第1章 -1-
─── 都内にある某大学の学食スペース。
「いつものメンバー」5人が昼食を終え、まったりしている。
俺の名前は、
多趣味で、何か1つに没頭するよりは、面白そうなものには片っ端から手を出す性格だ。
友人はそれなりにいるけど、今はこのメンバーが一番落ち着くかな。
今、熱心にスマホを操作している小太りで黒縁メガネをかけているのが、
パソコン、ゲーム、アニメにマンガ、そういうのが大好きなヲタクだ。
「慎ちゃん、なぁにをそんなに夢中になってるんよ?」
荒々しく慎太郎の肩に手を回して彼のスマホを覗き込んだのは
ツンツン頭に色黒のスポーツマン風。高校時代からの付き合いだ。
「ちょっ、重たいよぉ」
迷惑そうに宏の腕を振り払い、鼻息を荒くしてスマホの画面を見せる。
「昨日見つけたんだけど、仮想空間の都市でAI制御の人達が生活している・・シミュレーション?かな」
慎太郎が夢中になるモノは、斬新で面白いモノが多い。
皆『どれどれ』と小さなスマホの画面を覗き込もうとする。
宏を押しのけて喰いついていったのは
天真爛漫で男女を問わず人気がある。
その様子を
宏に好意を抱いている彼女は引っ込み思案なところがあるが、気持ちが顔に出やすい。
麻衣に気付いた茜は汗笑い顔でそっと離れる。
「あ・あはは・・麻衣ちゃん、ほぉら見てごらん?」
ふくれっ面だった麻衣は、ぱぁっと嬉しそうな顔になり宏の横に収まっていった。
スマホの画面にはどこかの街並みがストリートビューのように映し出されており、
大勢の人たちが行き交っている。
仮想空間だと言われなければリアル映像と見紛うレベルだ。
数秒の間、皆でじっと見つめていたが、特に何かが起こりそうな雰囲気は無い。
「・・で、これからどうなるんだ?」
画面を見つめたまま、慎太郎に問い掛けた。
「んー・・わかんない。ただ見てるだけなんだよね、これ。」
「はぁ?」「えぇ~?」「・・・」皆それぞれに『期待して損した』表情を慎太郎に向ける。
俺と茜は元居た椅子に戻るが、麻衣だけは宏の横に張り付いたままだ。
「あ・あのぉー‥麻衣‥さん?」
宏は照れているのか、声が上ずっている。
はわっ!と我に返った麻衣は慌てて飛び退く。
そんな皆の反応をキョロキョロと見渡しながら鼻息を荒げる慎太郎だった。
「ちょっと、これはね!今世紀最大のビッグニュースになるモノなんだよ!?」
「最大のビッグ(笑」
「ぁ!つ・つまり、そ・それほどまでの!」
宏が慎太郎の言葉尻をいじり、慎太郎が顔を真っ赤にして反論する。
いつもの光景だった。
「ねぇ一樹ぃ~、午後の授業って何時まで?」
声を潜めた茜が上目遣いで聞いてくる。
何かお願いしようとしている時の仕草だ。
「16時までだったかな。今日はバイトも無いし、その後は暇だよ?」
「やった!そんじゃ~さ、ちょっとだけショッピングに付き合ってよ♪」
「はいはい、ショッピングの後は軽くお食事でも?」
「ぉ!?お二人さん、デートの相談?」
慎太郎をあしらいながら、しっかりこちらの会話も聞き逃さない宏。
「ばっ・・違うわよ!そんなんじゃ(もごもご・・)ねぇ?」
何を慌てているのか理解できないが、茜は頬を紅くして反論していた。
普段と変わらない昼休みを終え、それぞれ午後の授業に向かい、帰りはバラバラだった。
俺は茜と待ち合わせてショッピングに付き合ったのだが、帰宅したのは21時を回っていた。
「ただいまー」
玄関で靴を脱いでいると、リビングから妹の
「おかえり、お兄ちゃん。遅かったね。・・デートぉー・・なワケないか♪」
む・・。デートだとは思っていないが、そう言われると何かカチンとくるモノがある。
「フハハハハハ!妹よ!兄はこぉんな時間まで、茜とのドゥェイットォを楽しんできたのだ!だぁ!」
「ぇー・・茜ちんとかぁ・・んじゃいいや」
・・・色っぽい事は何も起きないと安心しているらしい。兄大好きっ子な妹だ。
「あら一樹、おかえりなさい。お風呂沸いてるわよぉ~」
台所の方から、母のまったりとした声が聞こえた。
「ただいまー。風呂はいいや。明日休みだし。」
今日は疲れた・・。
茜のヤツ、「ちょっとだけショッピング」とか言っていたのに、結局何も買わずに数時間連れまわされた。
何を買いたかったのだろうか‥。
ベッドに倒れ込みなが、慎太郎からメールが届いていたのを思い出し、スマホを見てみた。
昼に見ていたウェブサービスへのお誘いメールだった。
随分プッシュしてくるなぁ・・。
正直、興味は無かったが無碍にするのも可哀そうなので、URLへアクセスしてみた。
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