第3話 転生仮面イセカイザー、推参!
説明しよう!
改造人間ヨシダ・ハナコは100mを4秒で駆け抜けるのである! スキップで!
スキップスキップ、ランラランララ~~~~ン♪
『走れば2秒かからないのに、何でスキップなんですか~?』
「ん? 何か女になったからな、軽く動いて調子の確認をね~。ランララ~ン♪」
男から女に変わる。
言葉にすれば簡単だけど、それはやっぱり大きすぎる変化だ。
人間って生き物は男の方が強い。
心がどうかは知らん。だが、体は男の方が強い。強くなりやすい。
俺も、今までできたことができなくなっている可能性もある。
まずはこうして軽い運動をすることで、その辺について確かめているワケだ。
『どうですぅ~?』
「うん、あんまり変わらないな。股間と胸の違和感以外は、概ね同じだ」
いうて、その股間の違和感が途方もないレベルなんだけどな。
さっきまであったものがなくなってる。この衝撃よ。
あと、この体、胸は大きい方じゃないけど膨らみはしているのでそれも違和感。
でも股間に比べりゃ全然マシかな。うんうん、大体確認完了。問題なし。
「これなら変身の方もイケそうだな」
俺は呟く。
改造人間ヨシダ・ハナコは、改造人間だが別に体内に機械は埋め込まれてない。
あのクソ変態改造マニア、クソ変態改造マニアだけあって人体改造の腕前はガチ。
健康診断などすれば俺の体はごく普通の人間と変わらない結果が出る。
しかし、俺の足は100mを2秒かからず駆け抜ける。
そして、俺の腕はその気になれば200kgを片手で持ち上げられるのだ。
クソ変態改造マニアが言うには『生体素材を使って細胞構造そのものを改造して云々』とのこと。よくわからないが、俺の体に改造されてない部分はない。
セイカイザーへの変身システムもやっぱり体内にあって、今や俺の体機能の一つ。
さらには思考と直結した超時空格納庫なんかも扱える。
大きすぎるものは格納できないが、考えるだけで内部の品を手元に転送できる。
そんな感じで、改造人間ヨシダ・ハナコは、やはり改造人間なのだった。
それにしてもハナコになった今の俺を、クソ変態改造マニアはどう評価するか。
そこに意識が及んで、俺は一瞬感じたうすら寒さにブルリと身を震わせた。
改造されたときの俺がヨシダ・タロウで本当によかったぜ……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
着いた。
1200mを36秒ちょっと。前半600mをスキップ、後半600mは走った。
これだけの距離を走ると、辺りの景色も少し変わっている。
地形の凹凸がさっきよりも全然激しく、ゴツい岩山がそこかしこに見て取れる。
ふ~むむ、タロウだったときより運動能力が落ちてるな。
っつっても、それは1%に満たない程度。体を使う上では、違和感はない。
『体力の消耗具合はどうですか~?』
「そこはさすがに、この程度の距離を走ったくらいじゃ疲れんて」
俺の体には『高速回復』と『吸収変換』の機能が備わっている。
前者、『高速回復』はその名の通り、体力や負傷の回復速度が爆速になっている。
そして後者、『吸収変換』は周囲の光を体内に取り込み、エネルギーに変える。
やってることは植物の光合成に近いだろうか。
この二つの機能のおかげで、事実上、俺は疲れを知らない。
一気にエネルギーを消費すれば別だが、そうでなければ俺のスタミナは無尽蔵だ。
「さてさて、と……」
俺は今、太めの木の幹に身を隠し、その上に『環境迷彩』をかけている。
立体映像を使って自分を隠してるワケだ。
ハナコになって体がちっちゃくなったおかげで、タロウのときより隠れやすい。
「GuRrrrrrrrrrrrrrrr~~~~……ッッ!」
近くから、非常にわかりやすい獣の唸り声が聞こえる。
一つではなく五つ。ちょっと気性が荒そうなワンちゃん×5、最低でも体長3m。
『あれが『モンスター』ってヤツか、ナビコ』
『ですです。この異世界に存在する独自の動物種のようですねぇ~』
声を出さずに思念通信で会話しつつ、俺はもう少しデッカワンちゃんを観察する。
波打つ毛並みはゴワゴワしてて、撫でても絶対気持ちよくないな、アレは。
しかも目つきも怖いし、牙も鋭い。
口元から垂れてるよだれが濁ってるのはいけません。可愛くないし、口臭そう。
『アレは飼いたくないなぁ……』
『絶対に懐いてくれなさそうですモンねェ~』
『然り然り』
で、そんなデッカワンちゃんに完全に囲まれているのは、女三人。
あれが『冒険者』とやららしいが、髪の色が金、蒼、ピンク。金、蒼、ピンクだ。
『金髪はともかく、なかなかダイナミックな髪色してるな……、特にピンク』
『ストロベリブロンドじゃなくて『ピンク!』っていう主張が激しいピンクですね』
もしや淫乱か? 淫乱なのか?
