踏みにじれ、転生仮面イセカイザー!~世界の平和を守らされて散ったヒーローは、転生先の異世界で『俺の平和』を守るため邪魔するものを蹂躙する~

楽市

第1部

プロローグ ヨシダ・タロウの転生

第1話 ヨシダ・タロウの転生

 唐突にクライマックス!


『グハハハハハハハハハハハハ! ついに一年に及ぶ長き戦いの最後の、本当に最後の決着のときのようだな、にっくき正義の味方、天星仮面セイカイザーよ! よくぞ我が悪の秘密結社ダイジャーク帝国の本拠地である、この衛星軌道上に存在する核をも跳ね返す超無敵バリアーに包まれた超絶巨大宇宙要塞『ダイジャーク・テラワロッサ』の内部に突入し、我らがダイジャーク四天王、及びダイジャーク三博士と貴様の永遠のライバルであった邪道剣聖ケンセイジャークを撃破したものよ! 残るはこの我が輩、偉大にして無敵! 最強にして究極たるダイジャーク帝国皇帝グラン・ダイジャークを残すのみとなったな! 実に見事と褒めて遣わす! だがつい先ほど、この『ダイジャーク・テラワロッサ』の時限自爆スイッチを押したところよ! このスイッチを押した以上、もはや我が輩ですら自爆を止めることはできん! つまり、仮に我が輩を倒したところで貴様はこの『ダイジャーク・テラワロッサ』と共に宇宙のチリと化すだけよ! 残念だったな! グハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! 果たして貴様如きがこの我が輩に倒すことがで~き~る~か~な~!?』

「…………おう!」


 矛盾しかない説明ゼリフを披露してくれた皇帝へ、俺は威勢よく一声返す。

 俺が勝とうが負けようが結局自爆するなら一緒では。とは言ってはならんのだぜ!


 しかし、このグラン・ダイジャーク、確かに帝国皇帝だけはある。

 見るからに巨大だし、派手だし、黒いしトゲトゲしてるし、目も赤く光っている。


 威厳がすごいぜ。

 とにかく威厳がすごい。自爆スイッチは押してしまったが。


 これはラスボスだぜ。

 誰がどう見てもラスボスだ。もはや異論を挟む余地も見当たらないぜ。

 そのくらい、威風堂々たるラスボスだぜ。自爆スイッチは押してしまったが。


 こいつを倒すことができれば、俺の長き戦い(約50週)もついに終わるのだ。

 世界の平和を守るため、俺はここで全てを出し尽くして勝ってみせるぜ!


「行くぞ、グラン・ダイジャーク! おまえを倒して、俺は戦いの日々を終わらせるぜ! 世界の平和のために! 人々の安寧のために! そしておまえのその安直なネーミングセンスにモノ申すために! くらえ、正義と勇気のセイカイナックル!」

『グハハハハハハハハハ~! やれるものならやってみるがいい、セイカイザーよ! 悪の帝国の皇帝の名に懸けて必ずや貴様を血祭りに――、え、安直!? バカな、三日も寝ずに考えた我がナイス皇帝ネームが、あ、ああああ、安直ゥ!!?』


 ガキーン!

 ドバーン!

 ズゴゴゴ~~~~ン!


 すごい戦いだ。

 そこかしこで爆発が起きてるぞ。


 とにかく派手で激しい戦いだ。

 これぞまさしくラストバトル。そう呼ぶにふさわしいぜ!


 バギャーン!

 スギョーン!

 ギョルギョルドギャギャ~~~~ン!


 さすがは皇帝、強敵だぜ。

 だが皇帝が強くてどうすんだって思うぜ。皇帝なら政治しろよとも思うぜ!


 それでも強いぜ、やっぱすごい強いぜ。

 ここまでの強敵は初めてだ。この俺がギリギリまで追いつめられてるぜ。


『グハハハハハハハハハハハハハ~! くらえィ、セイカイザーよ! グラン・ダイジャーク奥義・ハイパーグレートバスター殺人ビィィィィィィィィィィム!』

「な、何て恐ろしい奥義だ! 威力も高いし、射程も長い、範囲も広い、エフェクトも派手で、まさしく奥義! 非の打ちどころがネーミングセンスにしかないぜ!」

『そこが一番恐れてほしいとこォ!?』


 無理な相談をされても困るぜ!


