第30話 ぬいぐるみと美味しいスープパスタ

 俺が来ることを想定していなかったという鵜崎唯の作ったスープパスタはやはりというか、俺が一番好きなタイプの味付けであった。どんな時でも鵜崎唯は俺好みの味付けにしてくれるのだが、ここまで来たら普通のゆで卵でも俺の好みの感じにしてくれるんじゃないかと思えていた。それくらいに鵜崎唯の作る料理は何もかもが俺の好みの味付けになっているのだ。

「どうかな。ちょっと手抜きっぽい感じかもしれないけど、ちゃんと食べられる味になってるかな?」

「どこを手抜きしたのかわからない位美味しいよ。毎回思うけどさ、唯って俺の好きな味付けがどんな感じなのか知ってるのかな?」

「政虎が美味しいって思ってくれるなら良かったよ。政虎は毎回そう言って褒めてくれるから作ってるこっちとしても嬉しいんだよね。愛華ちゃんはどうかな?」

「うん、凄く美味しいよ。あんまりこういうの食べた事ないけど、凄く美味しいって思うな。これって魚介系のスープとかでもいいのかな?」

「たぶん大丈夫だと思うよ。スープを美味しく着くれたらスパゲティでもうどんでもいいと思うな。愛華ちゃんはあんまり麺類を食べてる印象はないけどさ、たまにこういうのも良いんじゃないかなって思うよ」

「確かに、あんまり麺類って食べてないかも。どうしても面倒になってそのまま食べられるパンばっかりになっちゃうんだよね。今日も朝はサンドイッチを食べたからね」

「へえ、意外だな。俺も今日は右近から貰ったサンドイッチを食べたよ」

「は、お前と同じものを食べちゃったのかよ。ちょっとテンション下がっちゃうわ」

 鵜崎唯と一緒にいる時の髑髏沼愛華は基本的に優しい性格になるのだが、それ以外の時はちょっときつい性格をしているのだった。なんでなのかはわからないけれど、俺に対しての風当たりは物凄く強いような気がする。たまたま同じ時間に同じものを食べただけなのにもかかわらず、こんなに怖い顔で睨まれるのはどうなのだろう。世の中には髑髏沼愛華みたいな美人に睨まれるのを喜ぶ人もいるみたいなのだけれど、俺には当然そんな事で喜ぶような癖なんて持ち合わせてはいないのだ。

「本当だったら昨日唯が作ってくれていた煮魚とか残ってたはずなんだけどさ、右近が勝手に全部食べちゃったんだよ。明らかに二人前って感じで置いてあったのにさ、右近は俺が楽しみにしてた分まで残さずに食べちゃったんだよ。いや、残さずに食べてくれるってのは俺としても嬉しいことではあるんだけどさ、さすがに全部食べるのっておかしいとおもうんだよね」

「残されるよりはマシだと思うけどね。でも、わがままを言っちゃうと、政虎にももう少し食べてもらいたかったな」

 右近は好き嫌いが無いので基本的には何でも食べてしまうのだけれど、鵜崎唯が作った料理は一瞬だけ考えた後に全部残さず食べきっているのだ。俺はあの沈黙の時間帯に鬼仏院右近が何を願っているのか更に気になってしまった。

 何度聞いても右近は俺の質問をはぐらかして答えることは無いのだけれど、出された料理を残さず全部頂くというのはなかなか出来ることではないと思った。


 俺は食べるのが早いわけでもなく遅いわけでもないが、二人に比べるととんでもない速さで食べ終えてしまったようだ。鵜崎唯が作ってくれたご飯の時だけ俺の食べるスピードがあがっているような気もするのだ。

 作ってもらったのを食べているだけでしかないのだけれど、これからの時期は色々と考えて食生活を豊かにしていかないといけないとわかってはいる。けれど、俺は鵜崎唯みたいにここまで器用に料理が出来るわけでもないし、レシピサイトだってあんまり見てみたりはしないのだ。

「政虎にはちょっと少なかったかな?」

「いや、ちょうどいいくらいの量だった。あんまり多いと眠くなっちゃうからね」

「それなら良かった。愛華ちゃんも量は大丈夫かな?」

「うん、私もちょうどいいくらいの量だよ。もう少し食べたいなって思うけどさ、あんまり食べ過ぎるのも良くないと思うしね」

 たぶんだけど、三人それぞれ食べている量自体は同じではないと思う。パッと見た感じだが、鵜崎唯と髑髏沼愛華が一人前よりも少し少ないくらいで、俺は二人が少なくなっている分を貰っている感じだと思う。それなのに俺が一番早く食べ終わるというのも変な話だとは思うけれど、鵜崎唯の作る料理が美味しくて手が止まらなかったというのも理由の一つなのは間違いない。

「話は変わるけどさ、このぬいぐるみって唯が自分で作ったのか?」

「そうだよ。昨日の夜に完成したばかりなんだよ。本当はもう少し大きくしたかったんだけどさ、今はちょっと材料が少なくてその大きさまでしか作れなかったんだ。年末くらいまでにはもう一回り大きいのを作りたいって思ってるんだけどね、なかなかそう上手くいかないもんなんだよね」

「唯はぬいぐるみを作るのが趣味って事なのかな?」

「うーん、趣味と言えばそうかもしれないけど、どちらかと言えば作るのは最終目的じゃないんだよね。今はぬいぐるみを作ることで精一杯なんだけど、最終的にはその子たちを使ってちょっとした遊びが出来たらいいなって持ってるよ」

「そうなんだ。唯が納得出来るような出来に仕上がるといいな」

 鵜崎唯も人形遊びをするんだなと思った。俺達くらいの年齢でもそう言った遊びをする人はいるんだろうけど、自分でぬいぐるみを作る事から始めている人なんてどれくらいいるのだろうか。少なくとも、俺の周りにはぬいぐるみを自作している人なんて誰もいなかったからちょっと興味深い。

「このぬいぐるみってさ、全然似てないと思うんだけど、俺に似てるような気もするんだよな。髪型とか目の色とかは違うけどさ、何となく俺に似てるなって思うんだよね。ちょっと自意識過剰すぎたかな」

「まあ、その子を作る時に政虎の事を考えてはいたけどさ、似せるつもりなんて無いよ。髪型も違うし目の色だって違うからね。でも、政虎が自分に似てるって思うのは間違いじゃないかもね。だって、その子の中身って政虎の髪の毛だからね。見た目は似てないけど中は政虎そのものだったって事だから、政虎が自分に似てるって思うのも間違いじゃないのかもね」

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