とか思ったりもしたが、しかし別に露出度が高いワケでもない。
むしろ露出度が高いのは、金髪の女の方だ。
見た目、年齢はハナコと同じくらい。つまり十代確定。金髪はポニテにしている。
背は三人の中では真ん中。刃幅の広い長剣を両手で握り締め、構えている。
長剣はサイズ大きめで、叩きつけるような使い方を連想させる。
ゲームでいう戦士職、前衛職、剣士職。そんなようなワードが俺の頭に浮かんだ。
しかし、それにしたって出してる肌面積が圧倒的だ。
胸元は板金の部分鎧で覆っているが、腕、腹、太ももがバッチリ出ている。
胸の大きさは、部分鎧のおかげでわからないが、俺よりは大きそうだ。
全身を汗に濡らしつつ、顔色を緊張に青くしてはいる。
だが、いかにも気の強そうな尖った瞳が、眼光ギラギラでワンコ達を睨んでいる。
「やらせないぞ、ニコとリップは、わたしが守ってやるッ!」
「レンちゃ~ん……」
金髪の少女剣士がそう言って、ピンク髪の大人しそうな少女が半泣きで名を呼ぶ。
ニコ、リップ、レン。本名かはともかく、それがあの三人の名前か。
――って、何で三人の言ってることがわかるんだ、俺?
外国語どころじゃなく異世界言語だぞ? 言語パターンが地球と全く同一とでも?
『ナビコ?』
『ナビコ、わかりませぇ~ん!』
そっか~、わかんないか~。じゃあこれも保留で! ……謎が増えていくゥ!
まぁ、いいか。と、思い直して、俺は三人の観察に戻る。
ピンク髪の少女は、なかなか不思議な格好をしている。
三人の中では最も背が高く、長く伸ばした髪がゆるいウェーブを描いている。
顔立ちは綺麗系、垂れ目気味の瞳が人懐こそうに見える。今は恐怖に凍ってるが。
年齢は金髪剣士と同年代か少し上。やはり十代っぽい。一番発育がいい。
だが、明らかに肉感を感じさせる長身を、寒色のゆったりした布で包んでいる。
両手に抱えて身を支えているのは、曲がりくねった木の杖。
ゲームに出てくる魔導士、魔法使い、魔術師。そんなワードが頭に浮かぶ。
もしかして、ホンモノか?
あのピンク髪のいかにも気の弱そうなお姉ちゃん、ガチの魔法使い?