 ドッギャ~ン!

 バリバリバリバリ!


 ドゴゴゴゴ! ズゴゴ~~~~ン!

 チュドッ、ゴォォォォォォォォ~~~~ン!


 ヤバイ、負けそうだぜ!

 ここまでの絶体絶命の窮地は、この一年間の戦いでも二十五回あるかないかだぜ!


『グハハハハハハハハハハハハハハハ~! 終わりだ、セイカイザー!』

「今だ! 引っかかったな、グラン・ダイジャーク!」


『な、なぁにぃ~~~~!?』

「俺は絶体絶命のピンチに陥ることでパワーアップできる特殊能力があるんだぜ!」


 後半戦は大体この能力で勝ってるんだぜ!


『ぬぅ~!? な、何だとォ~、初めて知ったわァ~~~~!?』


 ダイジャーク帝国の報連相どうなってるんだぜ!

 だが、今こそ唯一無二にして最後のチャンス。ダイセイカイザーパワー、発動!


『こ、これはァ!? セイカイザーの全身甲冑をスタイリッシュな感じにした白銀の戦闘ボディが、まばゆい金色に変わって……! し、信じられん! ヤツのジャスティス値が20000――、25000――、30000――、ま、まだ上がるというのか……!? 何ィ、10000000000000突破だとォッッ!!?』


 ジャスティス値って何なんだぜ、初めて聞いたんだぜ!

 あと跳ね上がりすぎなんだぜ! 3万→10兆はさすがにブラフきかせすぎだぜ!


「くらえ、グラン・ダイジャーク! これが俺の正義、俺の正解だ! うおおおおおおおおおおお、必殺ダイセイカイ・キィィィィィィィィィィィィィィックッッ!」


 ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――――ンッッ!


『グワァァァァァァァァァァ! バカな、この我が輩が、この偉大なるグラン・ダイジャークがァァァァァァァ! ダイジャーク帝国よ、永遠にィィィィィィィィ!』


 ドッカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――ンッッ!


「……勝った」


 まさに紙一重。ギリギリの勝負だった。

 ここまでギリギリの勝負は、この一年間の戦いの中でも五十回あるかないかだぜ。


『エマージェンシー、エマージェンシー、もうすぐ自爆します。あとちょっとで』


 クソッ、何てこった。自爆までのカウントダウンがアバウトすぎるんだぜ!


『――タロウよ、よくぞダイジャーク帝国を打ち倒してくれた』


 そのとき、空間にスクリーンが投影され、中山博士とみっちゃんが映し出された。

 中山博士はダイジャーク帝国に殺されかけた俺をセイカイザーに改造した正義の科学者で、みっちゃんは中山博士の孫娘で喫茶店の看板娘で、俺の初恋の人でもある。

 そうさ、俺はある意味、みっちゃんを守り抜くために今日まで戦ってきたんだぜ。


「博士、みっちゃん!」

『タロウさん、何とかその要塞から脱出できないの!?』

「みっちゃん! 何かそれっぽいキーボードとモニターがあるからやってみるぜ!」


 カタカタカタカタ。ブブー!


「無理だったぜ!」

『そんな、タロウさんが生きて帰れないなんて、残念だわ!』


 何かみっちゃんにすでに死んだことにされてるんだぜ!


『タロウよ、おまえが生きて帰れないのは残念じゃが、おまえのおかげで世界の平和は守られた! ありがとう、正義の戦士セイカイザーよ! ありがとう、正義の若者ヨシダ・タロウよ! ワシらはおまえに託された思いを胸に明日を生きるぞ!』


 何か博士にもすでに死んだことにされてるんだぜ! 陰謀を感じるんだぜ!

