第12話 食事の前には水回りの掃除をするんですね

 当然と言えば当然なのだが、俺と鬼仏院右近の方が鵜崎唯と髑髏沼愛華よりもゲームをやっているので負け続けるということは無い。時々どちらかが負けることがあったとしても二人ともやられるということは無いのだ。頭脳系のゲームだと俺が最下位になることが多かったりもするのだけれど、俺の家にあるようなゲームで対戦出来るモノだと負ける要素なんてあるはずがないのだ。

「勝ち逃げみたいで悪いけどさ、そろそろバイトの時間だから帰るわ」

「おう、バイト頑張ってな」

「今日も右近君には勝てなかったなぁ。政虎には何回か勝てたからよかったけどね。そうそう、右近君の分の煮魚とハンバーグは冷蔵庫の中に入れておくからバイトが終わった後でも食べに来てね。政虎なら夜中まで起きてると思うし」

「ありがとう。軽く賄いは出るけどサンドイッチとかしかないから助かるよ。じゃあ、またね」

 残される三人で鬼仏院右近を見送ったのだけど、三人でゲームをやってもそんなに盛り上がらなそうだという事でいったんゲームはやめてテレビでも見ようかという事になった。

 俺は普段あまりテレビを見ないので今日何の番組をやっているのか知らないのだが、崎唯がどうしても見たいという番組があるそうなのでソレを見ながらご飯を食べることにした。

 いつもより早い時間の晩御飯になってしまうのだけど、あんまり遅い時間になってしまうと二人とも帰りが心配になってしまうだろう。さすがに鬼仏院右近がやってくるまで残っているということは無いと思うけど、鵜崎唯が見たいという番組が終わる時間は結構深い時間になっているんだよな。もしかしたら鬼仏院右近と入れ違いになって俺が二人を送りに行ってるかもしれないな。その時は鬼仏院右近に連絡を入れておけばいいだけの話ではあるのだけれど、さすがに夜中に玄関で待たせるというのは良くないことにしか思えないのだった。

「そう言えばさ、唯ちゃんはもうぬいぐるみ作ったりしないの?」

「作る予定はないかな。今のところあの子だけで十分だし、中身を集めるのも大変だからね。新しく作るよりも中身を交換する感じになっちゃうかな」

「そう言えばそうだったね。ぬいぐるみの中身って集めるの大変そうだもんね」

 鵜崎唯の部屋に入って見た事があるぬいぐるみは例の魔法陣の中心に置かれていたぬいぐるみだけだと思うのだが、あのぬいぐるみが手作りだったとしたのならちょっと怖いものがあるな。自分で作ったと思われる魔法陣の中心に自分で作ったぬいぐるみを置いて何らかの儀式をしていると考えると、完全に普通ではない何かおかしい人を想像してしまうな。

 でも、魔法陣のインパクトが強すぎて俺の視界にそれ以外のモノが入っていなかっただけかもしれないな。それに、ぬいぐるみを手作りするなんて凄いことだと思う。炊事に再訪も出来るなんていい奥さんになるんじゃないかなと思って見たけれど、こんな事を言ってしまったら髑髏沼愛華に物凄い顔で睨まれてしまうなろうな。今日みたいにゲームで負けて機嫌が悪い時に俺が鵜崎唯を褒めると髑髏沼愛華は氷よりも冷たい視線を俺に向けてくるのがわかり切っているのだ。

「じゃあ、料理の仕上げは愛華ちゃんにお願いしちゃおうかな。私はその間に気になってるお風呂場とトイレの掃除をしちゃうね」

「え、掃除とかいいよ。休みの日にやっちゃうから」

「そんな事言って、政虎は絶対に掃除なんてしないでしょ。前に遊びに来た時もチラッと見たけど、このまま掃除しなかったらお風呂がぬるぬるしてカビも生えちゃうかもよ。私が使うわけじゃないから別にそれでもいいと思うけどさ、汚いのは体にも良くないと思うんだよね」

「でもさ、さすがに掃除までしてもらうのは悪いって。俺も何だか気まずいし」

「大丈夫だって。私が家事全般好きなのは政虎も知ってるでしょ。だから、気にしないで私に掃除をさせてよ。こういう中途半端に掃除してる状態が一番気になるんだし、このまま放置してたら毎日掃除しに来るからね」

 掃除はそれなりにしているのだ。あくまでもそれなりにしかしていないので鵜崎唯にしてみたらしていないと同レベルなのかもしれないが、俺は男の中では割と掃除をしている方だと思うのだ。でも、さすがに風呂もトイレも掃除してもらうというのは申し訳ない気がするんだよな。ここで断ったら本当に毎日掃除しに来ちゃいそうだし、ここはどっちかで妥協してもらうのが一番だろう。

「じゃあさ、俺がどっちかの掃除をするからさ、それで妥協してもらえないかな?」

「別にそれでも私は良いんだけどさ、政虎は本当にちゃんと掃除できるの?」

「もちろん出来るって。な、それでいいよな。風呂もトイレも掃除してもらうって事は何もしないで待ってるだけの時間があるって事だと思うし、さすがに黙って待ってるだけってのは俺も辛いからさ。頼むよ」

「うーん、そうだね。じゃあ、私はお風呂の掃除をするから政虎はトイレを綺麗に掃除してね。ちゃんとピカピカにするんだよ」

「ああ、前に鵜崎が買ってくれた掃除道具を使って綺麗にするよ」

「あのさ、私から一ついいかな?」

 鵜崎唯との話がまとまったところで髑髏沼愛華が俺に鋭い視線を向けてきた。いつも俺に向ける視線だけ鋭利な刃物のように鋭いのだけれど、たまには朗らかな笑顔で話しかけてもらいたいもんだ。でも、髑髏沼愛華が笑顔を向けるのって鵜崎唯だけのような気がしてるんだよな。

「な、何かな?」

「私はトイレ使いたいんだけど、私が使った後のトイレをすぐに掃除するって事なのかな?」

「いや、さすがに使った直後は掃除出来ないよな」

「それならいいけど。私の使ったすぐ後のトイレに入りたいとかいう変態じゃなくて良かったわ」

「今までだって使ったすぐ後にトイレに入った事なんて無いだろ。そんなのに興味なんて無いって」

「でしょうね。じゃあ、これからトイレ借りるからあんたはテレビの前で待ってなさいよ。なに、使った後のトイレには興味はないけど使っている最中のトイレには興味でもあるの?」

「いや、そっちも興味無いって」

 俺もこの場で黙って髑髏沼愛華がトイレを使い終わるのを待つつもりはなかったのだが、あらためてそう言われると俺が髑髏沼愛華の使用しているトイレに興味を持っているんじゃないかと思われているようで何か癪に触ってしまう。でも、本当にそう言うことにも興味はないんだ。

 変な言いがかりを付けられても困ってしまうし、俺はさっきみたいにテレビの前のいつもの場所に座ってどこかでやってる町おこしのニュースを眺めていた。こんな時間にテレビでニュースを見ることなんて今までなかったので気付かなかったが、意外と世の中は色々なことが起きているのだと実感させられるのであった。

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