ほどなくして、プルタブの開く心地よい音が部屋の中に響く。

 マルはせっかくハヤトが晩酌のために買ってきたはずのおつまみが、自分のせいですでに無くなっていることに対して、今更になって罪悪感を覚え、彼がこれから何をつまみにして酒を飲もうとしているのかが気になって顔を上げた。

 するとその直後にハヤトと視線がかち合った。どうやら彼もこちらをじっと見つめていたらしい。マルはつい反射的に身構え、臨戦態勢をとった。『なんで全部食べたんだよ』と咎められるような予感がしたのだ。しかし、そんな心配するようなことは一切起こらなかった。むしろ彼はそれ以降、マルにもっと食べることを要求し始め、その食べっぷりをつまみにビールを美味しそうに飲み進めていた。

 変わっている人だな、とマルは思った。

『──お風呂、一緒に入ろうか』

 丸皿に載っていた鮭の塩焼きが跡形もなくなった頃にハヤトは唐突にそう言いだした。彼は頬を赤く染め、マルの身体を舐め回すような目で見ていた。『安心して、別にきみが嫌がるようなことはしないから』

 口元のアルコール臭が鼻先に触れた。彼はずいぶんと酔っているようだった。呂律があまり回っていない。「ほんとに?」とマルは聞き返した。

 ハヤトは微笑みながらその場に立ち上がった。『大丈夫だから。ほら、こっちに来て』、彼はマルの隣に移動して目の前で手を広げた。そして全く逃げようとしないマルのことをやがて自ら捕まえた。彼は耳を触りながら囁く。『よしよし、優しく洗ってあげるからな』

「ねえ、ほんとに大丈夫なの?」とマルは尋ねた。

 とはいえ、実際のところは、彼女もお風呂場でハヤトに身体を触られることをどこか楽しみにしていた。をしてもらうのは実に久しぶりなのだ。なんとなく、彼なら私のことを気持ちよくしてくれるような気がした。

『じゃあ行こっか』

 ハヤトはマルを抱きかかえたまま浴室に向かい、服を脱いだ。

 彼の携えていたイチモツは、これまで出会ってきた男性の中で群を抜いて大きかった。

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