モンスター、冒険者、長剣構える美少女剣士と来たモンだ。
だったら、この世界に魔法があっても、何らおかしくはないように思えてくる。
三人目。
明るい蒼色の髪のロリっ子。設定年齢十歳のナビコと同じかやや上くらい。
短く切り揃えられた髪と太めの眉が、元気で活発そうなイメージを与えてくる。
クソ変態改造マニアが好きそう。いや、絶対好きなタイプだな。
しかし、クソ改造変態マニアは脳内であっても許せないので空想で惨殺しておく。
三人の中では一番小柄で、しかし一番重武装。
左手に自分の背丈くらいある巨大な盾、右手は杖にもなりそうな長柄のハンマー。
着ているのは分厚い鎧。
肩、胸、肘から先、腹と腰、足と、ほぼ全身を包んでいる、傷だらけの鎧だ。
「この、このッ! 動いて、動いてよ! ニコは二人を守らなくちゃいけないのに! 何で動いてくれないのよ、ニコの右足は! 何で、この大事なときに……!」
蒼髪の少女は、泣きながら自分の右足をバシバシ叩いていた。
その額に浮かぶ汗の量からして、多分、彼女の右足は骨が折れてしまっている。
おそらく、あのニコが本来の最前衛、壁役。
しかし右足を負傷したニコが動けなくなって、そこをワンコに囲まれた感じか。
『ハナコさん、どうしますゥ~?』
『どうしたもんかねぇ……』
ナビコの報告もあってここまで来ては見たものの、さ~て、どうするか。
せっかくの第一異世界人達だ。
助けた上で、対価としてこの世界の話を聞くのもアリではある。
でもその辺は、ナビコに任せりゃ時間は多少かかるが、事足りちゃうんだよな。
そして、俺にはあの三人を助ける積極的な理由も別にない。
さらに今の俺は『助ける』とか『救う』とかの行動に、壮絶に嫌気が差している。
何で俺を助けてくれないヤツを、俺が助けなきゃいけないんだよ。
そんな思考が、すっかり根付いてしまっているのだ。
でも、このまま放置も気が引ける。どうしようか。と、思ってたところで――、
「ぅう、ぅぅう、ひぐッ、ぐすッ、怖い、怖いよぉ~……」
三人の中で最も大人しそうなピンク髪の推定リップが、すすり泣く。
しかし、その両手にしっかりと杖を握り、涙に濡れる目はワンコを見据えて、
「うあぁん、怖いぃ~、でも、でも……、私も戦うよォ~!」
「バカ、リップ! おまえは後ろにいろよ、ソーサラーだろうが~!」
レンが、自分の隣に立とうとするリップを見て、驚きつつもそう叱る。
しかしリップは、イヤイヤとかぶりを振って、ガタガタ震えながらも杖を構える。
「ど、どうせ、魔力なんか残ってないモン……! だからニコちの壁になるぅ~!」
「……チッ、もぉ、バカ! わかったよ、とことん付き合ってもらうからな!」
強い舌打ちを一つしたのち、レンは苦笑したままそう告げる。
リップは波打つピンク髪を揺らしながら、泣き声と共に何度もうなずいた。
「うぅぅぅぅう~~、怖いィィィィィ~~! でも頑張るぅ~~~~!」
それを見て、動けずにいるニコが一層悔しそうな顔をして、自分の足を叩く。
「何で、二人を守る役目のニコが二人に守られてるのよ! この、このォ……!」
ニコは、激しい悔しさから、噛んだ唇から血が流れている。
三者三様、しかし三人共から何としても仲間を守ろうとする気概が伝わってくる。
『ナビコ』
『は~い?』
俺は、三人に視線を向けたまま、ナビコに指示をする。
『セーフティ解除だ。変身する』
『あれれぇ~、いいんですか~? 正義の味方やっちゃうんですか~?』
ナビコに問われ、俺は唇の端をかすかに吊り上げる。
『俺はいつだって正義の味方だぜ? ……今は『俺の正義』の味方だがな』
世のため人のためなんてまっぴらゴメンだ。
人に助けられることを期待して、何もしない連中のためになんぞ戦ってられるか。
だが――、そうじゃないヤツになら、俺の力を貸してやってもいい。
例えば、大切なモノを守るため、勇気を振り絞って困難に立ち向かうヤツとかな。
そういうヤツを助けないのは、俺自身の『心の平和』を乱す行為だ。
それは『俺の正義』に反している。
あいつらを助けることが『俺の平和』を守ることに繋がる。俺のジャスティス!