 でも俺は正義の味方だから、自分のことよりも先に確認するんだぜ。


「中山博士、みっちゃん、俺、ついに世界の平和を守れたんですね……」

『うむ、その通りじゃ。おまえは世界の平和を守ったのじゃ!』

『そうよ、タロウさん! あなたの力で世界の平和は守られたのよ!』


 そうか、そうか……。

 二人の言葉に俺は目を閉じて深くうなずき、しっかりと咀嚼する。


 俺は、世界の平和を守った。

 俺は、世界の危機を救った。

 そうか、そうか。俺は、やり遂げたんだな。


「じゃあ、もういいよね?」


 俺は、瞳をクワッと見開いて、そう言った。


『『え?』』


 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ。ピコーン!


『あの、タロウ、それ何の音かしら?』

「キーボード叩いてる音だよ。聞いててわかんない?」


『いや、あの、何でそんないきなりキーボード叩いて……?』

「それはね――」


 スクリーン越しに唖然となっているみっちゃんへ、俺は優しく教えてやった。


「この超絶巨大宇宙要塞『ダイジャーク・テラワロッサ』を日本列島に墜落するよう設定してたんだよ。わかったか、このクソ尻軽アバズレビッチがよォ~~~~!」

『ええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!?』


 おっと、せっかく答えてやったのに感謝の言葉がないんだぜ?

 これだから頭の中に脳みその代わりに●ンポが詰まってるヤツはダメだぜ!


『タ、タロウ! おまえ、何を考えとるんじゃ!? そんな大質量が地表に激突したら、日本だけでなく周囲の国々も巻き込むに決まっておるではないか!』

「ハハハハハハハ、安心しろよ中山博士! たった今、日本各地に散らばってるダイジャーク帝国前線基地のシステム連結が完了したところさ! これで歪曲空間バリアが日本列島をグルっと囲む形で展開されるぜ! 核をも防ぐバリアだ。地表激突の影響は日本列島だけで済むぜェ! 衝撃が外に広がらない以上、バリア内部にあるものは爆縮効果で何もかも跡形もなく消し飛ぶだろうがな!」


 俺がガハハと笑いながら説明すると、中山博士は汗だらけになって小さく呻く。


『何故じゃ、タロウ……。どうして、こんなことを……!』

「決まってんだろ、てめぇらへの仕返しだよ、このクソマッドサイエンティストが! 国連からの支援で資金ガッツリゴッチャンしながら、パワーアップを口実にことあるごとに俺の体いじくりまわして変な武器やら機能やら追加するのは楽しかったか? 趣味と実益を兼ねた仕事につけるってのは幸せなコトだよなァ、ジジイ!」


 顔面蒼白になって絶句する博士に向けて、俺は右手の中指を突き立てた。


『ひ、ひどいわ、タロウさん! あたし、そんなタロウさん、見たくなかった!』

「あ~~~~ん? 何だてめぇ? 涙浮かべりゃ俺が動じるとでも思ってんのか? 俺ァ知ってんだぜェ~、みっちゃんよォ~。てめぇ、本命彼氏の一号とキープの二号と財布役の三号とドライバー役の四号がいるらしいじゃねぇかよォ~? で、俺は猿回しの猿役の五号ってか? 特撮ヒーローに戦隊モノ混ぜ混ぜしてんじゃねぇぞ!」


 追加で左手の中指を立てると、みっちゃんは顔を青くして「何でそれを」と呟く。


「ダイジャークに殺されて博士に改造されてからのこの一年、俺に人権はなかった。みっちゃんのハニトラに心を弄ばれ、博士の強化改造に体を弄ばれ、無職で、無休で、無給な生活。そして戦いは常にピンチの連続! やっと仲間が現れたと思えば、大抵裏切りパターンでチクショウ! さらには国連から報酬出てたのも知らされず、生活費のためのバイト幾つ掛け持ちしたっけなぁ~! 特殊清掃員までやったぞ、俺! 本当にこの一年間の俺の人生、ひたすら慈善事業だったよなぁ~~~~!」

『そ、それが正義のヒーローの在り方じゃろうが! 勧善懲悪じゃ! 勧善懲悪こそが、在るべき正義の形なのじゃ! そう、無償の正義こそが世界を……!』


 博士がそんなことをのたまうが、俺を自由に改造できるよう、家族を偽って俺の死亡届を出したのはこいつだ。おかげで、今現在も吉田太郎は死人である。

 だからヨシダ・タロウなの、俺。ウッケる~! ……ゆ゛る゛さ゛ん゛ッッ!


