第16話 私達の事は名字で呼ばないで
今までは床に落ちている髪の毛をコツコツと集めるしかなかったのでぬいぐるみの中身を政虎の髪の毛だけで満たすことは出来なかったのだけど、これからはお風呂掃除を定期的にやることが出来るので政虎の髪の毛を集めるのはだいぶ楽になるね。政虎の家のお風呂を使っているのは政虎だけって話だし、これからは純度百パーセントの政虎の髪の毛を手に入れることが出来るって言うことだもんね。
政虎の髪の毛が手に入りやすくなったことで魔法陣も本来のモノに変更できるし、今まで以上に政虎が私の事を見てくれるようになるかもしれないね。今までは政虎の家にある髪の毛が本当に政虎のモノなのか不安だったし、私のおまじないが政虎以外の人に効果を発揮しちゃう可能性があったのだもんね。政虎の家に遊びに来るのは右近君くらいなんだけど、もしかしたら政虎の家族の髪の毛って可能性もあったりするし、宅配便や他の業者の人って可能性もあったりするんだよね。でも、さすがにそういう人達も政虎の家のお風呂を使ったりすることは無いと思うし、仮にお風呂に政虎以外の髪の毛があったとしてもそれはもうどうしようもないことだと諦めるしかないよね。
「なあ、何回も聞いてることだからしつこいって思われるかもしれないけどさ、なんで俺みたいなやつにそんなに良くしてくれるの?」
「なんでって、好きだからだけど。政虎は私の事を好きじゃないってのは知ってるんだけど、それでもいつか私の事を好きになってくれたらいいなって思ってるだけだし」
「でもさ、俺は唯菜ちゃんの事が好きだってのは知ってるよね。俺に優しくしてくれたりするのは嬉しいんだけどさ、俺は鵜崎の気持ちにはちゃんと応えることが出来ないと思うんだよ。それなのにさ、なんでそこまでしてくれるのかなって思うんだよね。ほら、俺って客観的に見て好きになる要素なんて無いだろ。髑髏沼だって俺の事を本音では嫌ってるって思うんだけど、鵜崎が俺と仲良くしたいって思ってるからこうして俺と遊ぶことにも否定しないんだって知ってるよ」
「うん、それも知ってるけど、それがどうかしたのかな。私は政虎の事が好きだし、政虎が桜さんの事を好きなのも知ってるよ。だからってさ、私が政虎の事を諦める理由にはならないよね。政虎だって桜さんが右近君の事を好きだって知ってても桜さんの事を好きでいてるんでしょ。それと一緒だと思うよ」
「確かにそうなんだけどさ、なんで髑髏沼は一緒に遊んだりしてくれるのかな。俺としては髑髏沼が鵜崎と一緒に来てくれるってのはありがたいんだけどさ、髑髏沼がここに来る理由ってないと思うんだよな。右近がいれば友達がいるって理由もあるだろうけど、今みたいに右近がいない時でも遊びに来てくれるのは何でだろうって思うんだよな」
「あのさ、私はあんたの言う通りあんたの事を好きじゃないよ。唯ちゃんにも言ってるけど、どっちかと言えば私はあんたの事が嫌いな方だと思う。嫌いだからこそ、唯ちゃんを傷付けたりしないか心配になってついてきちゃうんだよ。それと、いい加減私の事を名字で呼ぶのはやめてもらえるかな。あんたは私の事を名字で呼ばなくちゃいけないって立場でもないでしょ。だから、名字で呼ばないで」
「そうだよ。私の事も苗字じゃなくてちゃんと名前で呼んでって言ってるのに。名前で呼んでくれないと怒るからね」
別に私は名字で呼ばれることに対して愛華ちゃんみたいに嫌な思いはしてないんだけど、どうせ呼んでもらえるなら苗字よりも名前で呼んで欲しいなとは思うよね。政虎は右近君を呼ぶ時もたまに鬼仏院って呼んでるくらい人の事を名前で呼ぶのが苦手なんだと思うけど、そんな事は気にしないで私の事は名前で呼んで欲しいな。私だって政虎の事をずっと呼び捨てで呼んでるんだからね。
でも、愛華ちゃんの苗字の髑髏沼ってのはパッと見でもちょっと怖い感じがしちゃうよね。愛華ちゃんは普通に美人で性格もちょっときついところはあるけど私には優しくしてくれるし、名前だって素敵な名前だと思うんだよね。でも、髑髏沼ってのはちょっと合わないような気もするね。勝手なイメージだけど、髑髏沼だったらもっと暗くて性格もきつそうな印象があるかもしれないな。
「そう言えばさ、ずっと気になってた事があるんだけど、聞いてもいいかな?」
「気になる事って、何かな?」
「惚れさせるソースって結局何だったの?」
「ああ、あれね。あれは旨味を凝縮させて人の味覚を刺激するソースなんだって。このソースが好きな人は他のソースを使えなくなるって話なんだけど、政虎は他のよりも美味しいって思った?」
「そう言う意味だったんだ。てっきり何か変な魔法でもかかってるのかと思ってたよ。でも、前に唯が作ってくれたソースの方が俺は好きかも。あっちの方がさっぱりしてて美味しいと思ったな」
あ、政虎が私の事を名前で呼んでくれた。今までも二人の時は名前で呼んでくれることがあったけど、今は二人っきりじゃなくて愛華ちゃんもいるのに名前で呼んでくれたよ。今日はきっと名前で呼んでくれないんだろうなって思ってたから嬉しいな。今日はこれだけでも政虎の家に来たかいがあったってもんだよね。あと、政虎の髪の毛もたくさん手に入ったのも忘れちゃダメだけどね。
「意外だわ。あんたも唯ちゃんが作るオリジナルソースの方が好きなんだ。私も惚れさせるソースよりも唯ちゃんが作るオリジナルソースの方が好きなんだよね」
「やっぱりそうだよな。なんでかわからないけどさ、唯って俺が好きな味付けをビシッと決めてくれるんだよね。愛もそんな風に感じてるの?」
「え、ちょっと待って。急に呼び捨てとか気持ち悪いんだけど。でも、名字で呼ばれるよりはマシだからそれでいいわ。あ、やっぱり気持ち悪いから唯ちゃんがいない時は私に話しかけないでいいから」
「その反応はちょっとショックなんだけど。でも、俺から話しかけることなんて今まで無かったと思うけど」
政虎は愛華ちゃんの事も名字で呼ばなくなるのかもね。その方が私はいいと思うんだよね。髑髏沼って名字が悪いわけじゃないんだけど、愛って呼ぶ方が可愛いと思うからさ。
次に来た時もちゃんと名前で呼んでくれるといいな。
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