『ただし、人前での変身はナシだ。一回助けたからって、次も助けてもらえると思われて期待されてもこっちはただただ迷惑だ。それだけは絶対に、絶対にイヤだね!』
『完全にトラウマですねぇ~、了解ですです!』
ナビコが、俺の指示に従って『環境迷彩』を強化する。
これによって俺の姿だけでなく、俺の鳴らす音も外部に漏れることはなくなった。
変身するにはどうしてもトリガーとなるかけ声が必要だから、しゃーない。
あのワンコ共が三人をパクパクしないうちに、さっさとやるかー。
「……うっし!」
両足を広げ、威風堂々仁王立ち。
そして俺は左手を突き出し、握り締めた右拳を、左胸、心臓の上に置こうとする。
――ふにょん。
お胸の感触は大きさの割に、結構柔らかかった。……違うよ、そうじゃねぇよ!
『何してるんです? 天星リアクター、セーフティ解除ですよォ~!』
「何もしとらん! とにかく、セーフティ解除、了解ッ!」
今度こそ右拳を心臓に当てて、俺は俺の中の『変身機構』を励起状態にする。
直後から、心臓に必要なエネルギーがどんどんと集まっていくのがわかる。
地球とは違う世界での、初めての変身。
別に緊張や感慨などはなく、俺にとってはありふれた日常の一端だ。だが――、
「……俺は『俺の正義』の味方だ!」
心機一転を図るからには、決意表明は忘れちゃいけない。
そして、全てのエネルギーが心臓に収束し、俺は左手を引いて右手を突き上げた。
「――いざ、『
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
唐突にオープニングテーマのサビ!
「な、何だ……ッ!?」
「Gruuuuuu……?」
場に響き渡るのは、勇壮! ポップ! キャッチー! そして激々の熱々!
そんな感じのキレッキレにヒロイックな最高のエキサイティング・ミュージック!
作詞、俺!
作曲、編曲、演奏、その他諸々、ナビコ!
天星仮面セイカイザーOPテーマ『GoToBreak! セイカイザー!』だ!
ピンチに次ぐピンチで極限キてたときに、現実逃避で作った曲だァ~~~~ッ!
だけど、何故か出来がよかったから、今じゃ公式OPテーマだぜェ~~~~ッ!
三人娘とワンコ共がいる場所のすぐそば、大きめの岩山の頂。
そこに立って、空の太陽を指さす俺。からの、口上!
「空に輝く太陽は、天に瞬く星の一つ!」
場の全員の視線が一斉に俺の方へと向けられる。声をあげたのは、ニコ。
「だ、誰! 男の人? 助けが来たの!?」
彼女の反応からもわかる通り、変身後の声はタロウベースにしてある。
これならば、まさか中身が女子だとは思うまい! 思うなよ! 絶対に思うなよ!
「星が照らすは我が往く道!」
次いで、口上二発目。
本来であれば、ここは『星が照らすは大義の正道』だ。が、思い切って変えた。
なぁ~にが大義で正道だって話だぜ!
そんな、パリピでウェ~イじゃあるまいに!
「おまえ、誰だよ!?」
レンに問われた。
ならば今こそ、名乗らせていただこう。異世界で生まれ変わった、俺の名を!
「俺は転生したヒーロー、異世界の申し子!」
太陽を背に、白銀の装甲に身を包んだヒーローが、ポーズをキメる。
「転生仮面イセカイザァァァァァァァァァ――――ッッ!」
背後で、ドッゴォォォォ~~~~ンッ!
この色付きの爆発エフェクトは、もちろん、ナビコによる演出だった。
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