『もうやめて、タロウさん! あなたの尊い戦いを小さな恨みで穢さないで!』

『そうじゃ、タロウ! 復讐は何も生まんぞ!』

「え、何? 国連からの報酬を赤ちゃんプレイ専門店と馴染みのホストがいる店に全額つぎ込んだ博士とみっちゃんが、何だって? もう一回言ってくれない?」


『『な、何でそれをッ!?』』

「……絶対殺すッ!」


 殺意を新たにした瞬間、世界が真っ赤に染まる。


『エマージェンシー、エマージェンシー、マジであとちょっとで自爆します』


 このカウントダウンのアバウトさは一体誰の趣味なんだぜ!


「おののけ、この『ダイジャーク・テラワロッサ』はすでに大気圏への突入を開始している! 嬉しいことに自爆の時間は地表に激突するのと同時だ! 俺は、日本と一緒にこの世界から消滅するってコトだ! もちろん、てめぇら諸共だァ!」

『タロウさん、どうしてそんなことを!? あなたが守った世界の平和なのよッ!』


 みっちゃんが、血相を変えて俺に向かって訴える。

 ああ、そうとも。俺が守った世界だ。俺が守った平和だ。俺が手にした勝利だ。


「だから、ちょっとだけ俺がこの手でブチ壊したっていいよなァ~!」

『イヤァァァァァァァ! タロウさんの目がガンギマッてるゥゥゥゥゥゥゥゥ!?』


 別に世界全てを壊すつもりはない。

 だが、博士とみっちゃんと日本国民共を生かしておくつもりもない。


「何度助けてやっても返ってくるのはその場限りの感謝だけ! 具体的な報酬、ゼロ! そしてまた何かあれば助けてもらえると決めつけて、俺の名前を叫びやがる! それでピンチに陥るのは俺なのになぁッ! 子供に笑って『ありがとう』って言わせてりゃ、俺が納得するとでも思ってやがったのか、平和ボケした陰キャの群れ共が! そんな『やり甲斐搾取人生』、認めてたまるかよ! 俺一人に戦いを押しつけ続けたてめぇらだけは絶対に許さん! 日本滅殺! 滅びよ、日本ッッ!」


 どうせ、俺はもう助からないのだ。

 だったら道連れだ。博士もみっちゃんも、日本列島も、全て道連れにしてやるぜ!


『おじいちゃん、に、逃げ、逃げなきゃ……!』

『ど、どどど、どこにじゃ! 一体、どこに逃げろというんじゃ……!』

「てめぇらに逃げ場なんかありゃしねぇんだよォォォォォォォォ! ハハハハハハハハハハハ! アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァ――――ッ!」


 大きな爆発が幾つも起きる中、俺は笑う。心の底から笑う。

 ああ、気持ちがいいぜ。心が透き通っていく。


 爽快だ。最高に気分がいい。

 俺は今、絶対的な正しさの中にいる。それを確信する。


「そうか、今感じているこれこそが、俺の正義で、俺の正解だったのか」


 何が真の正義だ!

 何が世界平和だ!


 何が勧善懲悪だッ!

 何が罪なき人々だッッ!


 何で世界俺以外の平和のために、俺だけが苦しまなきゃいけねェんだッッ!


「俺の平和に何一つとして寄与しねぇ世界の平和なんぞ、一部に限り俺が直々にブチ壊してやるぜェ~~~~! ハッハハハハハハハハハハハハハハァ~~~~!」


 轟々と燃え盛る炎の中で、俺は腕を組み仁王立ちになり、最期の笑いを響かせる。


『『こ、来ないでェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェエ――――ッ!』』

「イ・ヤ・だ・ねッ!」


 真の正義とは、己の心に平和を得ることと見つけたり!


「日本よ、滅べェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」



 カッ――――、



 そして、全てを無に帰す真っ白い光が何もかもを飲み込んだ。

 ああ、俺と日本が消えていく。

 だけど満足だ。俺は、今、心から満たされた。……俺は今、やっと、報われた。


 ――正義は勝つ!

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